はっちゃんZのブログ小説

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57.彼とドライブ3-然別湖・東雲湖-

帯広名物の豚丼を食べて、次に向かう前に

美波は「クランベリー本店」へ向かってくれるようにお願いした。

この店は1972年の創業の歴史ある店で「スイートポテト」が有名だった。

さつまいもを蒸して、半身となったさつまいもを厚めの皮だけを容器にして

さつまいもとカスタードクリームがさっくりと混ぜ合わされ詰められている。

 

それは良いさつまいも本来の雑味のない味や甘さに加えて、

ご当地で生まれた新鮮な牛乳から作られたクリームを使った

味の濃いカスタードクリームが練りこまれている。

そのバランスの取れた絶妙な甘さが

お茶でもコーヒーでも紅茶でも何でも良しのスウィーツとなった。

二人は家族の数にあわせて、大きさを選んで購入した。

前田さんは3時のおやつ用に小さなスイートポテトを買っている。

 

次の目的地は「然別湖」だった。

帯広市を北上して突き当たった38号線を左折し清水町まで向かい、

そこを右折し274号線へ入り鹿追町を越えて直進する。

途中から然別湖畔温泉の看板に沿って進んでいく。

この湖は標高810mにあり、北海道の湖では最も標高の高い場所にあって

面積35.9平方キロメートル、周囲は13.8キロメートル、

最大深度は108メートル、透明度19.5メートルである。

周辺には、東雲湖と駒止湖という2つの小さな湖がある。

美波は東雲湖と聞いて、「北海道三大秘湖」の一つと言われていて、

エゾナキウサギの棲息地域だと以前父が話していた事を思い出した。

 

然別湖畔温泉裏手の遊覧船乗り場駐車場へ車を停めて遊覧船に乗る。

この湖は入江が複雑で、遊覧船がその入江をなぞるように走るため、

湖岸がとても綺麗に見える。だいたい1時間かけて一周するようだ。

原始のままの北海道の姿を残す原生林が囲んだ湖。

街より一足早く秋の気配が忍び寄る湖岸の原生林。

その風もない湖面には遊覧船の立てる小さな波が広がっていく。

しばらくすると乗り場のちょうど向かいのエリアが見えてくる。

船内アナウンスでは『東雲(シノノメ)湖』の姿がうっすらと見えているらしい。

美波は父に見せるため急いでその淡青い姿を写真に収めた。

グーグルアースでも雲に隠れて見えないその姿を写真に収めた。

 

東雲湖は、周囲0.8キロメートル、最大水深2メートルほどの小さな湖で、

道路での直接の連絡道はないようだが、

然別湖南側の斜面に東雲湖全体を望むことのできる場所があり、

そこへは湖岸の遊歩道を徒歩30分ほどで到着することができると

遊覧船乗り場の係員に教えて貰った。

以前は東雲湖へ向かう場所へ遊覧船を停めて客を降ろしていたようだが、

その希少な自然環境やエゾナキウサギやエゾサンショウウオの保護を考慮して

観光客の出入りを止めさせたらしい。

確かにここ最近北海道へは海外からの観光客も多く、

観光業も盛んになるにつれて、様々な弊害も出てきていると報道されているので

北海道の自然を残すという点から考えると必要な処置だった。

 

然別湖畔温泉にある美術館には北海道に生息する小動物の写真展が開催されている。

その中でナキウサギの写真があった。

ナキウサギは、体長約18-20cm、尾長2cm弱、体重75-290gで、短い四肢と丸い耳、短い尾をもつウサギでハムスターのような小動物だった。

美波はその愛らしい姿に惹かれて、ついつい絵葉書用写真を買ってしまっていた。

今度仙台に住む婆ちゃんに絵葉書を送るつもりだった。

また、この湖に棲む北海道の天然記念物に指定されているミヤベイワナの写真も飾られている。この魚はサケ科イワナ属の淡水魚で、この湖に陸封されることで固有種となったオショロコマの亜種(または別亜種)と説明されている。

 

美術館から出ると空の青さに少し紫色が混じり始めた事に気がついた。

もう太陽が傾きかけている。

頬に当たる然別湖を渡る風も少し冷たくなってきている。

「日下さん、もうそろそろ札幌へ戻ろうか」

「そうですね。でも時間って早いですね」

「そうだね。あっという間に夕方で驚いた。

 じゃあ、遅くなってご家族が心配してもいけないから帰ろう」

「なんもなんもと言いたい所ですが、そうしましょう」

帰り道も来た道と同じ道を帰って行った。

北広島で若干渋滞に引っかかったが、夕方6時過ぎには札幌の実家へ着いた。

「日下さん、今日はありがとう。疲れてない?」

「ええ、大丈夫です。今日は楽しかったです。お誘い頂きありがとうございました」

「あの・・・もし、・・・良かったら、またドライブにでも誘いたいんだけど」

「はい、いいです。こちらこそお願いします」

「あ、ありがとう。またメールか電話をするね」

「はい、でもお仕事が忙しいので無理しないで下さいね。

 私の方からも就職とかで色々と相談させて頂きたいと思っています」

「なんもなんも、仕事なんて大したことないです。

 どんな相談にも出来る限り協力するので僕の仕事のことは気にしないでね」

「わかりました。では今日は本当にありがとうございました。

 気をつけて余市まで帰ってくださいね」

「うん、ではまたね。バイバイ」

「バイバイ」

 

美波は出発した阿部さんの車を見えなくなるまで見送った後、

実家のインタフォンを押した。

もう夕ご飯が出来ている頃だった。

函館・青森の旅行以来、久しぶりだったので家族も大喜びだった。

いつものように和気藹々としたご飯が終わって、

居間で今日のお土産と写真を見せながらスイートポテトをみんなで食べた。

自家製豚丼は明日日曜日の晩御飯とのことで楽しみだった。

(つづく)