はっちゃんZのブログ小説

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125.学園を守れ1

激しい戦いから久しぶりに日常に戻った翔だったが、今度は何と隆一郎翁からの依頼があった。
館林一族の事業の一つに「学校経営」があり、一族全体としては順調だが、東京都の北側にある私立高校「文武学園」のみ現在は経営不振となっている。
その学校事業は、前橋館林家最後の頭首が経営不振となった私立高校を買い取ったもので、その後前橋館林家から相模館林家へ継承した。前橋館林家と関係のある翔と百合に是非ともお願いしたいとの事だった。

この学校は、名前の通り『文武』を共に鍛える校風で、入学のためには入学試験での高得点と武道系の経験が必要だった。仮に家庭の事情で資金援助が必要な場合には、奨学金制度や資金援助制度もあり、大学へも推薦入学させるなど手厚い待遇だったし、有名大学へも進学率は高く、ここを母校とする学者や格闘家、スポーツ選手も多いため以前から非常に競争率が高かった。生徒やその家族から見ても、この学園の卒業が将来も楽しみで好ましい筈だった。
実際、学校法人としては人間の育成が目的であり利潤は二の次ではあったが、昨今あまりに壊滅的な経営状況のため一族企業内でも問題となっている。
在校生は1学年200人、クラスは25人編成で、少数精鋭の学校として経営されている。
特にここ数年、校内が荒れており、いじめによる自殺者も出て、優秀な入学者が減少し、お金を掛けて育てた成績優秀者がライバル高校へ転校する事件が続いている。
この学校の理事長は前橋館林家の|館林栄佐《たてばやしえいすけ》である。
それ以外は一族の者で無いため二人には正体がばれない様に注意するように言われている。

館林の方でも既に準備をしていたようで、
百合は「養護教員兼女子寮相談担当」で、翔は「用務員兼男子寮運営担当」として採用されている。
学校側としては、どちらも急に失踪し不在となったために補充要員として理事長が採用したと思っている。
百合は年齢30歳、名前「立花 優梨」、この学校の卒業生との設定、
翔は年齢40歳、名前「山田 昇平」、やや小太りの運動不足風、偶然階段で転んだ理事長を助けた事で懇意となり、最近は会社が潰れて無職になった事から用務員で働くよう依頼されたとの設定で、二人とも変装をして潜入することとなった。
二人は、朝礼で臨時職員として全校生徒へ紹介された。
生徒達の後方に、列が乱れた服装も乱れた不良らしき一団が見えた。

この学校に関しては事前にネット情報で調査している。
その中で少し気になる噂があった。
1.最近、家庭の事情で出ている奨学金助成金の金額が減らされている。
  その理由としては成績の不振と言われるが全てがそうではない。
2.最近、武道連合と言う不良高校生が増えてきている。
  彼らは特に武道と言う経験があるので先生も生徒も怖がっている。
  学園の林の奥にある古い武道館が根城らしい。
3.生徒会の力が強く、校長を始め先生方は生徒会の言いなりで困っている。
4.二年前の夏に堕胎した女子生徒がいる。
  新宿の闇医者に処置してもらったらしい。


ネットでは、悪評で炎上しており大変な事となっていた。
「校内は男女ともに非常に風紀が乱れており、
 女子生徒は常に貞操の危機と妊娠の心配をしていなければならない」
「この学園は不良達の溜り場でいったい何を教えているのかわからない」
「この学園の名前を聞くとそこの生徒に酷い事をされたトラウマに悩まされる」
「この学園の生徒を見ると隠れてやり過ごすのが一番。君子危うきに近寄らず」
「この学校では、武道などと言って平気で暴力が恒常化している」
「こんな学園の存在する意味がわからない。文科省は廃校にすべき」
「こんな学園に通うような生徒は将来の犯罪者予備軍、暴力団の前構成員」
「だいたいこんな学校を経営している企業が犯罪企業ではないか?」
その他、|怨嗟《えんさ》に溢れたコメントで溢れている。

翔は近くの安アパートから出勤する事になり、百合は近くのマンションを借りて出勤することとなった。
翔も合鍵を貰っているのでいつでも百合の部屋へ入れるが今は二人の関係がばれる事を危惧した。
百合の職場は「保健室」だが、女子相談担当でもあり女子寮にも宿泊可能な部屋が用意されている。
翔の職場は「用務員室」だが、男子寮の一角にありそこから学校内を巡回する事になっている。
学校正門及び裏門から24時間いつでも翔は出入りが可能となっている。
翔は事務長の「佐々木」から男子寮の用務員室へ案内され、そこで簡単に業務を説明された。
とりあえず学校の全体的な用務と寮の管理をお願いするとの事だった。
男子及び女子寮は、各人に個室が与えられており、他県から来ている生徒が多かった。
授業中にも関わらず、窓から寮の裏の林の中で|屯《たむろ》している一団が見える。
「事務長、今、授業中なのにあんな生徒がいますよ」
「ああ、武道連合の不良の一角だ。悪い奴らで困ってる。
 夜中は奥にある武道館、昼間は林の中で遊んで授業に出ない」
「だったら退学とかで放校すればいいのでは?」
「そんな事して恨まれたら家族まで危なくなるから放っておけばいい」
「そんな事で生徒を指導できないのではないですか?」
「君は用務員だよね。いちいちそんな事を気にしなくていい」
「そうでした。しかし困ったもんですね」
「ああ、奴らが卒業するのを待つだけさ。
 じゃあ何かあれば私に何でも聞いてください」

事務長が部屋を出て行ったので、早速部屋中を見回して
眼鏡に仕込んでいるカメラからRyokoへ部屋の中の不審物を捜索させる。
監視カメラは無かったが、電波で調べると盗聴器らしきものはあった。
その時、百合から翔へラインで連絡があった。
やはり女子寮の百合の部屋にも監視カメラは無く盗聴器はあったようだ。
二人の連絡はラインですることとして、今後仕事の話はしないことにした。
寮の食堂に寄り、胸のポケットに忍ばせていたクモママを壁の額裏へと伝わせた。
クモママの操作は夜中にすることとして盗聴報告を命じた。

翔は寮の管理人でもあるのでとりあえずどの部屋の鍵もあるのだが、
事務長からは相手が高校生なので部屋へ勝手に入らない様にしているとの事であった。
そしてトイレや風呂場清掃は業者に任せているので
翔は食堂や廊下や庭くらいしか掃除をする場所は無かったが、
寮生達が当番制でしているためそれも無かった。
とりあえず端から端まで校内を見回って校舎の構造や位置などを頭に入れて行った。
百合の居る保健室にも顔を出したが、
女子高校生の一人がベッドで休んでいるとの事で軽く顔を合わせるだけにした。
授業中なのでどこの部屋も入れると思っていたが、
生徒会室だけはなぜか別の厳重な鍵が掛かっており入れなかった。

寮で夕食後、寮生へ翔は顔を売るつもりで食堂のテレビの前に座っている。
それとは無しに相槌を打ったり一緒に笑ったりして寮生を見ている。
寮生と人間関係の構築が必要だったからだ。
寮生達も翔(昇平)が40歳のオヤジの割に若い感性で感心してくれている。
アイドルや学校内の女子の話、
テストやスポーツ大会の話など多岐にわたったが、
特に何かおかしい点もなく普通の高校生達だった。
ただ全体的に生徒会長の|冴木《さえき》が話をコントロールしている感じだった。
各人はそれに逆らう事も無く従っている。
それも夜8時になると各人が部屋へ戻り始める。
翔はしばらくは用務員室に泊まる事にして、コンビニへお酒とツマミを買いに行く風を装い、学校から離れた室内駐車場に停めたバトルバイクのサイドカーに保管していたトランクを用務員室へ持ち込んだ。
そしてテレビを掛け部屋の音を消しながら、持ち込んだ小型迷彩ドローンを窓から飛行させ、学校全体を撮影して行った。
とりあえず理事長から校舎の簡単な図面は渡されてはいるが、
実際に自らの目で再検証しないとキチンと意識に入らないためだった。
そして、寮の食堂に待機しているクモママへ盗聴器を額縁裏へ設置させ用務員室へ戻した。

学校内にある全てのデータはRyokoから送られてくる。
それらデータを読み込みながら、管理人室からクモ助1号を出動させ外壁から生徒の監視に入った。
生徒会メンバーは

生徒会長「冴木一郎」、副会長「黒木麗香」、書記「江藤恭介」が3役。
後は風紀委員として

「増田司郎、玉木 剛、近藤夢子、栗野香子」の3名、合計6名であった。
なぜか生徒会のメンバー全員が寮で生活をしていて、生徒会長冴木と副会長の黒木は学年でも成績はツートップで多くの生徒から一目を置かれている。
特にこの二人が生徒会のメンバーになったのは1年生の時で、その時から徐々に実質彼らが学園内の生活と生徒会を主導していたようだ。
先ずは生徒会長「冴木一郎」から監視していくことにした。
百合も副会長「黒木由香里」の監視から入ったと連絡があった。
百合の方はクモ型ではなく可愛い『てんとう虫型』で『テンマル〇号』を使用している。
ネットの噂から考えても生徒会が何か匂うのだった。
クモ助1号は外壁からそっと窓ガラスの振動を読み取り室内の音声を聞き取る。
人間を特定できるまでは何食わぬ顔をして暮らしていくことになる。
Ryokoとの連絡は、常にPCやスマホなどへデータ送信されてくるので便利だった。
昼間に校内を見回っている時、偶然誰もいない事務室に立ち寄ったタイミングでクモ助3号をロッカーの裏側へ置いて夜中まで待機させている。
今回は怪しい人物が多過ぎていつものクモファミリーだけでは足りなかった。
二人は焦っても仕方ないので怪しい人間はじっくりと見定めていく作戦に変えた。