桜舞い散る中、新入生がキャンパスで光り輝く未来を夢見て歩いている。
翔は、政治経済学専攻の3年生だが将来をまだ見出すことも出来ず、
ただただ鬱屈した日々を送っていた。
大学の帰り道にガラの悪そうな数人が一人の女性を囲んでからかっている。
その女性は怖がる風もなく、彼らをじっと見ている。
「あれえ、このお嬢さん、俺たちを怖くないのかな?
という事は付き合ってもらえるのかな?じゃあ、暗い所へ行こうよ」
「いやです。この道を通して下さい。なぜこのような事をするのですか?」
「なぜ?決まってんじゃん。楽しいからだよ」
「楽しい?わたくしは楽しくありません」
「これから、俺たちと付き合ってくれれば楽しさがわかるぜ」
「結構です」
「そう言わずにさあ」
翔は彼らが嫌いだった。
一人一人は弱いくせに徒党を組んで一般の人を怖がらせて喜んでいるからだ。
もっと違うことに情熱を傾けるべきだと考えているからだ。
「おーい。俺の彼女に何の用かな?」
「彼女?いいよなあ。こんな綺麗な彼女で、俺たちにもお裾分けしてくれよ」
「おい、馬鹿なこと言っていないで、もうどこかへ行けよ」
「女の前だといい恰好する奴は嫌いでよお。なあ、みんな?
この彼氏、みんなに袋にされたいんだとよお。ご希望通りやってやろうぜ」
翔は、ここにいる奴らを全員病院送りにできるが、
そんなことをしても実家の爺さんは喜ばず、
なぜ目立つことをしたと叱られるので、
手間はかかるが全員、諦めるまで逃げることとした。
奴らは翔を囲んで一斉にかかろうとするが、
翔とすれ違った瞬間から尻もちを着いて歩けなくなっていく。
囲んでいる奴らは全員???の状態で戦意は消失している。
簡単な技で足の根元のツボを軽く指で突くだけで力が抜けて立てなくなるのだ。
奴らは足を引きずりながらこの不気味な男から逃げていく。
「すごい技ですね。誰も傷つけることなく闘いを終わらせる。
相当に修行されましたね」
「???」
「失礼しました。あまりの技のすばらしさにお礼が遅れました。
私は、このたびこの大学の薬学部に入学しました『館林百合』です。
さきほどは危ない所を助けて頂きありがとうございました」
「危なかった?今の落ち着きを見てわかったよ。
君一人で奴らを何とかできたのじゃないか?と思えるんだが・・・」
「いえ、そんなことはありません。女一人であの人数は捌けません。
実は私はあまり表情にでないタイプですから誤解されるのです。
本当に大変助かりました。ありがとうございました」
「俺は政治経済学部3年生の『桐生 翔』。今度は気をつけなよ」
「ああ、ちょっと待ってください。お礼・・・」
「いや、お礼はいま言って貰ったからもういいよ。じゃあ」
『館林・・・百合、どこかで聞いたことがあるような無いような名前・・・
あんなに綺麗で可愛いい子がこの世にいたんだなあ。
笑ったらもっと綺麗に可愛くなるのに惜しいな』と心でつぶやいた。
だが翔とは『住む世界の違う完全なお嬢様』であることはわかった。
『きりゅう・・・しょう様。すごい技を持つ殿方。
きりゅう・・・どのような字なのでしょうか?
でも、どこかでお会いしたような・・・
お聞きすれば良かったのでしょうか。いつかまたお会いできたら・・・』
(つづく)