はっちゃんZのブログ小説

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8.YOSAKOIソーラン祭り

梅雨のないカラリと晴れた6月上旬、北海道が熱くなる。

初夏の札幌を鮮やかに彩る『YOSAKOIソーラン祭り』が開催されるからだ。

慎一の本店の屋上からは祭り会場が見えるため

一部の社員が総務に内緒でビール片手に自家製ビアガーデンを開いている。

 

今でこそこの祭りは、札幌市の風物詩で観光資源となっているが、

発足は北海道大学生だった長谷川岳さんで、大学2年の時、母親の病気治療で高知県の病院へ入院し看病のために訪れた際に、本場のよさこい祭りを見て感動し、「こうした光景を北海道でも見られたら…」と思ったのが始まりだった。

1992年6月に「街は舞台だ! 日本は変わる」を合言葉に、道内16大学の実行委員会150名で第1回YOSAKOIソーラン祭りを開催した。当初は参加10チーム、参加者1,000人、3会場という規模だったが、第8回の昨年1999年が333チーム、34000人が踊り、200万人の観客数で、今年2000年第9回は、375チーム予定、38000人が踊る予定らしい。

 

ルールとしては、演舞する曲(曲調は自由)の全てあるいはどこかにソーラン節のフレーズを入れた曲に合わせて鳴子(使い方やデザインは自由)や扇子、大旗などを持って踊る。チーム編成は踊りを構成する人(踊り子・楽器演奏者・旗・幕などの持ち手、道具運搬スタッフのこと)の150人以内(U-40は39人以下)で、あいさつ、前口上、前準備などを含めて4分30秒以内で披露する(演舞曲の目安は4分以内)となっている。

踊る形式としてはステージ形式、パレード形式の2つの形式に分けられるようだ。

 

美波が大学のチームで出場すると聞いていたので大通会場の桟敷券をと考えていたが、

残念ながら選抜に漏れて出場できないから鑑賞組になったと連絡があった。

静香のお腹が臨月に近づいていることもあり、

大事をとってテレビ中継を夫婦で見ることとした。

若い人もそうじゃない人もところ狭しと元気一杯に踊りを披露している。

音楽性といい踊りといい現代風でありとても素人とは思えないショーだった。

 

明日がファイナルとなる6月10日(土)22時30分頃、その事件は起こった。

大通公園西八丁目会場での演舞が終わった直後に西6丁目公園内の仮設ごみ置き場付近で爆発が起きたのだ。祭り帰りの踊り子たちや観客で祭りの余韻が残っているさなかだった。灰皿付近に仕掛けられた爆発物(爆弾)は、ファストフード店の紙コップに入っていたと見られ、学生を意識不明の重体にさせ、10人ものスタッフに重軽傷を負わせるほどの殺傷力があるものだった。警察発表では、多数のクギが飛び散り、飛散物に火薬の痕跡が見つかったことなどから、何者かがクギと火薬を仕込んだ爆発物を、ごみに見せかけて祭り会場に置いた可能性が高いとのことだった。

 

美波に急いで連絡して無事だったことを確認してほっとした夫婦だった。

その夜に美波が家に戻ってきて、楽しかった祭りの話を聞いたが、

残念ながら事件の後では後味の悪い物を感じた。

でも来年こそは子供たちに姉ちゃんの勇姿を見せてあげるとはりきっている。

綺麗に化粧して大人っぽくなった娘を見て、

自分が娘を産んだ年齢を娘が通り過ぎてしまったことを今更ながらに感じた。

そして今、新しい命がここに宿っているとお腹をさすった。

親にはもちろん言わないが、

実は同じマンションの友達が前田さんと札幌のホテルに入るのを見て

同じ年頃の女の子がそんなことをすると考え、ショックを受けて帰ってきていた。

(つづく)