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はっちゃんZのブログ

スマホの方は『PC版』『横』の方が読みやすいです。作品のもくじの章の青文字をクリックすればそこへ飛びます。

7.葉山館林邸2

小説2:『武闘派!』なのに、実は超能力探偵の物語

 翌朝、翔は朝日が昇るにはまだ間がある時間に目覚めた。

屋敷内のどこかで無言の裂帛の気合いらしきものが発されたためだ。

この家で事件が起こるはずがないのできっとあの爺さんが発したものだと思い、

トレーニングウェアに着替えて部屋を出た。

屋敷を出て、葉山の海岸をランニングする。

ほんのり朝焼けの海が優しく息づいている。

深呼吸一つ、少し塩気を含んだ風が気持ちいい。

砂浜は足の鍛錬には持ってこいで、片足5キロのアンクルベルトは必要なかった。

事務所にも自宅にもトレーニングルームを準備して常に鍛錬は怠らない。

これが翔の長年続く習慣で、鍛錬は技術を鈍らせない唯一の方法だった。

十分、身体が暖まった頃、屋敷へ戻り、地下室にある鍛錬の間へ向かった。

向かって左が男道場、右が女道場となっている。

 

男道場に入ると、やはり爺さんと執事の藤原さんが鍛錬している。

「おはよう。翔君、ゆっくりと眠れたかね?」

「あんな、激しい気合いを発して眠れるはずないじゃないですか。

 驚いて飛び起きちゃいましたよ。今、走ってきました」

「いい感じで暖まったようだの。どうだ久しぶりに手合せでもするか?」

「うーん、もう少し準備させて下さい」

「わかった。準備が出来たら声を掛けてくれ」

「はい、わかりました」

 

この爺さん、本当にヤバイ爺さんで出来るだけお近づきになりたくない人である。

理由を言えば、もう65歳手前のはずだが本当にすごく強い。

某アニメで言うなら○メ○メ波のないカ○仙人くらい強い。

もしかしたらこの爺さんなら出すかもしれない危惧はある。

武芸百般を使いこなすうちの爺さんと同じくらい強い。

もう何年もこの屋敷に来ているが、いくら鍛えても一度も勝てない。

隣の女道場からは、投げたり打ったりしている気配が伝わってくる。

『百合も今朝は婆さんに鍛えられているんだなあ』と思った。

身体中の関節を柔らかくして、筋肉をほぐし深呼吸をした。

爺さんのそばに執事の藤原さんが正座で待機している。

 

「おっ、いいのか?では、来なさい」

実はこの屋敷で泊ると決まった時から、

翔はこの爺さんに一泡を吹かせるべく技を練っていた。

今までは、やみくもに攻めて行ったから駄目だったのだと思っている。

今回は、わざと途中で隙を作り、爺さんが攻めてきた時に、

思いも寄らぬ方法で攻撃するつもりだった。

悟られてはいけないと思い、

最初から手抜きなしの必殺の意識で蹴りや拳を打つも全ての技が一切当たらない。

ゆるやかに風のような円の動きで一瞬たりとも触れることもできない。

そう30分は攻めた頃、

翔が満を持して大技の後ろ回し蹴りを放った時、

「小僧、甘いの」

爺さんが翔の背中へ回りこんで拳による攻撃を開始している。

『今だ』

翔は、回し蹴りの足の勢いは消さないまま、軸足でジャンプし、

オーバーヘッドキックの要領で爺さんを狙った。

逆さになった世界で、爺さんの顔が見えるはずなのに足が見える。

「小僧、考えたのう。じゃが、まだまだじゃ」

翔が両手で顔を守りながら、空振りをして床に立つ瞬間に、

爺さんの後ろ回し蹴りを腹に喰らっていた。

身体が壁板に強く叩き付けられ受け身を取っていた。

腹部から全身にしびれが広がっていく。『発勁』だった。

 爺さんの技は、『陳家太極拳(ちんかたいきょくけん)』。

日本人で唯一のマスター。剛柔相済、快慢兼備の動作を理想として、

柔軟さや緩やかさだけではなく、跳躍や震脚などの激しい動作も行われ、

発勁は、暗勁だけではなく明勁も得意としている拳だった。

「最初から少しテレフォンパンチ気味な動きだったので警戒していたから

 対応できたが、何も知らない相手だとこれは怖い技だな。

 まず、脳天を狙われる足まで意識がついて行かない。

 しかし、それ以上にこれをこなす技術を身に付けていることに感心した。

 今日はこれまでにしよう。今度来る時までまた練っておけよ。楽しみにしている」

『くそっ、また勝てなかった。○メ仙人め』と心でつぶやいた。

 

 爺さん、婆さんと百合4人で朝食をとった。

三浦半島で取れた身体に優しくデトックス効果のある食材が並べられている。

見た目は質素だが、一品一品は吟味されたものを使われている。

先ほどのトレーニングを忘れたかのような穏やかな朝食風景だった。

 食後、部屋で百合とゆっくりとコーヒーを飲んだ。

「翔さん、今日はどうだったの?」

「やっぱり、負けちゃった。今回は、いい勝負できると思ったのになあ」

「私は、お婆様に叱られちゃった。鍛え足りないんだって」

「お互い、これからと言う事でいいじゃん」

「そうね。これからよね」

二人は、今日初めてのキスをした。

 

 10時に京一郎さんが、この前の検査結果を伝えにくるらしい。

爺さん、婆さんも同席するようで、二人は緊張して待った。

「やあ、翔君、お待たせしたね。朝から大変だったね。

 実は全て解析できた訳ではないことを最初に話しておこうと思う。

 検査結果は、君の身体はこれ以上無いくらい健康体であり、

 武道家としては最高の筋肉と骨格と神経を持っている。

 さて、ここからが重要だ」

翔と百合がじっと京一郎を見ている。

「君の脊髄液には、

 ごく微量だが地球上にはない物質が含まれていることがわかった。

 君がいた千葉の港と付近のものを全て精査したが関連性は見つからなかった。

 ただ新聞記事から、当日夕方に非常に大きな流星のあったことを突き止めた。

 百合が、君の額の傷のことを覚えていた点から推測すると

 可能性として一番高いのは、非常に突飛な理論ではあるが、

『隕石の中の金属性物資が君の頭に入った』としか考えられない」

 翔と百合は顔を合わせて不安な顔になっている。

「そして、君の能力との関係は全く不明で、今後の研究に期待したいところだ。

 事実として、

 君は自分の身につけている物と一緒に空間を跳ぶ能力を確実に持っている。

 君の松果体は、子供のように一切石灰化していないし大きく活性化している。

 その金属性物質がその石灰化と活性化に何らかの関係はあるものと推測できる。

 その物質は君の遺伝子への影響は全くなく何の変化も起こしていない。

 君の生存本能と百合への強い想いがその能力の引き金になっている。

 の5点が今回、明らかになった点だ。

 その能力については、もっと調べたいが、

 その前に地球外からの物質の正体を突き止めることが、

 現在の最優先事項であるということだ」

「それで、兄さん、あの能力はいつ使えるの?」

「それは、わからない。あの時に再検証は出来たが、再々検証が必要だな」

「えっ?再々検証?百合、どうしよう」

「いや、まだそれはする段階ではない。君は今まで通り生活していればいい。

 ただ、不思議な事があれば、すぐにレポートとして提出して欲しい。

 勿論、ただとは言わない。レポート代は奮発するつもりだ。よろしく。

 では、僕は忙しいのでこれで失礼する」

翔は、とりあえず普通に暮らしていれば危険はないと知ってほっとした。

 

 翔と百合が館林邸から東京へ戻る日が来た

出発する朝に京一郎が顔を出した。

レポート依頼として試作品の武器を翔へたくさん用意しているとの話だが、

すでに新宿の事務所内トレーニングルームに格納庫を作っているようだった。

爺さんは苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「京一郎、なぜ機械に頼るのか?頼れるのは己の鍛錬した身体のみと思うが・・・」

「爺様のそのお話はもう何度も聞いています。人間の技では必ず限界があります。

 それを補佐しいつでも100%以上の力を出せることが必要なのです。

 実際に、私の作った手元にある『現代版斬鉄剣』の仕込み杖は

 軽くて切れ味も最高でしょ?

 私は人間の力を馬鹿にはしていません。成長していくのは機械には無理ですから」

「それはわかっておるが、翔君がそれに頼ることが心配じゃ。

 張り詰めた空気の中での鍛錬こそが、技は磨かれ完成されていくのじゃからのう」

「館林の爺様、その教えは忘れません。この翔、毎日鍛えます」

「翔君、それは当然だ。相手が多数の時、飛び道具を持たれている場合など、

 君の身を守る必要性からこれらの武器や道具は作られている。

 所詮は道具だから、あまり気にしないで、使い捨てのつもりで使ってくれたまえ。

 それとこれも使用感や不自由部分は遠慮なくレポートとして送ってくれたまえ」

 

翔と百合は、用意されたライダースーツとヘルメットを着用しバイクで出発した。

翔にぴったりとくっついた百合の胸の感触は最高で運転を忘れそうだった。

百合ももうじき二人きりになるのがうれしくて強く抱きしめてきている。

ヘルメットのマイクを通じて、もういちゃつき出している。

「やっと二人きりになれるね。百合。帰ったら、もっともっとくっついていい?」

「もう翔ったら、せっかちね。ふふふ、いいわよ」

『何が、この翔、毎日鍛えますだ』

と爺さんから大目玉を食らいそうな会話だったが、

若い二人は年寄の言う事は全く気にしていなかった。

 もう何日間もイチャイチャしていない二人はもう待ちきれない気持ちだった。

ようやく事務所に着いた。

ソファーに座るのさえ待ちかねたように抱き合ってキスをした。

「これが百合の匂い、すごくいい匂い、百合、大好き」

「翔、私もだーい好き」

 

『ピンポーン』

インターフォンの音に二人は飛び上がった。

「百合様、翔様、お荷物をお持ちしました。

 お部屋へ入りましてよろしいでしょうか?」

二人は焦った。レイさんを忘れていたのだ。

レイさんは、二人のスーツケースを置くと、

残りの道具類はトレーニングルームの壁の格納庫へ近づいた。

ボタンひとつで壁の扉がせりだしてきて、中の棚にはすでに多くのものが並んでいる。

「車は地下駐車場へ置いておきますのでマニュアルを読んでお使い下さい。

 それと、京一郎様からの伝言でございますが、

 目黒区のビルを購入して現在『目黒館林研究所』を建設中であるので完成時には

 招待するから参加するようにとのことでございます。では二人ともごゆっくり』

やがてアイさんが車で迎えに来てレイさんも帰った。

『これでやっと、本当に二人きりになった』

二人は大喜びでまたまたソファで抱き合った。

(つづき)