慎一が米子へ戻り、去年と同じように時間が流れていく。
ただ今年は美波ちゃんの進学を決める大事な1年なので
今までのようにはいかない。
美波ちゃんのテニスは春の県大会でベスト8まで行った。
本人としては最後までベストを尽くしたので満足だったようだ。
そこから受験まで勉強一色となり、
塾へ力が入り予習復習に余念がない毎日が続く。
そんな時、美波ちゃんから思いがけない話があった。
北海道の雄大な自然に触れてみたい。
北海道の富良野や知床などの写真集を見る機会があり、
北の雄大な地でしばらく暮らしてみたいと思ったらしい。
全く知らない人ばかりの中で生活をして自分を試してみたいと考えた。
『それに仙台にはお婆ちゃんもいるし、
たまに遊びに行けるから安心して』と笑っている。
将来の進路に関しては、
仕事はおじさんと同じの金融関係を考えていること。
就職率100%という驚異的な大学『小樽商科大学』を第一希望とした。
小樽は北海道でも通商、金融関係では非常に古い歴史のある街だった。
写真では運河や煉瓦造りの倉庫などのある街並みで観光地としても有名である。
静香も慎一も美波の受験生活のバックアップを第一として暮らした。
その結果、無事第一望の『小樽商科大学』に合格した。
静香は本やテレビでしか見たことのない北海道という土地へ行く娘を心配したが、しっかりした考え方を持っていることに今更ながら驚きそして見送ることとなった。
美波が独り暮らしになるため、静香は一度部屋を見たいと言ったが
『大丈夫、女性専用のマンションだから安心して』
と言うので任せるしかなかった。
一人になって良く考えてみれば
美波を身ごもった自分の年齢と変わらないことに気がつき
時間の流れの早さを感じた。
美波を無事育て上げたことに喜びもあるが、
母親としての役目がなくなったことへの寂しさも感じた。
3月は美波の生活用品や北国専用の服などの購入に時間を使った。
そんな慌ただしい毎日も、
いよいよ米子空港を飛び立つという日が近づいてきた。
『入学式は交通費が勿体ないから出なくていい』
と大人びたことを言ってくる。
『それに帰りが羽田空港乗継なのでドジな母さんが心配』と言ってくる。
せめて写真をという事で、前日に入学式のスーツ姿を写真屋で撮影した。
慎一は運転手だったが、
最後に3人で撮ろうという美波ちゃんの言葉で一緒に撮った。
慎一から美波ちゃんへ
通学用にも使える『COACHレザートートバッグ』を贈った。
(つづく)