はっちゃんZのブログ小説

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62.消された記憶1

現場で取調べを受けた二人は、早々に解放されるとミーアの容態を見た。

百合を助けようと男に向かっていったミーアは、ほとんど息をしていない。

急いで動物病院へ連れて行った。

医師からは『予断を許さない状況』と言われている。

内臓から出血しており長時間の大きな手術となった。

二人の必死の祈りの甲斐もなくミーアの命は天国へ上って行った。

ミーアは病院専用のお墓へ丁寧に埋葬された。

泣き崩れる百合をタクシーでマンションへ送っていく。

 

翔はすぐに帰ろうとしたが、赤く目をはらした百合が翔の治療を始めた。

真剣な眼差しで腕や顔の怪我へ薬を塗り、絆創膏をして包帯を巻いていく。

百合の表情が悲しげで苦しげだった。

怪我の手当てが終わり、コーヒーを入れてくれた。

 

「翔さん、お願いがあります。

 私を、ミーアの分まできつく抱きしめて下さい」

翔は百合をソファで強く抱きしめた。

再び百合の眼から溢れる涙が、服の胸を濡らしていく。

『ミーア、ごめんなさい。ありがとう』

翔の胸の中で百合の声がずっと響いている。

翔と百合は時間を忘れてじっと抱き合った。

いつの間にか二人は泣きながら熱い口づけを交わしていた。

 

しばらくして、百合から

「翔さん、実は、銃口が私を向いた時、

 小さな時の光景が一瞬よぎったのです。

 私は過去に一度は拳銃を突きつけられた経験があるようです。

 その時の光景はあたり一面が真っ赤でした。

 多くの男の人と女の人が真っ赤に染まって並んで眠っていました」

「えっ?誰なの?」

「はい、どなたか知りませんが、

 そのうちのお二人には、

 私にとってすごく懐かしく感じる優しい笑顔が思い出されます。

 それと近くに男の子の顔が見えました」

「男の子?」

「強く大きな眼をして私の前に立って守っていてくれていました」

「うーん、そういえば俺にも良く似た記憶がある。いや、夢かもしれないが」

「もしかしたら私も夢かもしれません。

 翔さんが私を守ってくれた時の記憶が混ざったのかも」

「俺の両親は俺が小さな時に死んだらしい。

 飛行機事故だったと爺さんから聞いている。

 その現場に行ったらしいのだが全く記憶にないのが不思議で仕方ないんだ」

「そんなことが・・・翔さん、寂しかったでしょうね」

「いやあ、親のいないことが普通だったから。

 それに爺さんが厳しくてそんなことを思う間もなかったよ」

「不思議なのは、その男の子の眼差しが翔さんととてもよく似てることなんです」

「そうなの?それは不思議だね」

「その男の子は、たしか・・・ああダメです。全く名前が出てこない。

 でも、どうしてこのことを今まで思い出さなかったのでしょう。不思議です」

(つづく)