「ではさっそく、翔君、跳んでくれたまえ」
「???跳ぶ?」
「いや、だから、もう一度跳んでくれたまえ」
「???」
「もう一度、テレポーテーションをしてくれたまえと言っているんだ」
「もう一度と言われても・・・」
「楽しみにしているよ」
翔は、『ヤッ』『ホッ』『エイ』『テヤー』とか叫んで、
空手の構えとか蹴りを放つも何も起こらなかった。
「うーん、もう一度できないと検証できないのだが・・・困った」
「では、あの時同じ気持ちで頑張ってくれたまえ」
「同じ気持ちと言われても、あの時は百合のことだけ考えていたので・・・」
「うん?それかもしれない。百合のことだけを強く考えて見なさい」
「兄さん、何を言うの?そんなことで変わるはずないじゃない」
翔は百合のことだけ考えた。すると昨夜のことを思い出した。
「何を赤くなっているのだね?お互い好きあっているのはバカが見てもわかるのに」
「そこまで私達って開けっぴろげ?異議あり、そこまで単純じゃないわ」
「異議?単純じゃない?それはお前の勘違いだ。どう見ても翔君が尻に敷かれてる」「尻に敷いてるって、そんな失礼なこと、兄さんでも許さない」
「尻に敷いているのが嫌なら、翔君がお前にベタ惚れで弱い立場だと言おうか?」
「そうかもしれないけど、私も同じくらい弱いもん」
「ああ、わかった、わかった。何の話だ?今はそんな無駄な話は不要だ」
「翔君、馬鹿な妹で失礼した。さあ続けてくれたまえ」
『馬鹿って何よ』と食って掛かる妹を無視して兄はじっと待っている。
やはりいくら百合を想っても、何の変化もなかった。
「まあ、普通の状態では無理だとわかったので精密検査をしよう」
全身の検査が始まった。
血液検査、身体測定、レントゲン、CT、MRI、脳波測定、筋電測定、
陽電子放射断層検査(PET)、胃大腸カメラ、眼底検査からあらゆる検査をした。
これらの検査はすべて医療ロボットが行った。
京一郎は、じっと検査結果を見つめている。
「うーん。メラトニンとセロトニン値が高い以外は何もない。素晴らしい肉体だ。
これほどの格闘に特化した肉体に初めて会った。すばらしい」
「このホルモンに影響を与える臓器と言えば、松果体しかないな。少し絞ろう」
「翔君、松果体と言うのは脳のちょうど真ん中にあるのだが、何か心当たりは?」
「いえ、何も」
「少し、CTやMRIやPETで拡大合成してみよう。
ふーん。何か額から何か入った跡が見えるが・・・」
「それなら、翔さんの眉間の間に、当時はポツンと穴が開いていたような気が・・」
「そうなの?どうしよう」
「でもすぐにふさがっているわよ。キスの時も目立たなかったし・・・」
『あっ』と口を押えて、百合が真っ赤になってうつむいている。
「翔君、結論を言えば、君の松果体は非常に若い、いや若過ぎるということだ」
「若い?それがなにか」
「松果体は年齢を行けばいくほど石灰化していく組織なんだ。
大きさそのものは7歳までは発育するがそれ以降は変化しない。
要するに君の松果体は石灰化していない7歳と同等の状態だということだ」
「7歳と同じ。うーん。それってどうなんだろう・・・」
「ただ、興味深いことにこの組織は昔から超能力に関係していると言われている。
ただ科学的には一切証明されていない。よく第3の目とか聞いたことあるだろう?」
「はい、そんな話なら聞いたことがあります」
「ではさっそく、脊椎液を採取しよう。怖くないし麻酔するから痛くないよ」
「はい、よろしくお願いします」
「さっそく、成分を調べてみるよ。
そうそう今日は、これくらいにして、少し一緒に来てくれないか」
翔は京一郎に続いて屋上へやってきた。
「こちらに来たまえ。こっちだ」
京一郎が屋上の縁に立っている。
不思議に思い翔が隣に立つ。
「翔君、あちらを見たまえ。綺麗な海だねえ」
京一郎の指差す方向を見た時に、突然後ろから押された。
足元がフワリと離れて、屋上の高さから落ちていく。
翔は何が起こったかわからなかったが、
この高さからコンクリートに落ちれば只では済まない。
千葉の時のようにまたもや、とっさに『百合』を思った。
『二人、どこに行ったのかしら。危ないことされてなければいいけど』
百合は心配していた。
その時、叫び声が聞こえて、ソファに座っている百合の上に何かが落ちてきた。
とっさに百合は転がって避けた。
果たして翔が百合のいたソファへ頭から落ちてきた。
翔は、またもや気絶している。
百合は急いで翔の背後に廻り蘇生術を促して覚醒させた。
「うわあ、助けて。あっ、百合、怖かった。今度は駄目かと思った」
翔が大きく息を吸い込んでキョロキョロしている。
『パチパチパチ』と拍手の音が聞こえる。
「翔君、大成功、大成功、これは素晴らしい能力だ」
翔は、百合の後ろに隠れそうに怖がっている。
「確かに君は屋上からこの部屋へテレポーテーションしているよ」
「翔、何があったの?」
「百合、彼はわからないだろうから僕から説明しよう。
翔君を少しでも前のケースに近づけようと屋上から突き落としたんだ。
もちろん油断していたところだったので効果があったはずだ。
そこで興奮状態が瞬間に誘発されテレポーテーションが発現した」
「突き落とした?何を考えてるの?もし翔が死んだらどうするつもり?」
「大丈夫、彼が落ちるであろう場所には、
レイとアイを待機させていたので地面に落ちることはないはすだ」
「そんなことまでしなければできないなんて、もう協力しません。翔、帰りましょ」
「百合、もっと冷静になりなさい。このすばらしい能力を理解しなさい。
この能力が常に発揮されれば、翔君が危なくなった時にも、
百合、必ずお前の元に跳んでくるんだぞ。
お前もこれから心配しなくて良くなるだろう?」
「そうだけど、こんな実験は絶対嫌!」
「もう、実証されたので同じことをする必要はない」
「それならいいのよ。また同じことするなんて言ったら、翔がかわいそうで・・・」
「ほう、あの百合が涙ぐむとは・・・翔君、君もなかなかの男だ」
(つづく)