はっちゃんZのブログ小説

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13.ゲレンデ

北海道の雪は、「ユキムシ」がその訪れを知らせ、

遠くに見える高い山が「初冠雪」し、

街中に「初雪」が降り「初積雪」となり春まで「根雪」となる。

12月には背丈以上の雪壁が出来て小樽の街も大学も白く染まる。

テニスサークルがウィンタースポーツサークルへと変わり、

倶知安の『ニセコ合宿』が開始される。

ニセコスキー場の雪質は日本でも珍しいパウダースノーで、

世界中に知られており、ここを訪れる外国人客も多い。

 

美波は初めてのウィンタースポーツを楽しみにアルバイト代を必死に貯めた。

土曜日の朝に倶知安駅で集まり、バスに乗ってスキー場へ向かう。

ゲレンデには外国人も含め多くの人が滑っている。

初心者は新入生の美波や県外出身の女の子くらいのもので

あとのメンバーは我先に颯爽と滑って行く。

美波は友人とスノーボードの初心者スクールに入って練習を始めた。

美波は運動神経がいいので上達は早かった。

簡単に基礎を教えてもらって終了した。

スノーボード人口はまだ少ないのでゲレンデの隅でしか滑れなかった。

しかしターンがなかなかできず、

すぐに転ぶ初心者の美波にはちょうど良かった。

 

そんな最中、ゲレンデの一角で人が集まっている。

サークルメンバーのウェアが見えたので急いで現場へ行くと香山さんが倒れている。

そんな時、前田さんが到着すると彼女を背負ったままストック無しで滑り降りていく。

先輩方の話ではさすがスキーA級の腕前だと感心している。

普段は便利屋で笑わせ屋の前田さんが、その時だけは格好良く見えた美波だった。

 

夕方になりホテルに着くと

足を痛めた香山さんがギブスと松葉杖をして手を振っている。

病院へ行ってレントゲンを撮ると骨にヒビが入っていたらしい。

道理で捻挫の割にはすごく痛がっているはずだった。

サークルメンバーは倶知安駅の前のビジネスホテルへ泊まった。

夕食後、食堂の部屋をサークル貸切で飲み会が始まった。

座も騒がしくなってきた時間を見計らって

食堂から出てホテルのベランダへ出て、

夜のライトアップされたスキー場を見た。

大きな雪が舞い降りてきてダウンジャケットに降り積もる。

袖部分をよく見ると六本枝の結晶が付いている。

『雪って、本当にあの形になるんだ』

と感心して見いっていると後から声が掛かった。

 

「日下さん、大丈夫?酔ったの?」

「ああ、前田さん、酔ってませんよ。ナイトゲレンデを見ていただけです」

「本当に綺麗だよね。日下さんはスキーじゃなかったの?」

「はい、スノーボードの方が、保管スペース少ないからちょうど良かったので」

「そういえばそうだね」

「今日は大変でしたね。でもすごくスキーうまいですね。驚きました」

「ありがとう、小さい時からよく滑ってるから自然とね。

 テニスではいいところを見せられないけどスキーなら自信があるんだ」

「いえいえ、そんなことないですよ。一緒にプレーしてて安心できます」

「ありがとう、でもこんな風に話すの初めてだね。だいぶ大学には慣れた?」

「はい、お陰様で。でも北海道はいいですね。思った通り」

「雪が大変で不便じゃないの?」

「まあ慣れの問題です。食べ物は美味しいし、

 空気も澄んでてサラッと乾燥しててとっても好きです」

「そうなんだ、僕は北海道しか知らないからわからないけど。

 でもそう言われると嬉しいな。

 僕は小さい時から冬は毎日ずっと雪かきだし、

 夏や秋は家の手伝いばかりの毎日だったから嫌だったけど」

「そうだったんですね。私は前田さん見てたら毎日楽しそうだったから意外でした」

「まあね、色々とあるから、田舎は嫌なんだ」

「まあ、それは田舎出身だからよくわかります」

「そうだったね。じゃあ、寒くなってきたから部屋へ戻ろうか」

「私は、着込んで着ましたからこの綺麗な光景をもう少し見ています」

「じゃあ、気をつけてね」

「はい、ありがとうございます」

 

ニセコ合宿から帰ってほどなくして、

怪我した香山さんの部屋に前田さんが訪れる機会が増えてきた。

付き合っているのがわかったので自然と彼女の部屋へ行くのは遠慮するようになった。

自然とマンションとゼミが同じのもう1人の友達の芳賀さんと

図書館で一緒に勉強したり札幌に行って遊ぶ機会が増えた。

芳賀さんは茨木(イバラキ。間違うと訂正あり)県生まれで、

明るく頭の良い女の子だった。

この人もお嬢様のようだが3姉妹の真ん中で、

非常にしっかり者で美波は色々と相談することも多かった。

(つづく)