『ベリッ』
口に貼られたガムテープを乱暴に剥がされた。
「お前は」
「あの時は世話になったな。
警察なんて泣いて反省したふりをすればちょろいもんだぜ。
俺たちは将来、医者になる人間だぜ。信用されて当たり前なんだよ。
『もう彼女には近づくなよ。お前にもいい人が必ず現れるから』とか馬鹿だぜ。
医学部に入っているくらいのこの頭には警察官なぞ、馬鹿にしか思えないさ」
「それで・・・」
「何も女を傷つけた訳でもないので楽勝さ。初犯は軽いからなあ。
貴様、俺様に大変な苦痛を味合わせてくれたな。
俺様は将来医者になってお前達貧乏人を救ってあげる偉い人間なんだぞ。
お前達みたいな庶民は俺様達の言う事をきいておけばいいんだ」
「お前には、この前言ったはずだぞ、今度見かけたら殺すと」
「ははは、おい、こいつ馬鹿なのか?まだ状況を理解できていないみたいだな」
「本当だ。お前さあ、こんなに芋虫みたいになって何ができるの?」
「おい、まずは聞いておきたい。彼女には何もしていないな?」
「ああ、今はね。綺麗なお顔で、どんな顔でお相手してくれるのか、楽しみだ」
「お前達、二人だけなのか?」
「いや、もう一人呼んでいる。もうじきくるだろうな」
「おい、お前達、そんな犯罪は辞めた方がいい。
このまま帰れば今日は無い事にしてやるから」
「ははは、お前、今さっきから何言ってるのさ。少しわからせた方がいいな」
二人は、翔を囲んで殴る蹴るを繰り返す。
その時、その物音に百合が意識を取り戻した。
可愛い丸い眼が大きく見開かれて、痛めつけられている翔を見つけた。
アザだらけになった翔の顔をじっと辛そうに見つめている。
翔が目を瞑っているように目配せした。
百合は再び意識を無くしたふりをして目を瞑っている。
呼び寄せた一人がドアをノックした。
二人の意識が翔から一瞬離れた。
その瞬間、翔は肩の関節を外して手錠を前に回すと関節を入れなおし、
百合の方へ転がって行った。
次に手首の関節を外して手錠を外し、両手を自由にさせた。
片方の足首の関節も外し脚の手錠も外した。
二人は驚いて翔を殴ろうと向かってきたが
ブラジルの格闘技「カポエラ」の要領で二人を蹴り上げた。
一人は急所に決まり悶絶した。
「ふふふ、そんなこともあろうかとこれを用意していたのさ」
男は改造拳銃を懐から出した。
翔はニヤリと笑って
「おい、そのままでは弾は出ないぜ」
男は驚いたように拳銃を見た。
翔から視線が離れたその瞬間、翔は胸ポケットに差していたボールペンを投げつけた。
男の拳銃を持つ手の平に深く突き立った。
拳銃が床に転がった。
安全装置がかかっているため暴発しなかったが、翔は肝を冷やした。
拳銃は百合の目の前まで転がっていった。
男が拳銃を拾おうと跳びついた。
翔はすばやく動き、
その男の手に突き刺さったままになっているボールペンを
再び深く突き刺して畳へ縫い付け、
拳銃を部屋の隅に蹴り転がした。
「ぎゃあ、イテー」
その瞬間、新たに来た男はナイフを投げてきた。
百合が後ろにいるので避けることはできず腕をクロスして受けた。
翔は前腕にナイフを突き立てたまま百合を守った。
(つづく)