はっちゃんZのブログ小説

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2.選挙演説(第8章:占い死)

馬場元総理がテロリストに襲撃され亡くなってから3年経った夏のある日。
その事件が話題にも上らなくなった現在の日本では、
衆議院選挙」に突入し、都内を数多くの選挙カーが走り回っている。
駅前や商店街の広場で多くの政治家が立ち合い演説をしている。
「皆さん、皇国民主党幹事長の藤波正洋でございます。
 我が党は現在の猪木辰巳総理の下で一致団結し
 日本を良くするために日夜粉骨砕身で頑張っています。
 最近ふと思い出すことがあります。
 日本中いや世界中に大きく報道され多くの国民がショックを受けた事件、
 演説中に馬場元総理がテロリストに襲われ亡くなった事件を覚えていますか?
 もうあれから3年も経ちます。
 その間に日本はどうなりましたか?
 円高の時に海外へ出て行った工場は国内へ戻らず、
 政府が規制緩和をしても経済は停滞し、国民の賃金も上がらず、
 更に独身者も増え出生率も下がり人口は減り始め、
 多くの国民の皆様は明日への希望も持てず、
 下を向きながらその日その日を必死で生きているのではないでしょうか?
 その上、近隣国家から四六時中日本の領海領空侵犯をされ、
 日本の固有領土にも関わらず不法占拠されている現状です。
 そしてもはや終わった先の戦争中の事柄を、言いがかりに近いですが、
 トップが変わるたび約束を反故して繰り返して非難してくる国もあり、
 皆さんも憤懣やるかたないと感じる方も多いと思います。
 それは与党である皇国民主党が原因だとおっしゃる人も多いですが、
 我々は国民の皆様の幸せと明るい日本の将来を考えて、
 各政党の話に耳を傾け、その政策の良い所は取り入れる姿勢は変わりません。
 ですが、実際は、改善案もなく、単なる週刊誌ネタに始終して
 自らの過去の行動の評価は一切せず、パフォーマンスだけの
 結局は欠席して決議をさせない行動ばかりしている野党に困っています。
 我が党としては数の力でそのまま決めてしまっても良いのですが、
 そんな独善的なことをするといけないと猪木辰巳総理は考えてます。
 その歩みは遅いと感じるかもしれませんが、
 国民の皆様一人一人を確実に納得させて進めていきます。
 そういう国民全員が参加して話し合う暖かい政治を目指したのは、
 さきほど話した馬場元総理であり、私の人生の先輩でした。
 彼の生き様、思いを胸に議員として今まで生きてきました。
 私は彼の意思を引き継ぎこの日本を国民皆が胸を張って
 日本国国民だと世界へ言えるすばらしい国にしていきたいと思っています。
 先の世界的経済ショックの後、円高になり輸出産業を始めとして
 多くの産業が国外へ出て行き、国内産業は目も当てられない有様になりました。
 それを元に戻すためには、苦しい辛い臥薪嘗胆の時もあると思います。
 しかし、その時期を一緒に過ごした後は栄光の日本が待っています。
 皆さん、我が党皇国民主・・・グッ・・・くる・・し・・・」
突然、演説中だった次期総理の呼び声も高い藤波正洋氏は胸を抑えて倒れた。
周りの関係者が慌てて、倒れた藤波正洋氏の元へ集まり大騒ぎとなる。

その時、藤波正洋氏の演説する向かいの場所にちょうど別の候補が現れた。
大騒ぎの皇国民主党藤波正洋氏の演説場所を見つめている。
しばらくして藤波正洋氏が救急車に運ばれて喧騒も納まった頃、
マイクから第一声が流れた。
「こんにちは、令和獅子党党首の木村千種でございます。
 さきほど皇国民主党藤波先生に何かあったようで心配です。
 この旗印、よく皆様にご質問されるのですが、
 この獅子の鬣にある太い10本の黒の毛の束は、
 我が党と皆様との十の約束を現わしています。
 今年で我が党が結党されて3年目、
 皆様のおかげで順調に議席数も増やし、
 与党である皇国民主党と一緒になって
 与党の一員として国民の皆様の幸せのために
 毎日獅子奮迅、精一杯がんばっています。
 世界中がパワーゲームに明け暮れている現在において、
 この日本をどの様に前へ前へと進めていくかは皆様の気持ち次第です。
 まだまだ日本は良くなります。明日を夢見て頑張っていきましょう」

細面、理知的な切れ長の目、高い鼻、真っ赤な唇の木村千種の
静かでありながらも力強い口調の演説が終わり、マスコミがマイクを向けている。
その中で木村千種氏は驚くべきことをマスコミへ話した。
「藤波先生のことですが、実は先日藤波先生の秘書の方へ、
 ご体調が悪くなりますのでお気をつけて下さいと申し上げました」
「ご存知だったのですか?」
「はい、先日我が党の創始者であるシシトー神姫巫女様へ
突然にそういう内容のご神託があったのです。
ですから急いで藤波先生の秘書様へ連絡いたしました」
「えっ?あの良く当たると言われている占い師の・・・」
「はい、今も予約が無いと会えないほど忙しい中で、占いをされております。
 この日本のために毎日毎日祈っております」
近くに駐車されている令和獅子党の選挙カーの中には、
シシトー教団教主秘書の『|宍戸《ししと》 |鷹《おう》』が居た。

3年前の馬場元総理襲撃の折、
マスコミの寵児となった『|宍戸《ししと》 |鷹《おう》』だったが、
その時から全国の各都市に支部が出来始め、今では10支部となった。
姫巫女に面会した多くの人間が入信し、インスタグラムや口コミも手伝って
若い層を中心に信徒が一気に増え始め、その数は50万人とも言われている。

この3年間の間に日本では、
様々な事が起こりマスコミの話題になっては泡の如く消えて行った。
日本には年間数万人の自殺者やそれ以上の行方不明者の存在もあり、
この世は病気や交通事故、強盗や虐めや私怨などによる殺人、
その時々に有名人又は有識者の動静が報道を賑わせている。
今太閤と呼ばれた元総理大臣の病死。
日本を牽引してきた政治家へのテロ行為。
次期総理候補と呼ばれる政治家の突然死。
将軍と呼ばれた自衛隊の要である幕僚長の病死や入院による引退。
経団連の重鎮と呼ばれる複数の長老の病死や入院による引退。
新進気鋭のベンチャー企業の若手社長の病死。
多くの労災を出してブラック企業の若い経営者の入院による引退。
防衛産業の要である重工業会社社長の病気による社長交代。
感染症による右翼のフィクサーと呼ばれている元政治家や
左翼の実力者と言われた活動家である政治家や総会屋のトップの突然死。
マスコミの中でも右翼左翼と言われる編集長の死や社長の病気による引退。
政治的論争においてテレビや書物で有名な右左翼評論家の死。
多くの残虐な殺人鬼の獄中死や新興宗教の教祖の突然死。
炎上を目的として非人道的・非道徳的な行動を社会へ発信するユーチューバーの死。
世界に目を向けると、
突然発生し拡大する新型ウィルスの感染症による死、
欲望のため突然始まる侵略戦争による大量破壊兵器による死、
異常気象による飢餓での幼児の大量死、
後進国において燃やされず処理されず廃棄される汚染物質の影響による死など、
このように人間の死の氾濫は日常となり、国民の多くは『人の死』に慣らされていく。