はっちゃんZのブログ小説

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『武闘派!』なのに、実は超能力探偵の物語<外伝1>百合との婚約1

このたびの「遺族の心事件」で、殺人者から何の罪にない女子高校生を救うために

翔は初めて意識して『跳ぶ』ことができ驚き半分、嬉しさ半分だった。

今までは偶然に近く絶体絶命の時にしか跳べなかった。

しかし今回は思った場所をイメージして跳ぶことができた。

この能力をいつでも自由自在に使えるようになれば、

今まで以上に調査や戦いがもっと楽になると考えたのだった。

そのためには能力発現のための特訓が必要だった。

発現時の体内感覚はある程度覚えているので何とかなりそうだった。

百合にもテレポーテーションの発現した状況を詳しく話したが、

絶対的な必要性の問題を考えているためか

葉山での兄の行動を覚えているためか心配そうな顔をして納得しない。

 

何とか百合を説得し相談した結果、百合がそばに一緒にいることが条件となった。

急いで現在依頼されている案件を全て終わらせて、しばらく事務所を閉めることとした。

仕事の調整は何とか秋口には終わった。

場所は山梨県の河口湖近くにある館林家の別荘で特訓することとした。

いつもそばにいるアスカは葉山に待機させることとした。

何かあればバトルカーで駆けつけてくれる事になっている。

百合は早速別荘の管理人へ連絡し、

生活のためのガス・水道・電気などの準備を依頼した。

食器や水や基本調味料は常備されているので買うものは食材だけでよかった。

タンデムでバトルバイクに乗って東名高速を飛ばす。

サイドカーには百合が準備した服や下着など必要なものを詰め込んでいる。

真っ青な空と流れる秋口の冷たい風が気持ちいい。

目の前に大きな白い富士山が横たわっている。

しっかりと抱きついてくる百合の柔らかい胸が当たる背中が幸せだった。

 

百合と二人でバイクに乗って風を切っていると

以前、二人だけでの初めての『婚約旅行』を思い出したのだった。

当時の翔は仕事であまり稼げていないので大きな事は言えないが

気持ちとしては妻にしたい女性は百合しかいなかった。

プロポーズの前にその気持ちを桐生の祖父母にも相談したところ、

「少し早いがお前の気持ちが決まっているなら、

 百合さんは大学生だからまだ結婚はさせられないが、

 もし百合さんがそれを受けてくれるなら婚約をすればいい」

とニコニコしながら賛成してくれた。

色々と不安だった翔は一族的には一応大丈夫みたいで安心したが、

百合はお嬢様でもあり、

あの強くて怖い爺さんが親代わりだし、

まだ大学生で将来もあり

簡単に翔のプロポーズを受けるとも思えなかったので不安なまま東京へ戻った。

 

翔が電車に乗っているその時間、

祖父桐生|麒一《きいち》は、和室の地下に設置されている秘密部屋にいた。

壁面に大きなモニターがあり、部屋中にコンピュータや機械類が設置されている。

このコンピューターは『KIRYU機龍』と名付けられており、

目黒館林研究所にあるスーパーコンピューター『優子』と同型のもので

両機は常時協同し組織維持及び機動作戦等をコントロールしている。

そして正面の大きなモニターには百合の祖父館林隆一郎の顔が映っている。

「館林殿、さきほど翔が来て、百合姫様へプロポーズしたいと言いました。

 いよいよ止まっていた歯車が動き始めたのかもしれません」

「桐生殿、そうですか。

 少し前から百合は少しずつ以前の記憶が戻ってきている気がします。

 若もそうなのですかな?」

「いや、翔はまだほとんど戻っていませんが、いつかは戻るでしょう」

「翔君いや若が結婚を決意しましたか・・・

 実は百合は以前から若を好きで結婚したいみたいでした。

 我々が見た事も無いような可愛い笑顔を姫へ与えてくれた若者ですからなあ」

「ほう、それはそれは、あんな未熟者ですが、お役に立てて恐縮です。

 あの可愛い百合姫様の笑顔を独り占めできるとは幸せ者ですな」

「百合は我ら館林一族直系の姫であるから不確かな男には任せられないが、

 若、いや翔君と呼ぼう。彼なら何とか姫を幸せにしてくれそうだ」

「買いかぶりでなければ良いですが、育て親の欲目を除いても

 腕前や考え方はもちろんまだまだですが、順調に育っていますよ」

「こうなれば結婚はずっと先でもいいので

 婚約をして身内だけで『仮祝言』を上げますか」

「ほう、それもいい考えですね。

 しかし翔も本当に百合姫様を好きみたいであんな顔の翔を見るのは初めてです」

「それは百合も同じです」

「歯車が動き始めたとしたら『仮祝言』は『前橋館林本館』にしますか?」

「そうですな。いずれそこで二人は所帯を持つ事になるからちょうどいいですね」

「ではそうしましょう」

「では麒一殿、『仮祝言』で会いましょう」

「はい、楽しみにしています。では」

という会話が交わされたことを翔も百合も知らなかった。

 

お互い祖父母より「二人が小さな時に許嫁だった事」を初めて知らされ、

翔は会うたびに百合のその輝く笑顔に魅せられて深く愛してしまい、

そして一念発起でプロポーズするつもりで婚約指輪を選んだ。

百合が20歳となった3月3日の誕生日に

翔は有名なイタリアンのレストランに夕食を予約し

おしゃれで美味しいものを堪能して百合を部屋へ送って行った。

二人でコーヒーをゆっくりと飲みながらタイミングを見て

「百合、誕生日おめでとう。今日で二十歳になったね。

 じつは、君にどうしても言いたいことがあるんだ。

 君にはまだ早過ぎるかもしれないけれど、俺としては・・・

 うーんとね、じつは・・・」

「・・・・・」

百合は優しい目で翔を真正面からじっと見つめている。

「君の事を愛しています。僕と結婚して欲しい。

 これからずっと君と二人で一緒に歩いていきたい。

 もちろん君はまだ学生だから今のところは婚約で、

 結婚そのものはまだ将来の話だけど」

「はい、喜んでお受けいたします」

「いいの?えっ?」

「はい、ずっと私もあなたを愛しています。

 私はもともとあなた以外の人を夫にするつもりはありません」

「あ、ありがとう、百合。君を一生大切にしていくつもりだ。

 これは小さくて悪いんだけど婚約指輪のつもりなんだ」

「あっ、私の誕生石のアクアマリン。

 この色は海に優しく包まれているような安心感を感じます。

 私の好きな色です。

 翔さん、とても素敵、ありがとう」

「いやあ、本式はもっと大きな物にするから今はこれで我慢してね」

「ううん、私はどんな指輪よりもこの指輪が好き。

 だってあなたが私のために初めて選んでくれたものだから」

 

アクアマリン

宝石の言葉は『沈着、勇敢、聡明』

由来としては、ラテン語の「アクア(水)」と「マリン(海)」で、"海の水"という意味で、人魚の宝石箱からこぼれ出た宝石が砂浜に打ち上げられたとも、船乗りに恋をした人魚の涙が宝石となって浜辺に打ち上げられたとも言われているらしい。

効果は、若さを保ち、幸せな結婚を約束し、たとえ夫婦の危機が訪れても仲直りをさせてしまう魔力を秘めているという伝承があり、水の星座である魚座の人が身につけるとその力がいっそう効果を増すといわれています。

ポッと頬を赤らめてキラキラ輝く瞳でじっと見つめる百合と翔は固く抱き合って長く深い口づけをしたのだった。

百合も以前に舘林の祖父母へ相談しており、二人はめでたく婚約する運びとなった。