はっちゃんZのブログ小説

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6.霊査2(旧宍戸家夫婦、鷲と鈴女の部屋)(第8章:占い死)

囲炉裏のある居間を出て各部屋へ入って行く。
残された家具などで何となく誰の部屋なのかがわかった。
母親の鶴の部屋には、古い小さな箪笥や卓袱台が残されている。
それらからは、若い夫婦の穏やかな楽しい生活から子供の生まれた喜びの日々が伺えた。
しかしある時を境に夫の隼の態度が変わり深酒し暴れる様になっていく。

それは長男の鷹が中学生となり一緒にお墓の掃除をしていた時のことらしい。
隼が妻の鶴に伝えた状況は以下だった。
隼が忘れ物をして家に戻り荷物を持ってお墓へ向かったおり、
石舞台状の正面の四角い切れ目の
今まで開く事の無かった『シシトー神殿』の扉が開いていた。
隼は初めての光景に驚いて、その場で腰を抜かした。
隼としては正面の四角く彫られた切り口は、
今まで単に深い筋を表面に彫っただけのものと思っていたのだった。
まさか本当に扉になっているとは考えていなかったのだった。
そしてなぜか透明の膜の様な物が入り口には張られ
現在宍戸家の長である隼でさえその中へ入ることが出来なかった。
その時、隼は息子の鷹が、シシトー神に選ばれた者であることを悟った。
なぜ今までずっとお世話してきた自分は相手にされず
たまに世話する息子が選ばれた理由がわからないと酒を飲むたびに荒れた。
それとは別のシーンでは、
鷹がその石舞台の中にある石箱を覗き込んだ時、
一瞬何か赤黒いモノが鷹の顔に向かって伸びあがり
顔へ貼り付きすぐに消えてなくなったことを
目の錯覚だったかもしれないと不思議そうに話している。

隼の酔っ払った言葉から読み取れることは、
その扉はこの神殿が出来て以来過去数千年間開いていないとされている事。
宍戸家に伝わる秘伝書にも、
最初シシトー神を祀って以来開くことは無かったと記載されている事。
隼も幼い頃から父親の梟を手伝っていたが、
扉が開くことや神殿の中を見るのは初めてだった事。
隼もその中へ入ろうとしたが何か透明の膜のような物に阻まれて入れなかった事。

次の部屋のドアを開けると
机と使われなくなった古い小さなディスプレイがある。
どうやら次男の鷲の部屋のようだ。
遼真はその古いディスプレイでサイコメトリーを行った。
当時の鷲の状況が流れてくる。
学校の授業が終わるとすぐに家へ帰り部屋に籠り画像の編集に集中している。
画面の中では、普段と違い少しだけ明るい風にしているようだ。
撮影が終わるとため息を吐いて背伸びしてコリをほぐす様に首を回している。
テーマは「不思議な世界」で世の中の都市伝説を取り扱っている。
このテーマは、古くからずっとアルアルなテーマなため、
最近の話題に変えて作品を作ればそれなりに暇つぶし目的の視聴者は稼げた。

次男の鷲のハンドルネームでネット検索すると多くの作品がヒットしてくる。
その中に「丹波篠山、暴走族、謎の大量死事件」という作品があって
「天罰だ」とか「現代の怪談だ」とかの多くのコメントが寄せられている。
画像には死んだ暴走族の行状らしき画像も含まれており、
彼らがシンナーを吸うために屯していた場所や
彼らが土日の集会などで集まった画像もふんだんに使われている。
結局は、集団シンナー中毒による死亡と報道されているし、
社会から外れた行動していた彼らには憐みや悲しみのコメントは一切無かった。
しかし不思議な事にそれら多くのコメントの中には、
地元で噂され関係している思われる宍戸家や鈴女の情報は一切見当たらなかった。

遼真は次男鷲の部屋を出て隣の部屋へと入った。
扉を開けて入った途端籠っている甘い香りに気がついた。
本棚や机も可愛い色柄で鈴女の部屋だったことは明らかだった。
遼真は机の一番上の引き出しを開けると
手前に小さな「ヒヨコ柄の匂い袋」が仕舞われてたことに気付いた。
そっとその匂い袋を両手に挟み、サイコメトリーを行った。
昨日鈴女の情報を話してくれた高巣雛子の当時の顔が浮かんでくる。
二人で登下校したりお祭りに行って笑い合っている光景が浮かんで来た。
夜祭りの屋台でりんご飴を買って帰る二人。
「じゃあね。鈴女、明日東京へ帰る前にもう一度会いたいね」
「うん、わかったよ。今日は楽しかった。誘ってくれてありがとう」
「うーうん、私こそ、鈴女に会えて嬉しかった。私も大学は東京を目指すね」
「うん、待ってるね。じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ」

遼真は一瞬嫌な予感がしてここから真美には映像を送らなかった。
「真美、しばらくは映像が送れない。また連絡するね」
「遼真様、何かあったのですか?大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよ。ちょっと込み入った内容だから後でまとめて送るから」
「はい、待っていますね」

匂い袋からの映像は途切れる事無く流れ込んでくる。

しばらくして鈴女の周りに暴走族のバイクが集まり始めた。
逃げようとしてもその方向へバイクが急に出てきて逃げることが出来なかった。
「何か用ですか?やめてください」
と叫ぶも暴走族の男達はエンジンをブンブン吹かすだけだった。
この辺りには民家は無く、一番近いのがまだ遠くにある宍戸家だった。
大きなバイクの身体が大きいボスらしき男が降りると、
逃げようとする鈴女を抱き竦めて
ニヤニヤしながら持ち上げてバイクの後ろに乗った仲間へ渡した。
「やめて、お願い、降ろして」「誰か助けて」と叫ぶも、
多くのバイクのエンジンを吹かす大きな音に消されてしまう。
鈴女はその場所から連れ去られ遠くの山の中へ連れ込まれた。
最初は必死で抵抗していたが、
ボスらしき男に意識が無くなるくらい殴られ、
気がついたら洋服も下着も剝ぎ取られていて、
誰も触れさせたこともない大切な場所へ無理矢理ねじ込まれた痛みで意識が戻った。
その後は、死体を漁るハイエナの様に5人の暴走族仲間に何度も犯され、
意識が無くなっては頬を殴られ意識を戻され、身体中を彼らの精液で汚された。
そして、事が終わった後、
失神している鈴女はその場に捨てられていた汚い毛布に巻かれて
宍戸家の近くの道端へゴミの様に捨てられていた。
帰って来ない娘を心配していた母親の鶴が、
夜中のバイクの音に気付いて恐る恐る歩いて来ると
汚い毛布に巻かれた傷だらけの全裸の娘を見つけた。
母親の悲鳴を聞いた鷹が家から走り出て来て、
毛布に巻かれた傷だらけの娘を抱いて放心している母親を見つける。
警察に連絡しようとする鷹を母親は必死で連絡することを止めさせた。
娘が傷物との噂になることを恐れたのだった。
鷹は毛布のまま鈴女を抱き上げて急いで家へ入り、
すぐに鈴女を風呂場へ運び、身体の汚れ取りは母親に任せた。
物音に気がついた鷲が自分の部屋から顔を出して心配そうに鷹を見て来た。
鷹は厳しい顔をして、左手に「ヒヨコ柄の匂い袋」、
右手に白い枝の様な物を握り締めてじっと中空を睨んでいる。
その視線は、天井ではなく遠くの空間を見ている様な視線だった。

翌朝、太陽が昇る前に鈴女は自らの悲鳴で目を覚ました。
隣に添い寝していた母親が抱きしめて家の中であることを伝えて安心させる。
そして家に常備している酷い傷用の強力な睡眠薬を飲ませて眠らせた。
翌日昼前に鈴女の友人の雛子から電話があったが、
『学校関係で急用ができたので東京へ帰った』と伝えた。
身体中にある擦過傷は、猟師の家なので怪我の治療用の薬もたくさんあって、
化膿止めを塗り包帯をして保護し、抗生物質も飲ませた。
鷹は鈴女の妊娠の可能性も考えて急いで東京へと向かった。
その間に近くの産婦人科へ予約し母親と産婦人科へ行かせ
その日のうちに妊娠の有無の検査とアフターピルを飲ませた。
このアフターピルとは、避妊に失敗したり、性犯罪に巻き込まれたりした際、緊急的に妊娠を阻止する薬のことで、性行為後72時間以内に服用しなければ十分な効果は得られず、
24時間以内に服用した場合は、95%は妊娠を阻止できるといわれている。
以前は産婦人科受診でしか処方できなかったが、2019年以降、婦人科受診に精神的な負担を感じたり、処方する医療機関の受診が困難な患者を対象にオンライン診療での処方が可能となっている。
家族の祈りも効いたのか何とか最悪の望まぬ妊娠は回避できた。
しかし被害者となった鈴女は精神的に不安定となり、
その日から休学させ静養し定期的にメンタルクリニックへ通わせる日々となった。

その後、鈴女を襲った暴走族メンバーは、
シンナー中毒となり全員が輪になって河原で死んでいるところを
地元の散歩している人が見つけて全国へ発信される大ニュースとなった。
その事件後、鈴女は一度だけ実家へ戻って友人と会い話をして帰った。
この匂い袋を見るとあの事件を思い出すので嫌だが、
親しい友達の気持ちも大切にしたい鈴女が
捨てることもできず悩んで引き出しに入れたままにしている。
この匂い袋は事件の最初から最後まで鈴女の掌に握られていたことがわかった。
「真美、そろそろ送るからね。
 ちょっと危ない顔した男ばかりだから驚かないでね」
「わかりました。大丈夫ですよ。慣れていますから」
遼真は、暴走族の男達の顔を真美へ送り、真美はその映像を念写した。