はっちゃんZのブログ小説

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58.秋桜祭り

朝夕の風も冷たくなってくると北海道は、これからいよいよ冬へと向かい始める。
慎一は子ども達も2歳となり、そろそろ遠出も可能と考えて
9月14日は「コスモスの日」のため、九月中旬に少しだけ遠出を計画した。
行き先は旭川市オホーツク海に面した紋別市佐呂間町の|山間《やまあい》にある|遠軽町《えんがるちょう》だった。

ここの「コスモス祭り」はこの地域の祭りでは、春の「芝桜祭り」に並ぶ大きなまつりである。
このコスモス畑は、来年平成15年に「太陽の丘えんがる公園コスモス園」として、10haという広大な面積の花畑をオープンする予定だと新聞には掲載されている。
1000万本のコスモスが咲き誇る「日本最大級のコスモス畑」との謳い文句で行なわれる。

出発時間を子供達が眠っている早朝にし、
子供達の起き始める頃に観光の車で混み始める旭川市内を抜けておきたかった。
後部座席を倒してフラットにして、厚めの仮眠用布団を敷いて準備した。
子供達をそっと抱っこしながらそこへ寝かせて、荷物も積み込んだ。
マンションを出て、石山通りを北上して、札幌新道新川ICへ入った。
そこからは道なりに東へ向かい札幌北IC,伏古IC,雁来ICと進み、札幌北ICから道央道へ入る。

徐々に昇る太陽に照らされ、広大な北海道の大地が目覚め始める。
江別市岩見沢市を通過した際は、まだまだ街は眠っている気配だったが、
梅園で有名な三笠市や鶏肉・鶏レバー・内卵・砂肝・心臓などの内臓とタマネギを一つの串に刺して炭火で焼く独特の焼き鳥で有名な美唄市を通過する頃には多くの車が街を走り始めている。
そこから地元米「ふっくりんこ」、バター羊羹、肉厚しいたけで有名な奈井江町
独特の香りと味の「おぼろづき」とスイーツロードで有名な砂川市、
お土産に最適なモンモウ、林檎ロマン、滝川旅情などで有名な滝川市
「ほしのゆめ」「きらら397」「ふっくりんこ」などの米と全国2位の蕎麦の産出地である深川市
もうここまでくると中間地点の旭川市も目の前で子供達も起きて遊び始めて車内が慌ただしくなり、どこかで休憩を入れる事となる。
旭川市は「旭山動物園」「三浦綾子記念館」などを始めとして多くの観光場所があるが、今回は休憩だけのつもりだった。特に「旭山動物園」は一番行ってみたい場所だが、子供達が3歳になり抱っこしなくても自由に動けるようになれば最初に来るつもりだった。
旭川市には旭岳と言う大雪山連峰の主峰で、標高2,291メートルを誇る道内一高い山があり、日本で最も早く紅葉が訪れる場所でも知られている。

美瑛・富良野に行く時には降りた旭川鷹栖ICを超えて、
次の比布大雪サービスエリアで車を停め、トイレと静香の作ったおにぎりの朝食を取った。
天気も秋晴れで暖かい日差しが気持ち良かった。
雄樹と夏姫はどこにいるのかわからないが久しぶりのドライブで嬉しそうにしている。
最近は二人を抱っこするにも重くなってきており、結構長い時間だと腰に来るケースがある。

車内で子供達の好きな歌を流し、みんなで一緒に歌いながら
比布JCTで比布北ICに向かい道央道を降りて、旭川紋別自動車道へ入り道なりに進む。
愛別町、上川町からは右側に紅葉の始まった大雪山が見える。
本当に北海道はどこからどこを見ても雄大で太古からの自然の息吹が感じられる。
そこからは長いトンネル(かみこし、なかこし、北大雪、白滝)を潜り、白滝の湧別川沿いを北上し|丸瀬布《まるせっぷ》まで来ると遠軽町は目の前だった。遠軽ICで降りて道路際に花が小奇麗に並べられた置戸国道を進み、湧別川を渡るとコスモス祭りの看板が出てくる。

この遠軽町は、北海道の北東部、オホーツク管内のほぼ中央、内陸側に位置し、北は紋別市滝上町、東は湧別町佐呂間町、西は上川町、南は北見市に接しており、東西47km、南北46kmにわたる緑豊かな地域である。町を貫流する湧別川の上流側に位置し、支湧別川、武利川、丸瀬布川、瀬戸瀬川、生田原川、サナブチ川のほか多数の支流が合流し、そこに広がる肥よくな大地は、開拓当初から農耕地に適した環境として繁栄してきた。人口は約2万人、世帯数は約1万世帯というこじんまりとした町で、町の花はコスモス、
町の木は藤とエゾヤマザクラ、町の石は黒曜石、町の魚はヤマベ、町の蝶はオオイチモンジである。
ちなみに、|遠軽《えんがる》という地名は、アイヌ語の見晴らしのいい場所というインカルシ(inkar-us-i=眺める・いつもする・所)に由来しており、明治34年、郵便局開局を前に、札幌郵便局管理課員がインカルシにちなんで遠軽命名された。瞰望岩はアイヌの見張り場で、この見晴という字名(あざめい)こそ、インカルシを今に伝えていると説明されている。

さすが北海道は広かった。コスモス祭りの会場に着いたのは昼前だった。
比布大雪サービスエリアで買った簡単な食事を駐車場の車内で食べて早速公園へ入った。
駐車場から見ても遠くまでピンクをはじめ、赤、白、黄、オレンジなど様々な色に大地が染まっている。
ふと気が付くと身体中がフルーティな甘い香りに包まれている。
コスモスには香りがあるとは今まであまり意識をしていなかったが、これがコスモスの香りなのだと初めて慎一は知った。

コスモス(Wikipediaより)
語源はギリシャ語の「宇宙」の「秩序」を意味し、「コスモス」とはラテン語で星座の世界 = 秩序をもつ完結した世界体系としての宇宙の事である。対義語は、「カオス(ケイオス)」混沌である。メキシコにいたスペイン出身の聖職者が中南米原産のコスモスをみて、花びらが整然とバランスよく並んでいることに、ギリシャ語の(調和)と名付けた。

コスモスの花は、多くの種類があるようで
園内には頬に優しく触れる秋風に揺れる様々なコスモスが咲き乱れている。
花壇の板には種類が記載されている。
ベルサイユ・ラジアンススペシャル、ベルサイユ・レッド、
ベルサイユ・ホワイト、ベルサイユ・ピンク、スーパービッキー、
ダブルクリック、あかつき、ハッピーリング、日の丸、
シーシェル、チョコレートコスモス、黄花コスモス(サンライズ)、
黄花コスモス(ディアポロ)、黄花コスモス(マンダリン)、
この中でチョコレートコスモスは、名前の通りチョコレートの香りがしていたのは驚いた。
華やかな大輪のコスモスも小さく可憐に咲き誇るコスモスも
その一つ一つの花びらが見る人へ優しい笑顔を運んでくる。

「はくしょん、うーん」
雄樹はあまりに近づいて匂いを嗅ぎ過ぎて顔に花粉が付いてクシャミをしている。
静香が笑いながら息子の顔についた花粉を拭き取っている。
「とーたん、だっこ」
抱かれるのが好きな夏姫が父親へ向かって両手を上げる。
「お車で疲れたかな、なつき、おいでおいで」
と抱き上げるといつものように嬉しそうに首へ手をまわしてくる。
娘のスベスベのほっぺを頬に感じながら甘い香りの風に向かって歩く。
夏姫は抱っこされてじっとしてコスモスを見ている。
この頃、夏姫は母親の静香だけでなく美波にもよく似て来て本当に可愛かった。
ここに来た多くの人達がこの優しい色合いのコスモス畑をバックに写真を撮っており、
慎一には明るい子供達と静香の笑顔が印象的だった。

慎一は四季折々に様々な顔を見せてくれるこの北海道の大地をより好きになった。
美波は既に予定が入ってた様でこの景色を見せる事が出来なくて残念と思い、
それを静香に話すと
「この花畑の話をすると、どうせ彼とすぐに来るわよ」と笑っている。
それはそれで父親として少し複雑な感情が湧く自分に慎一は驚いたものだった。

しばらく鑑賞用通路をチョコチョコと子供達を歩かせながら
静かに綺麗な園内を散策して、公園の西側にある|見晴《みはらし》牧場へ移動した。
ここは見晴峠にかけて広がる213haの広大な遠軽町営見晴牧場だった。周辺の農家から預託された牛を放牧する公共育成牧場で、観光牧場ではないようだが、見晴という地名の通り、展望台からは湧別原野、オホーツク海を一望にできるのでこの場所を訪れる人は多かった。

展望台「看視舎」からは、湧別原野に立つ遠軽町のシンボル|瞰望岩《がんぼういわ》が斜め上から見える。
下からはわからなかったが、瞰望岩の上は平坦な台地になっていた。
看板には放牧地の広さは、213ha、例年130頭ほどの乳牛が、夏の間、放牧されていると記載されている。
広い牧場に放牧された多くの牛がゆったりと草を|食《は》む姿が見える。
コスモスの甘い香りを含んだ秋風が牛達を優しく包んでいる。
ふと視線を遠くへ運ぶと、何とオホーツク海が見える。
初めて見たオホーツク海の色は太平洋よりも蒼く、紫色を含む日本海よりもずっと青かった。

帰りは、少しの休憩で一気に札幌まで向かった。
子供達はコスモス畑や見晴牧場で結構歩いているので眠っている。
19時頃に家の近くまで帰ってきたが、国道沿いにある「びっくりドンキー石山通り店」へ入った。
この店は日本人が好むハンバーグに特化した店で、外装デザインの派手で目立つ上に、内装は木質材やアンティーク小物などを配置して何か童話の世界の様な感じがするし、子持ちには嬉しい囲み席が多く何度も来ている。そしてメニューもすごく大きな板で持って来たりと不思議な店で楽しかった。
子供達用に、チーズハンバーグ、コーンスープ、びっくりフライドポテト
大人用に、エビフライとハンバーグセット、ネギポンおろしバーグステーキを頼んだ。
子供達にはお皿を貰って、ワンプレートにし、みんなで食べた。
雄樹はお腹が空いているので「ハンバ、ハンバ」と言って、被り付くようにスプーンを口へ運んでいる。
口の周りにハンバーグソースやケチャップが一杯に付いている。
夏姫はゆっくりと少しずつハンバーグやご飯を口に運んでいる。
慎一は冷たいビールでも飲みたかったが我慢をしてハンバーグに食らいついた。

子供達もお腹いっぱいになって眠たい様子のため急いで家に帰りお風呂へ入れる。
湯船に入ると元気になるが、身体を洗うくらいから動きが鈍くなってくる。
二人の身体を急いで拭いて、歯を磨いている内にもうウトウトし始め、
布団へ入れると二人はコトンと落ちる様に眠った。
二人を眠らせた後に軽く二人でビールを飲んだ。
テレビでは今日行った「コスモス祭り」が放映されている。
残念ながら家族は映っていなかったが、今日一日楽しんだ光景が画面へ広がっている。
明日は休みなのでゆっくりとした気持ちでいると
静香がそっと隣に座ってくる。
「あなた、今日はお疲れでしょ?
 少しマッサージしますよ」
慎一は横になって肩や腰を揉んでもらった。
あまりに気持ち良くて眠りそうだった。
慎一は最近長時間のドライブが堪える年になった事を自覚した。