はっちゃんZのブログ小説

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『武闘派!』なのに、実は超能力探偵の物語<外伝1>百合との婚約3

道場での稽古で、最初は凄佐ではなく、

ニヤニヤしている身体の大きな男が立ち上がった。

凄佐より

「一番立花、始め」の声が掛けられた。

立花という男は、弁慶のような大きな身体で力が強いみたいで

片手で大きな木刀をブンブン振り下ろし諸手上段に構えた。

正々堂々の大きな構えで敵を圧する構えである。

「オリャア」

ジリジリと正面から近づいてくる。

間合いに入った瞬間、

その上段の剣は目にも見えない速さで翔の頭へ振り落とされた。

これが当たれば確実に頭蓋骨は割れ死ぬ事は確かだった。

翔は棒を折らない様に正面から受けず、横へと移動しながら棒で流した。

立花は当たると思っていたので前へたたらを踏みながら一瞬身体が流れた。

その瞬間、棒で木刀の根元を上から叩いた。

『カラン』と道場の床へ木刀が叩き落され、首元へ棒が突き付けられた。

すぐさま

「次、二番佐々木」

佐々木はすぐさま立ち上がり、

一礼すると右足を約半歩引き、長い木刀を脇構えに構えた。

長剣は間合いがはかりにくい上にこちらの呼吸を読んでスッと寄ってくる。

相手の視線の方向から

狙いは左脇を思わせて、二刀目は上段に変化する可能性があった。

すばやい剣が側面から脇へ迫ってくる。

翔は棒を立てて受けるとその反動で回して木刀を絡めとった。

『カラン』と道場の床へ木刀が飛び、首元へ棒が突き付けられた。

いらいらするように凄佐から

「次、三番千葉」

千葉もすぐさま立ち上がり中段に構えた。

どのようにでも変化する構えである。

ただ千葉の鋭い視線は翔の目より下部分へ固定されている。

そして肘の高さが普通の構えより高かった。

つまり『喉』への突きの可能性が高い。

「イヤア」

やはり千葉の木刀は翔の喉へ一直線に向かってきた。

翔は前へ一歩踏み込み、木刀を首の横に避けると棒を回し木刀を飛ばした。

『カラン』と道場の床へ木刀が飛び、首元へ棒が突き付けられた。

「次」と凄佐から声が掛かったがすぐに立ち上がる者はいなかった。

各人が座っている姿勢である程度の腕前はわかるもので

どうやらこの道場の上位3名が今までの立花、佐々木、千葉だったようだ。

凄佐がイライラするように

「誰も翔様に参ったを言わせる者はいないのか」と呟くと

すぐさま立花が立ち上がって

「では、今度は立ち技で勝負」と向かってきた。

構えから見て「柔術」であることはわかった。

彼に捕まれば、投げられ極められ骨を折られたりする可能性が高い。

翔は棒を足元に置くと相対した。

立花の両手がジリジリと襟へ向かってくる。

立花が翔の襟を掴みに来る前に太腿へ下段回し蹴り(ローキック)を放った。

『バチン』

ムエタイ式の力を逃さない蹴り方なので蹴られた足は一瞬で動きが遅くなる。

「うっ」

動きが止まったその瞬間に逆に懐へ入り背負い投げを極めた。

本来は頭から落とす技なのだがそれを回避して頭を優しく庇った投げだった。

「うっ、参った」

立花は茫然としたまま床に倒れている。

休む間もなく

すぐさま佐々木も今度は立ち技で相対してきた。

どうやら構えとしては「空手」のようで派手な後ろ回し蹴りや踵落としを放ってくる。

大技は間が空きやすいのでその瞬間に懐へ入り、

館林隆一郎翁の技を使い壁板へ叩きつけた。

「ウグッ。参っ・・」

 

凄佐が叫んだ。

「こうなればみんなで掛かれ」

「オウ」

と残り8人が翔を囲んだ。

翔は常に縦横無尽に動きながら一人ずつ撃破していった。

道場の床に8本の木刀が音を立てて転がった時、道場に館林隆一郎翁が入ってきた。

「おうおう、若い者は元気でいいな。

 歓迎会はもうそろそろいいのではないか?」

凄佐が

「はっ、わかりました。噂通りの腕前でした」

「凄佐は戦わなくて良かったのか?」

「はあ、翔様もお疲れでしょうから今日はいいです。

 負けた時の言い訳にされても困りますから」

「翔君、凄佐はそう言ってるがどうだ?」

「私としてはまだまだ戦えますが、

 そろそろ百合も来る頃だし、今日はここまでという事にしましょう」

その言葉を聞いて、凄佐が怒りで赤黒い顔になり

「何?無礼者」

脇差を抜いて切りかかってきた。

翔はすぐさま腰の守り刀を抜くとその刃を受けた。

『キーン』

と音が鳴り、凄佐の持つ脇差が真っ二つに折れて刃先が床に突き立った。

それを見ていた祖父の栄佐が

「凄佐、そこまでじゃ。

 明日は晴れやかな日。

 その日を血で汚さないようにした翔様の気持ちを理解しなさい。

 時代が時代ならばお前は切腹ものなのだぞ。

 隆一郎様、麒一様、翔様、今日は私に免じてお許し下さい」

凄佐は、翔を睨みながら「失礼します」と足早に道場から出て行った。

隆一郎翁が、ニヤニヤ笑いながら

「まああれくらいの鼻っ柱の強さが無いと前橋館林本館は守れないわなあ。

 それに昔から百合を好きだったからショックだったのだろうなあ」

「申し訳ありません。父親が龍を退治した偉人の須佐尊を尊敬しており、

 その名前を付けたせいかもしれません」

「確かに翔君の父親は龍一だから龍の子を狙ったか」

「まあ彼も翔君の人となりや腕前を知ればいずれ忠臣となるだろう」

「それに翔君があれくらいの腕にやられるようでは百合の夫にはなれない。

 今日は貴重な経験をさせて貰った。

 しかし翔君、君も甘いね。

 棒を突き付けて参ったを言わせるくらいなら、

 二度と立ち上がれない様に叩きのめすべきだったと思う。

 ああいう相手の腕前もわからない輩にはキチンと教えた方がいい。

 それならば最後は全員に囲まれる事も無く、凄佐も反抗しなかったはず。

 もし銃とかの援軍があれば勝てなかった可能性もある」

「そうでしたか。

 ただ必死で鍛えてきている人達だったので

 その技を引き出してあげたかっただけなんですが、

 甘すぎましたか。今後気をつけます。」 

「そうだな。今後鬼派を名乗るのならばそうしなければならないぞ」

と祖父麒一からもアドバイスがあった。