はっちゃんZのブログ小説

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55.新宿探偵事務所スタート1

翔は大学を無事卒業して、新宿のビルの事務所に入った。

すでに室内には中古だが大きく綺麗な机やソファなどが揃えられている。

1階の葉山不動産に聞くと

『前の業者が残していったものだから使って貰っていい』との事だった。

翔はアルバイトで貯めた資金で固定電話を引き、

窓の外側に小さな看板「新宿探偵事務所(浮気調査不可)」を付けた。

そして開業届けを出し、お客様用のお茶セットや文房具など色々と揃えて開業した。

奥の部屋には生活兼修行部屋がある。

玄関のプレートには『新宿探偵事務所』と彫り込まれている。

 

開業の日に都倉警部がお祝いに胡蝶蘭を持って顔を出した。

百合はまだ春休みなので朝から生け花を飾っている。

お客さんがくればコーヒーを淹れて警部へ出している。

「翔、おめでとう。これはいい事務所だ。驚いた」

「ええ、館林さんのお陰です」

「いえ、翔さんが私の祖父に気に入られたからですよ」

「本当はお前を警察に欲しかったけど仕方ない。

 でも警察とは無関係じゃない仕事だから何かと俺に連絡してくれよな。

 俺もお前に協力はしたいし、お前の腕を埋もれさせるのは惜しいから」

「はい、まだお客さんもいないです」

「しかし、お前じゃあ、きっと儲からないだろうなあ。百合ちゃんがかわいそうだ」

「都倉警部、いいんです。翔さんはお金で動く人じゃないからいいんです」

「そうだな、まあがんばれよ、でも約束してくれよ。

 何か危険なこと、犯罪の匂いがあれば必ず俺に連絡をくれ。協力できるから」

「はい、わかりました」

「じゃあ帰る。それはそうと、俺の知り合いの金持ちのお婆さんとかに

 お前のことを宣伝しているから電話があるかもしれんぞ。まあがんばれ」

「はい、ありがとうございます」

 

「ねえ、翔さん、おめでとう。今日から所長ね」

「そうだな、先ずは家賃を儲けることから始まるけどね」

「それはゆっくりと考えればいいんじゃない?

 ねえ、たまに私もここで晩ご飯とか作って一緒に食べたいの。いいでしょ?」

「うん、大歓迎。百合のご飯はとっても美味しいから元気が出る」

「ふふふ、やっと翔さんから合格点をいただけました」

「いや、昔から美味しかったよ」

「桐生のお婆様にコツを習ってからの方が、

 美味しくなったことがわかりました。

 葉山の実家でもそのように言われています。

 それを先に教えられなかったとお婆様も悔しがっておりました」

「そうかなあ、俺は葉山の料理も大好きだけどなあ。それぞれと思うけど」

「ありがとうございます。きっとお婆様も喜びます」

「なんせ俺は百合が一番なのさ」

「ありがとう、翔さん・・・」

ソファに座る翔の隣へ百合が座り、顔を翔の方へ向けて目をつぶった。

翔はドキドキしながら、そっとその細い肩を抱きしめて口づけをした。

『ポッ』と頬を染めた百合の表情がとても可愛かった。

(つづく)