翌朝はいつものように準備運動をして筋肉をほぐしてから朝食を採り、
小休憩の後、太極拳の修行に入った。
師匠はもちろん『館林隆一郎翁』。
百合も翔の隣で一緒に修行するつもりでならんでいる。
「では、これから太極拳の修行に入る。
先ずは姿勢。
これは全ての太極拳に共通する姿勢の注意点と要領だから見ていなさい」
隆一郎翁が、最初の姿勢(起勢:チーシー)となる。
「二人とも向かい合わせになりなさい。そして私のこの姿勢になりなさい」
二人の間に入り、姿勢を模範し説明しながら細かく一つ一つ姿勢を直していく。
一、虚領頂勁(きょれいちょうけい)
首をまっすぐに立てること。
顎を引き首すじの力を抜いて頭頂部が吊り上げられているよう意識を持つ。
二、尾閭中正(びろちゅうせい)
尾閭は、尾てい骨の先にある経穴のことで、お尻をやや前に出し、尾閭と頭頂部が
一直線になるような姿勢となる。
三、立身中正(りっしんちゅうせい)
頭頂部と尾閭が一直線にすることにより、頚椎、脊椎、腰椎の関節に余裕ができ、
勁の流れがなめらかになる。この直線が運動の軸となる。
四、円襠(えんとう)
襠とは、股のことであり、内股のラインを円形にすること。
五、含胸抜背(がんきょうばっぱい)
勁を胸に溜め、背中へ流す事に意識し、胸を張らずに背中を張る姿勢。
六、沈肩(ちんけん)
肩を沈めること。肩があがることによる勁の遮断を防ぐ姿勢。
七、墜肘(ついちゅう)
肘をあげないこと。肘が上がることによる肘での勁の遮断を防ぐ姿勢。
八、二目平視(にもくへいし)
両目を水平にすること。左右に傾くことによる勁の流れの偏りを防ぐ姿勢。
九、全身鬆開(ぜんしんしょうかい)
リラックスさせること。身体中に勁がなめらかに流れ、身体のいたるところへ勁を
集中させることができるようになる姿勢。
十、鬆腰(しょうよう)
『人体の要』といわれる腰を柔らかくすることである。
この10の注意点は、太極拳の姿勢への基本中の基本であるが、
今まで習ってきた格闘技とは異なる筋肉や骨の使い方で
姿勢一つでも集中していないと完全なものになっていないことに気がついた。
先ず、色々と身体を動かす前に全身の姿勢に意識を配り完全に覚えることとした。
しかし二人とも元々格闘技を習得している身なので徐々に自然体として立つようになった。
※この陳式太極拳の動きは老架式及び陳式太極拳36式を参考にしています。
(つづく)