はっちゃんZのブログ小説

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96.特訓5(浅間別荘編5)

翌日も朝のトレーニングで「母の白滝」付近に来た時、

百合が滝つぼ付近の崖に綺麗な花を見つけて立ち止まった。

翔は『先に行ってるね』と声を掛けて戻っていく。

神社を回り別荘への分かれ道を通り過ぎた頃、

振り返るとマリンブルーに太い白いラインが数本入ったスポーツウェアの

百合の小さな姿が目に入る。

滝つぼの近くでまだ花を摘んでいるみたいだった。

 

その時、

翔の視界の隅に映る大きな藪の左側で何かが動いた。

よく見ると丸い黒い何かが動いている。

百合は背中を向けているので気がついていない。

翔は焦って大声で呼んだが、

滝の音が大きく翔からは遠いため、百合には聞こえていない様子。

翔は全速力で走った。

近づいていくと熊だと判明した。

大きな藪の左側にいる熊の視線が右側を向いた。

ちょうど百合のいる方向だった。

熊が百合の方へ走っていく。

百合は全く気がついていない。

 

走っても走っても近づかない。

このままでは百合が背後から襲われてしまう。

まさかこんな所に熊がいるとは思ってもいなかった。

冬眠前の熊は気が荒くて人間でさえも簡単に襲うと聞いている。

熊はとうとう藪から出て百合の背後に出現した。

百合が気配に気付いて振り向いたが、

驚いて固まっているのがわかった。

絶対絶命だった。

 

翔は必死で走りながら百合の方を見た。

その時、視界が揺れて、視界の光景が回りから消えていく。

眉間の奥が熱くなり、『ズーン』と痺れるような感覚が、

その部分から全身へ広がっていく。

その痺れが引いた瞬間に百合と熊の間に立っていた。

後ろの百合から『翔さん・・・』とかすれた声が漏れる。

突然現れた翔に一瞬驚いた熊だったが、

鋭い牙の生えた顎と人間の指ほどの長さと太さのある爪が構えられている。

首元に特徴のある白い輪が見え、両足立ちになり両手を上げて攻撃態勢を整えている。

バトルスーツを着ていないので熊の攻撃を受けることはできない。

 

翔は熊の目をじっと睨みながら百合へと後退りしていく。

やっと百合のところへ着くと、

百合を背中に隠しながら滝つぼの崖方向へ移動して行った。

来るなと願ったが、やはり熊はこちらへ向かって来た。

すごいスピードだった。

吐き出される息吹、野生の匂いが鼻を突く。

このままでは二人とも殺されてしまう。

翔は百合を抱きしめると滝つぼの反対側を見つめた。

『ズーン』という痺れと視界がぼやける。

二人は最初居た滝つぼの反対側の崖の上に移動していた。

襲い掛かった熊は突然、獲物が急に居なくなったため滝つぼへ落ちていった。

(つづく)