入学してしばらくすると母から電話があった。
「美波、実はね・・・日下さんとね?うーん、あのね」
「結婚するんでしょ?」
「えっ?なぜわかったの?」
「お母さんを見てたらわかるよ。お母さん、良かったね。今度はおじさん、
いや、お父さんだった、お父さんとずっと一緒に幸せになってね」
「うん、美波ありがとう、お母さん幸せになるね」
「約束だよ、美波は全然大丈夫だから心配しないでね」
「そう?ならいいけど、いつでも戻ってきていいからね」
「うん、ありがとう、交通費高いから簡単には戻らないよ。
それはそうと、いつ結婚式なの?」
「今度の5月の連休にと考えてるの、神田さんで身内だけで」
「わかった。じゃあその時には帰るね」
「くさ、いや、お父さんがチケットを用意してるから安心して」
「わかった。じゃあ待ってるね。お母さん、本当におめでとう」
「うん、ありがとうね。お前のおかげだね」
「あれっ?知ってた?」
「ええ知ってるわよ、お前が神様になるなんてねえ」
「ははは、きっと神様が私にそうさせたのよ」
「わかったわ。気をつけて帰って来るのよ。それとまだ寒いから気をつけてね」
「はーい、わかりました。もう美波は大人だよ。安心して」
電話を切って美波はため息をついた。
誰も知っている人がいないという事は、
全て始めから人間関係を作るということ。
生まれも育ちも違う人間が手探りで最初から関係を築いていくこと。
ただ北海道の人は他県から来た人に優しく、
非常に懐が広いのですぐに友達になれる。
これは田舎全般に言えることかもしれないが
深いところに踏み込んで仲良くなろうとすると、
その人の歴史や考え方がわからないのでそこまでは行けない厚い壁があった。
また女性はおしゃれに非常に敏感で、たまに札幌市に行った時などは、
東京のファッションが入ってくる速さに驚くことも多い。
サークルメンバーがいるのでまだそれほど落ち込まなくて済んでいるが、
やはりずっと一緒に生きてきた母から離れると心細い気持ちがまだ強かった。
(つづく)