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はっちゃんZのブログ

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27.美波のがまん

小説1:さざなみにゆられて-山陰編-

夕食が終わり二人でゆっくりとお茶を飲んでいる。

静香さんが仏間に入っていき戻ってくる。

「慎一さん、美波が来る前だから二人の時の名前で呼びます。

 京都に行ってもがんばって下さいね。

 京都もこちら同様に苦労するところがあると聞きますので

 無理をしないで身体を大切にして下さい。

 疲れたらいつでもこちらに食べに戻ってきてくださいね。

 さざなみはいつでもあなたのために開けておきますので」

静香さんからは、

浜絣を使った青系と茶系の『手作りネクタイ』2本がテーブルの上に置かれた。

「私が愛用している浜絣を使ってみました。

 いい肌触りですから是非とも使ってください」

「ありがとう、これは驚いた。

 手作りネクタイは初めて。

 これは出社の日に締めます。

 大事に使わせて貰います」

 

しばらくして、美波ちゃんが下りてきた。

「お母さんは色々とできるからいいな。美波も必死で考えたよ」

美波ちゃんからは、三人が写った写真、

『テニス大会』と『花見』の時のものが裏表の状態で写真立てが作られている。

例の小物店で写真を封入したものを作ってもらったようだ。

にっこり笑う静香さんとひまわりのように明るく笑う美波ちゃんが写っている。

やはりこの笑顔が慎一の原動力であったことが再認識された。

 

しばらくして、慎一が『静香スペシャル』と『美波スペシャル』を作り始めた。

美波ちゃんがクッキーを焼いていたのでちょうど良かった。

二人はお互いのコーヒーを覗き込みながら

「美波スペシャルって、こんな感じなんだ・・・

 へえ、甘い物好きの美波にはちょうどね」

「そうよ、静香スペシャルだって・・・

 うーん、大人の感じがすごい、私にはまだまだ早いかも・・・」

「そうね、でもお母さんは美波スペシャルも好き」

「そんな、二つともなんてずるい。これは美波だけのもの」

「わかったわよ。だったら、これはお母さんだけのもの」

とワイワイ言い合っている。

慎一は二人の仲の良さが嬉しかった。

もう10数年、二人だけでこんな風にお互いをかばいあって生きてきたのだと思うと

羨ましくもあり、それが二人だけだったという寂しさも感じた。

 

慎一はこの7月に開始した「ショートメッセージサービス」のことを話題に出した。

二人は知らなかったようで早速加入するとの話になった。

アドレスを二人に教えて

「京都に行ったら、この連絡ができるから、電話が出れなくても安心やね」

「そうね、こんなものができたのねえ。昔は家電か公衆電話だけだったのに・・・」

「時代はドンドンと変わるということやなあ。

 もうじき写真やビデオも送れるようになったりしてなあ」

「おじさん、それはちょっと無理じゃない?

 でもそうなればいいなあ。美波が優勝した瞬間の写真を送れるから・・・」

「まあ、大胆なことを言う子ねえ。期待せずに待ってるわ」

「もう、すごくがんばってるんだから・・・」

「そうや、そうなったら楽しみやな。

 でも美波ちゃんが、精一杯がんばって納得できる結果だったらいいんちがう?」

「そう言ってくれるおじさんが大好き。うん、自分が納得する結果を出す。

 どちらにしろ、おじさんにはメッセージを送るね」

「うん、待ってるで。楽しみや。応援に行けんのは残念やけど許してな」

「ううん、おじさんは京都でがんばってると思って

 美波もがんばるから応援していてね」

「了解、毎日応援しておくで」

と大いに話が弾んで今後が楽しみだった。

遠くにいても近くで感じることができる時代が近づきつつある・・・

そんな予感を感じつつ二人を見ていた。

 

美波ちゃんが風呂に入り、続いて静香さんがお風呂に入った。

その時、美波ちゃんが涙ぐみながら

「おじさん、美波、今日はずっと我慢してたの。

 笑っておじさんを送りだすんだって。でももう無理。

 おじさん、今までありがとう。

 おかげで泳げるようになって嬉しかった。

 勉強もよくわかるようになって嬉しかった。

 この1年半、美波の一番好きなお父さんみたいですごく楽しかったです。

 美波は本当のお父さんの記憶がないので無理言ってばかりでごめんなさい」

「いや、おじさんも本当の娘みたいに感じてた。娘を持っていないのにね。

 二人とも同じやな。また帰って来た時は同じようにお願いするな」

「うん、必ず帰ってきてね。美波、待ってる」

「わかった。待っててな」

「お母さんには約束したから今話したことは内緒ね。じゃあおやすみなさい」

(つづき)