はっちゃんZのブログ小説

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『武闘派!』なのに、実は超能力探偵の物語<外伝1>百合との婚約2

翔が初めて仮祝言の前日に祖父母と共に『前橋館林本館』を訪れた。

家や敷地は、館林葉山邸よりも大きく構えもとても立派だった。

大きな門から入り玄関に着いた時、翔の脳裏にある光景がフラッシュバックした。

 

当時5歳だった翔は今は亡き父親龍一と一緒にこの屋敷の道場で稽古をした。

翔はただひたすら身体を鍛える毎日でその日も道場の隅で一人稽古をしている。

やがて父親とこの屋敷の人間が掛かり稽古を始めた。

翔は道場の隅へ正座し多くの戦いをじっと見ている。

父龍一は何人もの人と稽古し、そのたびに相手へ指導している。

その内容を嘲笑や嘲りを送っている集団がいた。

その集団は静かに見ている翔にも嫌な目つきを送り挑発してくる。

そんな時間もやがて終わり、

裏庭の井戸端で父親と一緒に汗を拭いていると

突然、父が

「翔、お姫様が来たよ」

ふとその方向を見ると着物を着た3歳くらいの可愛い女の子が現れた。

そして手に持っている一輪の百合の花が翔へ手渡された。

「私の好きな花なの。翔様にさしあげます」

「はい、ありがとうございます。大事にします」

お姫様と呼ばれる女の子がニコリと笑った。

その笑顔は、端正に育てられた百合の花のような高貴な輝きを放っていた。

 

玄関から上がっていくと奥の客間へと案内された。

奥からは明日の仮祝言の準備のためか、多くの人が動いている気配が漏れてくる。

奥の客間では館林隆一郎翁と傍に二人の男が座っていた。

一人は初老の男ともう一人は翔とそう年齢も変わらない男だった。

館林隆一郎翁から声を掛けられた。

「麒一殿、直接会うのは久しいですね。まあまあそちらへお座り下さい」

「はい、ありがとうございます。翔、こちらへ座りなさい」

桐生麒一から館林隆一郎翁のそばに控える初老の男へ

「おお、栄佐(えいすけ)殿、久しいですね。お待たせしました」

「いえいえ、朝から今か今かとお待ちしておりました。

 こちらに控えている者が私の跡継ぎの凄佐(すさ)でございます」

「ほう、そのお名前のような力強い若者ですな」

「いえいえ、まだまだでございます。過分なお言葉ありがとうございます。

 桐生家の翔様にお会いしたのは幼少の頃のみでご立派にお育ちになりましたねえ」

「はい、ありがとうございます。翔もまだまだこれからです。

 それはそうと急なお話で驚かれたでしょう。申し訳ないです」

「いえいえ、以前から決まっていたことですから。

 いつかはこちらに来て頂けるものと考えていましたから驚きはありません。

 それに百合姫様も前向きとお聞きして喜んでいます」

「そうですか。それはありがとうございます」

それを聞いた隣にいた凄佐の顔が憎々し気に歪む。

 

館林隆一郎翁の傍に控えていた館林栄佐は、江戸時代においては前橋館林家の家老一族で三代前の頭首の妹が嫁いだ家系である。現在葉山の相模館林家は江戸から見て裏鬼門の方向にあることと海からの敵襲に備えた場所にペリー来航のあった年に四代前の党首の弟が起こした家である。館林一族は男系一族で血筋から見ればより直系と言えるのは葉山館林家であることと現在前橋館林家の頭首は不在でもあることもあり相模館林家の頭首が実質権限を握っていることとなる。

以前記した様に前橋館林家党首はなぜか次々と死亡したため17年前に家老一族との家督争いが起こった。その時の争いの様子は別の物語となるためここではしないが、結果として前橋館林家元家老一族の次期頭首候補、凄佐の父親栄次郎と桐生一族次期党首候補、翔の父親龍一は共に亡くなり現在に至っている。

 

しばらく世間話が続いた後、栄佐の傍に控える孫の凄佐から

「父上、そろそろ若い者は若い者同士お話をしたいと思っています。

 我が一族の若者も翔様のおいでを今か今かと待っておりました。

 是非とも翔様に若者へ手解きを願えましたらと思っております」

「凄佐、明日が大事な日であるのに何を言い出す。別の機会でもよかろう」

祖父の麒一から

「いえ、確かにそうかもしれませんね。

 栄佐殿、凄佐殿の話すことも一理ありますなあ。 

 翔や、皆様に色々と教えてもらいなさい」

と翔の方を顔を向けると前からは見えない方の目でウインクした。

翔は凄佐の雰囲気から何かを察知し一瞬で気持ちを引き締めた。

 

凄佐に誘われて道場に入ると若者が10人ほど待っていた。

道場に入った瞬間、翔にまたもやフラッシュバックが起こった。

 

父の苦しく歪んだ真っ赤に染まった顔が目の前に現れる。

父の首筋からシャワーの様に噴き出す血液が翔へ降りかかる。

「いやあ、ひっ、ひー」

翔の後から百合姫の悲鳴が聞こえる。

茫然としていた翔は気を引き締め彼女を守るために銃口の前に立ち塞がった。

銃に撃たれてもヨロヨロと翔と銃の間に立ち上がる父。

何発もの弾丸が父親の身体へ食い込んでいる。

一発は翔の頬を掠って血が流れた。

一発は翔の腕へ食い込んだ。

それでも翔は歯を食いしばりじっと仁王立ちで百合を守った。

何発の銃弾を食らっても筋肉を硬化して倒れない父。

やがて父親の口から翔へ伝えられた。

「翔、世の中の弱い人を全力で守れる人間になれ。

 そして己の力を過信してはいけない。あとは頼む・・・」

その時、援軍の桐生一族が道場へ入ってきた。

敵の一団と戦いが始まり、翔の近くに祖父が走ってきた。

「翔、龍一、よくぞ、姫様を守ったな。

 姫様、我々が来た限りはもう大丈夫ですよ」

翔は百合姫が一族の大人に保護されるのを見て失神した。

その時、百合姫は真っ赤な血に染まり大きな目を開けてまま茫然としていた。

 

一瞬、こめかみに手をやった翔の様子を見て凄佐が

「翔様、ご気分がすぐれませんかな?

 少し顔色が悪いようですが・・・

 ははあ、これからの事が不安なのですかな?

 そんなに心配しなくても身体は無事にお返ししますよ。

 それとももう怖くなってお止めになりますかな?」

翔は初対面から挑むような凄佐の態度に訝しさを感じた。

確かこの雰囲気は以前父と稽古で来た時にも覚えがある。

翔は不思議に思いながらも気持ちを引き締めて

「いえ、このような立派な道場は葉山以来ですので驚いただけです。

 さあ、いつから始めましょうか」

「ほう、そうですか。

 それはそうと翔様の獲物は何にされますか?」

「獲物?

 それは武器のことですか?

 私は通常は何も持たずに戦います。

 相手を無暗に傷つけることは好みませんから。

 一応何でもできる様には修行していますが、皆様は何にされますか?」

「では私達は刀が主ですので木刀にします。

 それとも竹刀の方がいいですか?大事な身体ですからねえ」

「木刀で結構ですよ。では私は棒にでもします」

翔は幼い頃から祖父や父より武芸百般、武器にしても刀・薙刀・手裏剣・礫・銃・ヌンチャクなど全ての武器を使えるように修行している。桐生一族は常在戦場の意識から身の回りの物は全て武器と出来た。

今回、翔が棒を選んだのは彼らの身体を傷つけず木刀を飛ばし戦意を削ぐためと

もし彼らに周りを囲まれ襲われた場合、棒の方が有利だからだった。

もし仮に真剣に変えられても、腰の後ろに差している守り小刀で応戦する予定だった。

この小刀は京一郎が作成した『リアル斬鉄剣』で通常の刀を切り折る事ができた。