はっちゃんZのブログ小説

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5.美女の慈善家(第2章:いつまでも美しい女)

遼真から『昼前に神社に来てください』と連絡があったため
それまでの時間を警視庁迷宮事件係(通称038(おみや)課)の

宮尾徳蔵警部と小橋光晴刑事は、

部屋で渋茶を飲みながら何気なく古びたテレビを見ていた。            
テレビでは、『秋は紫外線に注意』のテーマで
最近有名になり始めた『クレオパトラグループ』代表取締役社長、
クレオパトラ=涼子』こと、『美真野(びまの)涼子』が
白金台の自宅にある温室の薔薇園内でインタビューを受けている。
ヨーロッパから取り寄せた年代物の白いテーブルに
真っ白の上品なティーカップが置かれており、
そのティーカップからは薔薇の香りが漂っている。
薔薇園内からは、美真野涼子の先代が
ヨーロッパから直接購入した中世風洋館の自宅が見える。
白い大理石で出来た立派な玄関の前には、
ライオンの顔の噴水があり、
澄んだ水で満たされた小さな池には
多くの大きな錦鯉が泳いでおり、水際には鳥達の姿が見える。
玄関の向かって左側には外車が5台以上入る駐車場があり、
自宅の向かって右側には30メートルの家庭用プールも見える。
庭は一面芝生で覆われており、高い塀に沿って高い樹木が植えられている。
美真野家は、
江戸時代初期から漢方薬を中心とした薬種問屋を営み、
江戸時代後期には海外から医薬品などを輸入し医薬学へ貢献した。
明治時代になると江戸時代に蓄えたその財力を生かし
大々的に医薬品を開発し始め、海外の医薬品も輸入し大企業となった。
現在では医薬品製造販売部門は、他の製薬会社へ売却し、
美容医療・美容化粧品に特化し世界へ発信していく会社として
日本の美容業界でもトップのグループ企業となっている。

「美真野社長、お忙しい中、本日はありがとうございます。
 こんな美しい薔薇に囲まれて素敵ですね」
「ええ、薔薇を毎日咲かせるのは大変難しいのですが、
 うちには薔薇の名人がいますので彼に任せています。
 おかげさまで私は大好きな美しい薔薇を毎日見ていられます」
美真野の隣に立つ執事で弟でもある士郎が振り向くと
遠くで枝を剪定をしている麦わら帽子の職人姿の男性が頭を下げて挨拶をしている。
「毎日、こんな美しい薔薇を見て暮らせるって幸せですね」
「はい、美しい物を見て暮らす毎日が私の理想でしたから」
「いいなあ、私もこんな生活をしてみたいです。
 それはそうと、社長はいつもお綺麗で驚きます。その秘訣は?」
「ありがとう。
 秘訣は、心身共に健康に保ち、わが社の製品を使うことです」
「社長、失礼ですが、おいくつになられます?」
「女性に年齢を聞くものではありませんよ。ご想像にお任せします」
「失礼いたしました。
 いつまでも美しいものでついつい聞いてしまいました。
 美真野社長、これからの季節に注意することは何でしょうか?」
「夏が終わり、秋になると強い紫外線が増えますから、
 お肌の老化を防ぐために若いうちからでも100%防ぐ必要があります。
 毎日使う物ですから、肌に良い自然の成分を使った、
 例えば、当社のUVカットクリーム『UVオールカット』が良いですね」
「何か理由はございますか?」
「理由としては、人間の細胞の分裂回数は決まっていますから、
 ほんの少しでも分裂回数を減らす事が重要です。
 特に高齢化が進む現代社会では、
 毎日相当に気を付けないと
 年を取れば、皺だらけのシミの浮いた肌の老人になります。
 女性がそんなことになったら悲しいでしょ?
 やはり女性にはいつまでも美しく、
 それも肌からにじみ出る自然な美しさが必要と思います」
「確かにそうですね。社長の肌を見てるとそう思います。
 それはそうと、
 社長が最近施設にいる子供達をたくさん育てているとお聞きしました。
 何かお考えでもあったのでしょうか?」
「いえ、何も、子供達は社会の宝です。
 現在、残念ながら色々な事情で親と一緒に暮らせない多くの子供達がいます。
 これは親が悪いという訳だけではなく、社会の悪い面もあると考えています。
 皆さんもご存じのように、
 夫は早く亡くなり、私には長女の聖子と長男の聖也がいます。
 聖子も次期社長として今勉強中で世界中を飛び回っていますし
 聖也も美容整形医師として活躍しておりもう私の力は必要ありません。
 私の会社もおかげ様で安定し始めましたから、
 今度は社会へお返しする番と思い、
 恵まれない子供たちへ未来の夢の一つも与えることができればと考えました。
 現在3歳から5歳の女の子と一緒に暮らしています。
 食事は全員でいたしますので、それはそれは賑やかで楽しいですわ。
 彼女たちの笑顔は私を元気にしてくれます。
 よろしかったら、この後あなた方も一緒に朝ご飯を食べませんか?
 子供達も皆さんと一緒に食べることができるので喜ぶと思います」
「美真野社長、たくさんの子供達は相部屋ですか?」
「いえ、一緒に住んでいる子供達には一人一部屋で生活してもらっています。
 もちろん各部屋にはシャワー室とトイレが付いています。
 施設では個室が無かった様で、彼女たちはすごく喜んで伸び伸びしています。
 彼女達が寂しい時などは、たまに私が彼女達と一緒にお風呂に入ったり
 一緒のベッドで眠ったりしています。本当に良い子達ばかりです。
 本当は私がこの世の全ての不幸な子供達の母親になれれば良いのですが、
 それは不可能ですから、
 彼女達をきちんとレディとして育て、
 しかるべき年齢が来たら、
 私と志を同じ人達の子供として送り出すつもりです。
 そういう志の人は世界中にいますから
 彼女達の今後の人生は素晴らしいものになるはずです。
 今後会社として売り上げの一部ではございますが、
 全国の施設へ寄付させて頂こうと考えております」
「すばらしいお話ですね。感激しました。
 他の誰も真似ることの出来ないことですね。
 社長の美しさは外見だけでなく心から滲み出るものだったのですね。
 皆さん、自らの美しさのためだけでなく、
 恵まれない子供達のためにもクレオパトラ化粧品を使いましょう」

その後、洋館の一階にある年代物のステンドグラスとシャンデリアのある食堂に画面が変わった。
年代を感じさせる古い壁には大きな油絵が掛けられている。
レポーターが
「すごい立派な食堂ですね。あの油絵は有名な方のものですか?」
「ええ、中世に描かれたものと聞いています。すばらしい絵です。
 私の寝室にはこれより小さいものですが、一番のお気に入りをかけています。
 この洋館を購入した時から備品としてあったものです」
やがて美真野社長と5人の子供達とテレビ局員との朝食風景が始まった。
子供達は綺麗に散髪されており、キチンとした白い長袖のブラウスを着て首元までボタンを締めている。
子供達は専属の料理人が作った朝食プレートをキッチンコーナーで受け取り、各々が決められた場所へ着席した。
いつもは無農薬の食材を使った和食が多いとの話だったが、今朝は国産小麦を使った焼き立てのクロワッサンに無農薬食材で作られたフワフワのオムレツと自家製ベーコン、ウインナー、コーンスープ、たっぷりのサラダだった。
やがて全員が席に着いた時、社長が目を閉じ両手を合わせる。そして
「無事迎えられた今日の日に感謝いたします。では、いただきましょう」
どの子も両手を合わせて目を閉じ、
「感謝いたします。ありがとうございます。いただきます」
と声を出し食べ始めた。
みんな明るい笑顔で美味しそうに食べ始めている。

「宮さん、最近、この社長、よくテレビに出てますね」
「そうだな、まあ化粧品会社の社長だからいつも綺麗にしてるけど、
 昔に比べて、最近特に綺麗になったような気がするなあ」
「好みですか?」
「いやあ、そういう訳でなく、
 なにか作られた様な感じだからなあ」
「でも、マスコミの話だと、
 肌も中学生か高校生みたいにスベスベらしいですよ」
「中学生か高校生?
 そりゃあ大袈裟だろ、もう結構な年と思うけど。
 しかしお前が中学生の肌とか言うのは珍しいな。
 最近、女に目覚めたのか?
 でも未成年相手は駄目だぞ」
「宮さん、勘弁してくださいよ。
 俺は腹筋が割れてる様なかっこいい健康美女が好みですから」
「最近、結構そんな女が増えてきているみたいだな」
「そうですよ。だから鍛えるのが楽しみなんです。
 やっとそんな女性と出会える時代になったっす」
「わかった。お前を誤解してた。すまん」
「ええ、そんな女性が居たら紹介してください」
「おお、居たらな。たぶん、わしの周りにはいないな」