今年度は昨年度の地道な努力が実り、順調に新規開拓ができている。
数字も前年同月比で130%以上の進捗で課員も張り切って仕事している。
赴任して来た当初の課員の雰囲気は『達成できなくて当然との意識』が
透けて見えるほどで、やる気にさせるのが大変だったが、
ここにきてモチベーションも上がっている。
父もやがてアパートから引っ越してきて母と住み始めた。
妹夫婦は引っ越そうと考えていたが、
母の『父に孫と遊ばせたい』との願いで引き続き一緒に住んでいる。
公私ともに順調で美波ちゃんもクラブにテストに調子がいいみたいだった。
すべてがうまくいっている時はこんなに楽しいことを慎一は初めて知った。
今年も『米子がいな祭り』の季節がやってきた。
昨年と同じように静香さんと花火を見る約束をしている。
いつものように美味しい夕食を食べて、心地良い酔いに身を任せている。
静香さんも少し飲んだようで、頬は少し赤くなっている。
美波ちゃんは友達と約束しているので先に急いで出て行った。
「ねえ、今年は慎一さんの浴衣を縫いましたから着て下さいます?」
「えっ?浴衣!?着たことないから着付けをお願いできますか?」
「はい、では2階へどうぞ」
そこは静香さんの寝室だった。化粧品の淡い香りに満ちている。
5月頃から二人並んだ時に、やたら慎一の上や下を見ていた記憶があったが、
採寸していたとは気がつかなかった。
「いい柄の生地を見つけて、せっかくだから浴衣を作ってみようと思っていたの。
廊下に出ていますから着替えて下さい。帯を結ぶ時には声を掛けてください」
慎一は服を脱いで、浴衣を広げて身体へかけた。
浴衣は「濃紺の網代模様」で、帯は「辛子色の無地角帯」だった。
「静香さん、とりあえず着替えましたが・・・」
「はい、こちらを向いて下さい。次に背中を向けてください」
静香さんはテキパキとしていく。
背ぬいに裄(ゆき)を合わせて、襟先をそろえ、下前を合わせ、上前を重ねた。
そして腰ひもをサイドで結ぶ。
襟はのどのくぼみが見える程度にあけて合わせている。
帯は「貝の口」に絞められた。
(つづく)