はっちゃんZのブログ小説

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4.『葉山館林研究所』到着

 翌日、朝8時にマンションの玄関に京一郎からの車が停められた。

「百合お嬢様、そして桐生 翔様、おはようございます」

「おはよう。アイさん。わざわざありがとうございます」

「いえ、百合お嬢様、お安い御用でございます」

「だいぶ、道が混んでいたのじゃない?」

「いえ、大丈夫です。もしお急ぎならスペシャルモードに変えますが?」

「いえいえ、ノーマルモードでお願いします。そんなに早く着きたくないので・・・」

「京一郎様は、朝早くから私にまだかまだかと催促されたのですが、

『通常家庭では8時頃が普通でございます』と何とか説得して

 今朝はまいりました。我々は24時間大丈夫ですが」

「そうよねえ。でも兄を説得するなんてすごいなあ。私も教えてもらおうっと」

「いえいえ、我々アンドロイドが

 ディープラーニングで学習した結果でございます」

 

 翔は、身体が浮き上がるほどの衝撃を受けていた。

『アイさん』がアンドロイドと全く気付かなかったのだ。

芸能人で言えば、どことなく佐々木希似の綺麗な女性が運転手だと信じていた。

『アイさん』の肌の質感も人間と変わらない。

確かに表情に若干ぎこちないところはあるが、寡黙な人間とそう変わらない程度だし、

人と会話をキャッチボールできることに驚きを感じた。

 百合の話では、彼女は兄さんが開発した『OJO(オジョ-)システム』のロボット

で、家事能力や強力な戦闘能力を持っているらしい。

要するに可愛い顔でエプロンをつけたターミネータみたいなものだった。

首都高速道路に乗り、雪色の富士山を眺めながら、そっと百合と手を絡ませていた。

1時間もすれば葉山に着くだろう。その間ずっと変わり行く東京の景色を見ていた。

 

「そうそう、翔さん、しばらく葉山の祖父母の家で厄介になるのでそのつもりで」

「えっ?そうなの?そんなことになるならもっと早く言ってよ」

「もっと早く言ったどうかしてたの?」

「いや、色々と準備もあるし」

「服や下着はもう用意してるわよ」

「そうなの?そう言えば、朝早く起きてドタバタしてたよね?そうか」

「そう、ここは『私のフィアンセ』としてきちんとしてね」

「フィアンセはいいけど・・・きちんとと言われても・・・」

「大丈夫よ。私が好きな翔だから!自信を持って」

「そうかなあ・・・うん、がんばる」

百合が『おまじない』と言って、そっと頬にキスをしてくれた。

やがて葉山まで3キロの案内板が見えた。

 

 ここ葉山でも紅葉に彩られて町を秋色に染め上げている。

今日も雲ひとつない空は青く、葉山の海は蒼く、

それらに挟まれた空間の紅葉が美しかった。

その街並みの中で高台にひときわ輝く白亜の建物があった。

ここが百合の兄、京一郎が経営する『葉山館林研究所』だった。

昔アニメで見ていた巨大ロボットが出てくる研究所のような外観だった。

 正門は閉まっているが、アイさんが車のパネルを操作し門を開けていく。

次には建物横の道路部分が下がり、地下の駐車場への通路が出現し入っていく。

地下駐車場には、高そうな立派な車が何台も停まっていた。

一番奥部分に到着すると、アイさんが外に出てドアを開けてくれる。

恐縮しながらアイさんの先導でエレベータに乗り、地下階から1階へ上がっていった。

そこは応接室だった。

「いらっしゃい。首を長くして待っていたよ」

「もう、会ってからまだ1日も経ってないじゃない。大げさね」

「いや、それほど待ち遠しかったという意味さ」

「それは分かっているわ。今日は翔さんに何をするの?心配なの」

「そう怖い事はしない。安心しなさい。

 お前からある程度話を聞いているから大体の想像は付く」

翔はドキドキしながら二人の会話を聞き入っている。

「翔君、先ずはコーヒーでもどうだ?レイ、コーヒーを三つ頼む」

「はい、わかりました」

『レイ』と呼ばれた女性が、芸能人で言えば深田恭子似の、

スタイルのよい綺麗な職員だと思っていた翔は、この女性もロボットだと知り驚いた。

スムーズな全身の関節を使った柔らかい動きで歩いており人間と見まがうほどだった。

応接室の奥に行きお盆に載せてコーヒーを持ってきて、3人へ1人ずつ配膳していく。

「もう一度、翔君からその時のことを聞いておきたい。

 それから検査し、そのデータを私の人脈の中で最適な研究者と検証するつもりだ」

「はい。わかりました」

心配そうな顔で隣に座る百合を見ながら、その時の状況を話した。

「ふーん、そう、なぜ空間を跳べたかが一番の問題だな。これは面白い」

「千葉から東京までは相当な距離がある。それに足のセメントも気になる。

 セメントと服などが別なのも気になる。

 面白い、非常に面白い。今日からしばらく眠れないな。翔君ありがとう」

「???」

「いやあ、こんな面白い謎を提供してくれて感謝している。

 この原理が解明できれば、人類の新たなる進化に寄与できる。

 交通手段は一切必要なくなる。究極のエコが完成する。すばらしい!」

狂、いや京一郎は、興奮して叫び始めた。

百合が心配そうに二人を見つめている。