はっちゃんZのブログ小説

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7.霊査3(旧宍戸家鷹の部屋)(第8章:占い死)

廊下の一番奥の長男の鷹の部屋は、
綺麗に掃除されており机と椅子くらいしかなかった。
机の一番上の引き出しには、
真ん中に綺麗に折りたたまれた分厚く白い布と
その下に並べて置かれた白い長さ約20センチほどの
ちょうど両端が関節状の節のある骨状の物が入っており、
その他の引き出しの中には何も入っていなかった。

先ずは机をサイコメトリーしていく。
鷹は毎日遅くまで勉強をして成績も優秀であることがわかる。
たまに古文書らしき本を読んでいる。
『宍戸家秘伝書』と表紙には記載されている。
記載されている文字の色は、赤黒くなっており墨だけではないと思われた。
時々、鷹は鼻を近づけて匂いを嗅いでいる。
そして、首を傾げて『赤い墨かと思ったけど違ったか』と呟いている。

中学1年生の時、偶然蔵の掃除をしていて、
厳重に保管されていた古文書を見つけて、
父へ貸してもらう様にお願いしたのだった。
最初は古い文字のため解読が難しかったが、
古文書の読み方などの本を町の図書館で借りて、
毎日勉強の合間に少しずつ勉強をしてからは少しずつ読めるようになった。
そこには宍戸一族の歴史とシシトー神についてのことが記載されているようだ。
秘伝書の中身まではわからないが相当に古い時代のものと思われた。

次に分厚く白い布にサイコメトリーを行った。
鷹が父親と一緒にお墓を掃除し始めた姿が映り始めた。
父親の隼が、『忘れ物をした』と言って母屋へ戻っていく。
鷹は気にせずに正面にある大きな石が組み合わされた石舞台を拭き始めた。
正面に回って来て、四角く切り目の入った部分を拭いている時、
『ガタン』と音がして、その切れ目の部分が外れた。
鷹は一瞬驚いたが、
そこから見える中の空間はいつも掃除されているかの様に綺麗だったため、
鷹は『きっとお父さんが掃除をしている時にはこの中も綺麗に拭いている』と考えた。
そしてすぐさまその神域へ入って行く。
石室の真ん中には、表面がツルツルの石で作られた高さ50センチ位の台座の上に、
一辺20センチほどの正立方体の大きさの石で出来た箱が設置されていた。
鷹はそれらの内壁や部屋の真ん中にある石の台座や石の箱を丁寧に拭いた。
やがて父は忘れ物を取って戻ってきたが、
中には入って来ず驚いた様子でこちらを見つめたまま地面に尻餅をついている。

その時、その小さな箱の蓋が開き始めている。
「お父さん、この小さな石の箱って、大事な物やないの?
 お父さんも入って来て見てみいよ」
父の隼はなぜか入ってこない。
入口に立ったままじっとしている。
「・・・鷹、
 それはとても大事なものやから丁寧に拭いて綺麗にせえよ」
「僕がしてええの?お父さんがするべきやないの?」
「・・・いや、お前がすればええ。きっと神様も喜んどると思う」
「そうなん?あれっ?蓋が開いとる」
石の箱を覗き込んだ時、一瞬赤黒い何かが見えたがわからなかった。
「・・・中に、何が・・・うっ・・・」
「鷹、大丈夫か?」
「・・・うん?あれっ?
 一瞬意識が無くなった様に思うたけど・・・気のせいやな」
いつの間にかその正立方体の石の箱の蓋は閉じられているようだ。
「鷹、その石の箱には何が入ってたんや?」
「うーん、何だったかな?覚えてないわ。
 それにもう蓋が閉まってもうて開けれれへんわ」
「そうか・・・まあええわ。その中を綺麗に拭いたらもう出て来ていいぞ」
「うん、ここは扉あったんやね・・・知らんかったなあ」
父親の隼は、不満と羨望に染まった何とも言えない目で鷹を見つめていた。
その時、その父の視線を鷹は見ていなかった。

次に白い約20センチほどの骨状の物に触る。
山の中の風景が流れ込んでくる。
家に近い山道にある藪が揺れて突然大きなイノシシが飛び出して来た。
よく見ると後ろ足から血を流している。
すごく興奮していて、一瞬止まりこちらを睨んでいる。
鷹は突然のことで驚いて身体が動かなかった。
鼻息も荒く鋭い牙を閃かせ叫び声を上げてイノシシがこちらへ向かってくる。
口元の長い鋭い牙が噛み合わされて頭から突っ込んでくる。
思わず後ずさった時、
地面から出ている根に足を引っ掛けてお尻から倒れてしまった。
イノシシの牙は長く鋭いため、
切られる場所によると死ぬこともあると言われている。
鷹はイノシシから逃げる様に、
両手を前に出して絶望感から空に向かって叫んだ。
「神さん、助けて。あんなんに襲われたら死んでしまう」
その瞬間、
イノシシは『プギャー』と叫び声を上げて
突然イノシシのスピードが落ちると尻餅のついた鷹の足先に倒れている。
足先でそっとイノシシの鼻を軽く蹴って確かめる。
四つん這いで恐る恐る近づいてイノシシを見ると
そのイノシシは口元から血の混じった泡を噴いて既に死んでいる。
鷹の右手にはなぜか動物の白い骨の様な枝が握られていた。
尻餅をついた時、手の付いた下に偶然あったと思われた。
「えっ?
 なんで?
 このイノシシ死んだん?
 この枝かな?骨かな?
 これに何か力があったんかな?
 そんな筈はないから偶然か・・・きっと神さんやな。
 何かようわからんけど、神さんありがとうござました。
 今晩は、このイノシシを神さんへ捧げます」
鷹はその場で空に向かって手を合わせて、
イノシシの足に紐を掛けて引っ張って家へ帰った。
家に居る父へイノシシに襲われたけどなぜか死んだことを伝えると、
「それは神様のお陰やな。きっとお前を守ってくれたんじゃ」
とその場で空に向かって手を合わせて感謝している。
父はすぐにそのイノシシを解体して、
大きな心臓を取り出すとすぐに墓の奥にある石舞台の正面に祀った。
その神への感謝祭は、
父が猟をして獲物を狩った時にも必ずしているものだった。
翌朝になるとカラスにでも喰われたのかイノシシの心臓は無くなっている。
その夜から宍戸家はしばらくの間、イノシシ肉の鍋や串焼きを堪能したのだった。
その翌日学校でそのことを友人に話すと、
里の近くで大きなイノシシに襲われたことにも驚いていたが、
突然死んだ話をすると『それは不思議やわ』ともっと驚かれた。
それ以降、鷹はポケットの中にその骨状の枝をいつも入れる様になった。

次に流れて来たシーンは、囲炉裏端で父の隼が暴れている光景だった。
「父さん、もう止めて、お母さんが血を流しとる」
「うるさい。お前が大学に行きたいとか言わなんだら良かったんじゃ」
隼は大きな身体で立ち上がり鷹の胸倉を掴むと鷹の頬が張られた。
鷹は大きく吹き飛ばされて後ろの箪笥へぶつかり強く頭を打った。
しばらくすると額が切れたのか右目に額からの血をが流れ込んできた。
廊下側を見ると
鷲と鈴女も急いで逃げて襖の陰からそっと怖そうに父親を見ている。
「お前もお前であかん言うたらあかんのじゃ、
 ほんまにいつもいつも同じことを言うんわ止めれや。
 なんでわからんのじゃ」
隼が囲炉裏端に座り込んでる鶴の胸倉を
片腕で掴んで持ち上げて鶴の頬を張ろうとした。
「父さん、止めて。母さんに酷いことせんといて」
鷹はポケットの中にあるお守りの枝を握っている。
その時、
「うっ、あっ、痛い、苦しい、どないしたんじゃ、なんでじゃ」
突然、父の隼が鶴の身体を放すと胸に手を当てて苦しみ出した。
そしてその場で倒れると苦悶の表情で身体を捩じり始めた。
「うっ、ううう・・・」
「!?お父さん、どうしたん?大丈夫?」
鶴が驚いて急いで倒れた隼の近くににじり寄るとその身体を抱いて揺すった。
「ううう、くるし、ぎゃあー」
倒れた隼は、鶴を振りほどくとすでに青黒い顔色となり
囲炉裏端でバタバタと海老反りになって暴れて苦しんでいる。
鷲と鈴女は驚いた様に父親の苦しむ姿を見ている。
やがて父は静かになった。
そこまでの映像が流れ込んで来たので真美へと送り念写してもらった。

次に流れてきたシーンは、
山の中で破れて汚れた洋服や下着が散らばっている場面だった。
鈴女が目を覚ます前に鷹は、現場へ急行し破れた服や下着を集めて戻り、
それらを白い袋にまとめて入れて大きなボストンバッグに詰め込み、
東京へ戻るとすぐにそれらは焼却された。

最後に流れて来たシーンは、
河原で暴走族が屯している姿が見え始めた。
彼らは煙草や酒を飲みながらシンナーをビニル袋に入れて吸って騒いでいる。

『!』

その時、キインが何かを警戒するように辺りを見回して、
体毛を毛羽立たせて、同時にその口より空中へ炎を吐いた。
同時に遼真も何者かからの視線を感じた。
その視線に殺意は無いが自らを見られた事を認識した視線だった。
夢見術もそうなのだが、相手の世界を見る時は、
逆に相手からも見られる可能性もあることを常に意識しておかなければならない。
遼真は、身体へ『身代わり護符』を貼っているが動かず霊的な気配を断った。
しばらくその視線が遼真のいる辺りを彷徨っていたがいつの間にか感じなくなった。
後で確認するとその身代わり護符は真っ二つに切れていた。
もし仮に事前にこの護符を貼っていなければ、
この瞬間に遼真は憑依されたか命を失った可能性があった。
それほどにその何者かの力は強力であった。