慎一が美波ちゃんを車で迎えにいく。
美波ちゃんが二階から手を振って、上がってきてほしい仕草をしている。
二階へ上がっていくと美波ちゃんが部屋で正座して慎一を待っている。
「おじさん、この3年間ありがとうございました。
これから小樽へ行きますが、美波はしっかり者だから安心して下さい」
「わかってるって、
美波ちゃんみたいなしっかりした女の子はそんなにみたことないよ。
でも変な男には気をつけてな」
「うん、美波はファザコンだから心配しないで」
「うーん、それはそれで心配やなあ」
「ふふふ、冗談。おじさん、お母さんのことよろしくお願いします」
「えっ?」
「お母さんのこと、嫌い?」
「いや、そんなことないけど、美波ちゃん・・」
「私はおじさんがお父さんならいいなと思ってるの。
美波も応援するからお母さんを幸せにしてあげて欲しいんだ。
今まで自分のことより私の事を真っ先に考えてきた人だから・・・」
「うん、わかった。
お母さんの踏ん切りが着くまでは待とうと思ってたけど」
「良かった。お母さんもおじさんのこと好きみたい。
神様に任せてるんだって、だったら私が神様になっちゃう。
二人とも優しいから私を大切に考えてくれてありがとう。
これが美波の本当の気持ち。こんなこと今しか言えないからね。
じゃあ、お父さん、いってきます」
「ああ、美波ちゃん」
「お父さんなのに、ちゃん付けはないでしょ?美波でいいよ」
「美波、いってらっしゃい。がんばるんやで」
「うん、がんばる。新婚旅行は北海道にしたら?」
「わかった。そうする」
「やったあ、これですっきりした」
ふと静香は階段を上がろうとして二人の会話が聞こえてきた。
あの子もこんなにも大人になったんだなあとしみじみ感じた静香だった。
美波を米子空港から見送ると、
静香は何か心に大きな穴が空いた気がして寂しくなった。
今更のように『あの子がいたからこそ頑張れたし寂しくなかった』
とわかったからだった。
慎一は静香の背中が寂しそうだったので、
空港の帰り道に弓ヶ浜に停め砂浜に座った。
静香は海をじっと見ながら慎一の肩へそっと頭を寄せてくる。
慎一も両手をついて静香に身を寄せながらじっと海を見ている。
「慎一さん、美波を可愛がってくれてありがとうございました。
でもあの子も大人になりました。
あんなに小さい子供だったのに・・・」
「静香さん、一人だけでよくあんなにいい娘を育て上げたね。
旦那さんも感謝してると思うよ。長い間、本当に大変だったね・・・」
「すみません。しばらくあなたの胸を貸してください」
静香は慎一の胸に顔をうずめると泣き始めた。
まるで15年間分の涙を一気に流すように・・・
それは喜びの涙でもあることはわかった。
慎一はいつまでも抱きしめていた。
(つづく)