はっちゃんZのブログ小説

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『武闘派!』なのに、実は超能力探偵の物語<外伝1>百合との婚約4

翌日の仮祝言は身内だけの少数で厳かに行われた。

百合の両親も急遽帰国し出席している。

父親は館林虎明

ニューヨークでウォール街に勤めながら空手とマーシャルアーツ道場も経営している。

母親は館林 櫻

世界的に有名なピアニストで現在ロンドンに居りその道で知らぬ人はいなかった。

 

白無垢に包まれた百合は本当に百合の花の様に可憐で美しかった。

翔はと言えば紋付き袴に身を固めて、歩くのも手足が一緒に出るくらい緊張していた。

その姿を見て百合は頬を染めながら優しく笑っている。

三々九度が終わり指輪を交換してお開きとなった。

父親の館林虎明は、凄佐一派との話を聞き込み、翔へ是非とも手合わせ願いたいと申し込んだ。というより可愛い百合の夫の腕を確かめたいのが本音だったが、今日が目出度い日であったため我慢した。『今度は是非ともニューヨークの道場で会いたい』と言ってくる。隆一郎翁同様に格闘が好きな性格のようだ。ニューヨークでギャングが跋扈する場所に道場を開いて、他流試合も数多く経験しているため若い翔の戦い方に興味があるらしい。

鬼派の戦い方は、基本技や修行内容は同じだが、徐々に一人一人が異なる格闘技で修練を積み、その先に新しい一人の格闘家が出来上がるのが常で祖父麒一と翔も異なる戦い方だった。

 

祝言の後、翔と百合が二人で部屋でゆっくりとコーヒーを飲んでいる。

「百合、今日は色々と疲れたんじゃない?

 白無垢の君はすごく綺麗だったよ。

 百合のこと、今日でよけいに好きになっちゃった」

「翔さん、ううん、あなたと呼びますね。

 あなたと婚約できて良かった。

 いつか二人でお父様やお母様の住む国へ遊ぶに行きたいです」

「本当に遊べるの?

 お父さんは僕と戦いたかったようだよ」

「本当に困った格闘オタクだわ。ごめんなさい。

 きっと父はあなたの腕を知りたいのだと思います」

「きっと百合のお父さんだからすごく強いんだろうなあ」

「そうねえ。お爺様より少し弱いくらいかな?」

「あのねえ。全然参考にならないよ。まいったなあ。

 お母さんはそうじゃないみたいで安心した」

「いえ、母も私同様に合気道をしているし、指先を使った戦い方をします。

 ピアニストですから指先が強いのです。

 1センチ位の薄い杉板なら指先で穴を開けますよ」

「ええっ?あんなにおしとやかに見えるのに?」

「外国に行くと暴漢も多いですから護身用だそうです」

「護身用でそのレベルなの?まいったなあ。

 もし百合を泣かす様な事が合ったら全身穴あきだらけにされそうだ」

「そうよ。そしてお父様とお爺様のサンドバックになるわ」

「怖いよ。でも君を泣かす様な事は絶対しないから安心して。

 ずっと君を死ぬまで愛し続ける」

「お願いね。絶対に無理はしない事。

 不安な時は桐生や館林を頼る事。

 それは恥ずかしいことではないですから。

 それが将来の私達の行く末を決める事になるわ」

その時、

ドアがノックされ、開けると道場で戦った立花が立っている。

「翔様、凄佐様がお二人でお話をしたいことがあるそうです」

百合がすぐさま

「呼び出すってどういう事かしら。

 用事があるなら自分自身で来るべきね。

 私も一緒に行きます」

立花は焦って

百合姫様に来られては困ります」

「妻が夫と一緒に行って悪いとは聞いたことはないわ」

「それはそうですが・・・」

向こうから佐々木が立花へ

「まだ連れてこないのか。遅いと言って怒ってるぞ。

 あっ、百合姫様・・・」

「さあ、私達をその場所へ連れて行きなさい。場所はどこですか?」

「う、裏の池のお堂前です・・・」

「裏の池のお堂前と言うと以前私を呼びだした場所ですね。行きましょう」

おしとやかな筈の百合の強い態度に二人とも驚いている。

 

その場所に着くともう暗くて顔の判別もつかなかった。

上弦の月の暗い光が、ぼうっと小さな池を照らしている。

なぜかうるさいまでの蛙の声が聞こえてこない。

じわじわと殺気が伝わってくる。

その時、

『ビュッ』という羽音が聞こえた。

翔は隣に居る百合を抱いて横へ転がった。

「えっ?きゃあ」

翔のいた空間を通過し木の幹に弓矢が当たった。

刺さっては無いところを見ると矢じりは付けていなかったようだ。

ただ当たり所が悪ければ大変なことになっていた。

さすがに翔も怒りを感じた。

「おい、どういうつもりだ。

 さっきは俺と戦わなかったのに今度は夜襲か?

 そこの藪にいるんだろ?出てこい」

「うぬ、百合姫様が来るとは知らなかった。

 立花、佐々木、お前たちは何を聞いてた。

 しかし本当に噂通り夜にも強いのですね。

 これではもう私は叶わない。

 今まで大変ご無礼致しました」

百合が驚きから立ち直って、目に怒りを宿しながら、

「凄佐殿、私の夫にこういう事をしてどういうおつもりですか?

 それに本当にあなたは昔から同じことしかしない。

 自分のお付きにばかり嫌な事をさせて自分はいつも指示ばかり、

 以前、お爺様のお願いであなたとお会いした時、

 お付きにばかり言いつけて何一つしなかったのを見てあなたを嫌いに、

 出来なかったお付きの人を責めるあなたを見て軽蔑したのです。

 あなたの家が元家老で何代か前の叔母様が嫁いだ家かはどうかは知りませんが

 私には関係ないこと。

 私は戦いに強いから翔様を夫に決めた訳ではありません。

 翔様は弱い人の前面に立ってその人を守ります。

 そんな翔様だからこそ、私は妻になったのです。

 私の好きな翔様が偶然戦いに強かっただけの話なのです。

 あなたも館林一族の大切な人間ですから、

 今後このような事が無いと約束するなら今回の事は不問にします。

 将来、私達夫婦はこの館に住むことになりますが、

 その時までにその性根を直しなさい。

 わかりましたね。

 このたびの非礼、きちんと翔様に詫びなさい」

凄佐は、藪から出てくると地面に正座をして

「翔様、百合様、このたびは大変申し訳ありませんでした。

 年齢も近いものですから大きな勘違いをしていたようです。

 強さも大きさも我々では足元にも及ばない事がわかりました。

 今後は精一杯修行し直し、お二人を守る盾となれますよう心を入れ替えます。

 そしてお二人の寛大なお心に感謝いたします。

 このたびの婚約の儀、誠におめでとうございます」とキチンと詫びを入れた。

この度の事は両家の誰にも知らせず若い者達だけの胸に仕舞われた。

将来この若者達は、翔と百合を旗頭として、

前橋館林家の最も勇敢な戦いをする武士(もののふ)として

館林一族の中でも一番の武術集団に育ち、

命を惜しまない『最強の盾一族』として戦った相手からは恐れられた。