はっちゃんZのブログ小説

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67.童話村たきのうえ芝桜まつり

5月中旬が近づいてくると街中の家々の花壇にもそろそろ芝桜が咲き始める。

この花は首都圏では山梨県河口湖で開催される「富士芝桜まつり」でも有名だが、

北海道では全道の街中で咲き誇る道民に愛される花である。

 

芝桜とは

学名:Phlox subulata

和名:シバザクラ(芝桜)その他の名前:モスフロックス

科名属名:ハナシノブ科 / フロックス属

形態:多年草

原産地:北アメリ

草丈樹高:20~100cm(茎の長さ)

開花期:4月上旬~5月下旬(開花期間は1~2週間ほど。地域による)

花色紫,ピンク,白,青,複色

特徴:茎は芝のように広がり、春にサクラに似たかわいい花を咲かせます。

    一面に花を咲かせる様子は、花の絨毯のようで圧巻であり、

    常緑で、地面を覆いつくすように密生します。

 

5月の最終土曜日に「童話村たきのうえ芝ざくらまつり」を計画している。

住所は、北海道紋別郡滝上町字滝ノ上市街地4条通2丁目1番地

開催場所は、芝ざくら|滝上《たきのうえ》公園

開催期間は、5月中旬~6月上旬の約1カ月間で

開催規模は、約10万平方メートルにわたる芝桜が一面に咲く

入園料は、大人(高校生以上)500円、小人(小・中学生)250円、小学生未満無料

※芝桜の3分咲きが認められた日(開花宣言)の翌日から入園料有料。

 

当日は遠方への遠征の時と同様に太陽が昇る前に出発する予定だった。

会場の|滝上《たきのうえ》公園までのルートは、

途中まで前回の旭川氷瀑祭りと同じで、そこからは一直線の道筋だった。

静香も前日からお弁当の準備を始めており、

雄樹と夏姫も明日にはドライブと聞いて喜んでいる。

美波からは彼とのデートで一緒には行けないと連絡を受けている。

いよいよ太陽が昇る前にマンションを出発した。

まだ冷たい風の中を走る高速道路から見える街は、

灯りもまばらでまだひっそりとしており静かに眠っている。

しかし徐々に太陽が地平線に近づくたびに空は藍色そして水色へと変わる。

やがて地平線から太陽が昇り始めると

沿道の街に生活の光が灯り始め、人々の一日の始まりだった。

子供達はまだスヤスヤと気持ち良さそうに眠っている。

出発して2時間ほど経ったのでトイレ休憩として

深川市にある「|音江《おとえ》PA」に停まった。

ここは、トイレと自販機というシンプルなPAだが、

トイレは綺麗な木の板の外観で可愛く、

広場にはベンチがあって、その目の前には綺麗な花壇が設置されている。

そこで起き始めた子供達を少し遊ばせて、

新鮮な北海道牛乳や温かいコーヒーを飲みながら休憩した。

次の休憩場所は、「|比布《ぴっぷ》大雪PA」だった。

ここも「|音江《おとえ》PA」と同様の設備だが、

家族で用意した朝ご飯を食べて、

子供にも遊ばせる場所が必要なので

ゆっくりとあまり人の居ないPAを選んでいる。

このPAからは、雄大な大雪連峰全体が見える。

たまに吹く涼しい風が北海道の山々の香りを運び、

原生林の緑にドライブで疲れた目が癒された。

トイレ横の道を進むと「比布大雪展望広場」という公園があり、

そこにはオブジェがあってベンチの脇には花壇がある。

ベンチに座って可愛い花を見ながら家族でサンドイッチやコーヒーを飲んだ。

ここからは少し進んで比布JCTから高速を降りて旭川紋別自動車道へ入る。

比布北ICを越え、江島ICから上川国道を北上し、浮島トンネルを越える。

そこから広がる滝ノ上原野を道なりに進むと滝ノ上市街地に到着する。

 

市街地からは近くの山々に紫色やピンク色の山肌が目に入って来る。

そしてしばらくすると芝桜の甘い香りが街中を包み込んでいる。

この「芝ざくら滝上公園」の一面に咲き誇る芝桜に関して、

その始まりは、昭和32年(1957年)に、「みかん箱一杯」程度の芝桜の苗を

滝上公園の入り口に植えたことからだそうで、

以降約50年間地域の人々が継続して芝桜を育成してきたらしい。

それが今では10万平方メートルの大群落になったそうだ。

北海道は古代から残されている自然も素晴らしいが、

人の住む町は全て人が手作りで作って来たと言う素晴らしさがある。

どこの町に行ってもそこに住む人々がコツコツと作り上げてきた趣がある。

そして、そのように感じるたびに

厳しい自然と向き合い精一杯生きてきた先人達の努力には頭が下がる思いだった。

 

駐車場に車を停めると荷物を持って公園へ向かう。

子供たちはすでに景色に気を取られており、

活発な雄樹はどこに走り出すかわからないため、

静香が雄樹と手を繋いで歩いている。

大人しい夏姫は片手に荷物を持った慎一と手を繋いで歩いている。

車窓から見た山肌も立派だったが、

公園へ入るとそこら一帯が芝桜の甘い香りに包まれる。

山肌に作られた遊歩道を歩く。

遊歩道の両側には無数に芝桜の小さな可愛い花弁が咲き誇っている。

 

しばらく歩くと高い場所に多くの人が並んでいるのが見えた。

『何があるのだろうか?』と近づいていくと、

そこには「幸せの鐘」が設置されており、

みんなが笑顔で鐘を鳴らしたり

その鐘をバックに写真を撮ったりしている。

その場所は、園内で一番高い展望スポットで

そこから|滝上《たきのうえ》の街を見下ろすと

街に点在する家の屋根の色が、

童話に出て来る家の屋根の様に可愛い赤色や青色の瓦が使われている。

無数の小さな花弁の芝桜に囲まれた童話に出て来る様な穏やかな村。

慎一は童話村という意味が初めて分かったのだった。

 

今日は、週末のためイベントとして「おまつり広場ステージ」で

YOSAKOIソーランの演舞が開かれている。

大音響で派手な掛け声に踊りで会場が熱気に溢れている。

別の週末には音楽ライブやゲーム大会など、さまざまな催しが実施されているらしい。

ふと空を見上げるとヘリコプターが飛んでいる。

公園の全景を空から楽しむ「ヘリコプター空中散歩」も開催されているらしい。

ネットで調べるとパノラマと芝ざくらのコントラストを空から眺めるのは、この時期だけの特別な体験だと説明されている。

 

歩き疲れたので山から下りて、静香が用意したおにぎりの昼食を食べて、ショッキングピンクの「芝ざくらソフトクリームの幟」のある売店でソフトクリームを買った。濃い北海道牛乳が使われたピンク色の芝桜風味のソフトクリームで、一口含むと芝桜の風味が口一杯に広がり、芝桜特有の甘い香りが鼻腔へ抜けていく。それ以外に「芝ざくら蒸しケーキ」も食べてゆっくりとする。子供達はお腹一杯になって、お店の周りを走り回っている。

午後2時頃となり、子供達も少し眠くなってきている。

急いで車に乗り込むと「道の駅 香りの里たきのうえ」へ向かう。

滝上町の特産品は、ジャガイモ・かぼちゃ・スイートコーン・メロン・七面鳥だった。

この道の駅は、童話の世界に出てきそうな外観の建物で

ハーブの香りに包まれて木工芸品の展示販売コーナーやたくさんのお土産が売られている。滝上町ゆるキャラ「ピコロちゃん」の顔ハメパネルが設置されている。

娘の美波へのお土産にサクサク食感の「芝桜の彩スィートクッキー」を

家でのお菓子に「桜クッキー」と桜の葉が入った薄皮饅頭「桜の散歩道」を

家でのお酒のおつまみに、ミント風味の「スティックチーズケーキ」を

最後に北海道特有で特徴のある味と香りの「行者にんにく酢」を料理用に買った。

帰り道は朝に来た道の逆回りで、

眠る子供達を見ながら夫婦で色々と話しながらゆっくりと札幌への道を戻った。

翌週の月曜日に美波からうれしい連絡があった。

なんと美波が就職活動をしていた慎一の働く六花銀行への就職が内定したのだった。

美波も大喜びで彼も喜んでくれているらしい。

就職が決まれば後は、勉強と学生生活の締めくくりの一年となる。