はっちゃんZのブログ小説

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47.業界再編への動き、そして 

北海道から帰ってきて二人だけのおだやかで楽しい生活が始まった。

美波が小樽へ旅立ってからここ数か月、さざなみを閉めている。

慎一は夜だけでなく昼も家に帰って食べるようになり、

帰宅するといつも静香にずっといて欲しいと思うようになった。

ある日、慎一は

「もし良かったらこのまま店を閉めたらどうだろう。

 僕は静香ともっともっと二人きりの結婚生活を楽しみたいな」

「本当は私もそうなの。あなたと二人きりでいられたらって思っていたの」

「それなら良かった。ほんとのことをいうと心配だったんや」

「そうね、変なお客もいることは確かだから」

「静香、もっとそばにおいで」

「うん」

 

そんな平和な毎日の中で銀行業界は確実に変わり始めていた。

慎一の勤める銀行も噂段階の合併話がいよいよ本格化し始めた。

業務提携も含めて人間に異動まで俎上に上がってきているらしい。

最近、融資部から

『体調も良いみたいだし、そろそろ戻ってこないか?』との打診が始まっている。

合併と言っても中の人間にとっては所詮競争であって、

社内競争は旧社を交えて従来より厳しくなる。

 

美波は家庭教師のアルバイトとクラブの合宿などで夏休みは帰ってこなかった。

確かに往復運賃を考えるとそう簡単に行き帰りはできる金額ではなかった。

静香はすごく残念がったが、慎一がまた札幌に行こうよと言うと納得している。

夫婦はお盆休みに神戸の実家へ行き、両親と妹夫婦を有馬温泉へ招待した。

女性軍は女性軍だけで温泉めぐりを楽しんでいる。

男性軍は全員が早風呂なだけに時間を持て余して、

妹の子供の遼君と温泉街探検をして時間を潰した。

慎一は父親の顔つきがおだやかで楽しそうなのでほっとしていた。

 

大山が初冠雪し、その美しい姿を米子市民へ見せた日の夜、

夕食後ゆっくりとお茶を飲んでいると、静香が頬を赤くして

「ねえ、あなた、出来たわよ・・・」

「えっ?」

「赤ちゃん、それも双子だって」

「えっ?双子?そうなん?やったあ、ありがとう、静香」

慎一は大喜びで静香を抱き締めた。

「最近、来ないなあと思って、

 それに少し胸が張った感じもするのでお医者さんへ行ったの。

 そしたら、『ご懐妊おめでとうございます。双子ですよ』って言われちゃった。

 なんか恥ずかしいやら嬉しいやら・・・」

「ありがとう。大事にしてよ」

「はい、大切にします」

「でも悪阻とかで色々と大変なんやろ?心配や」

「私は悪阻とかそんなに重くないから安心して」

「なら、いいけど、重いもんとか絶対に持ったらあかんよ」

「はい、わかってます。これでも経験者だから」

「そうなんやろうけど、双子は初めてなんやから大事にしてよ、それだけ」

「はーい。わかりました。あなたはこの子たちの名前でも考えていてね」

「・・・この子たち・・・」

慎一はまだ見ぬわが子たちのいるであろう静香のお腹に

そっと手を当てると聞き耳を立てた。

「ふふふ、まだまだ聞こえませんよ。

 美波もあなたもほんとにせっかち親子ね」

「そうや、すごく嬉しい。でも静香が心配やから無理せんといてな」

「はーい、わかりました。

 生まれる前からこんなになっちゃって、生まれたら大変ね」

「そらそうやろ、静香の子供やから女の子ならきっと可愛いと思うなあ」

「まだどちらかわからないわよ。もしかしたら男の子と女の子かも」

「そうやな、元気だったら、それが一番」

「そうね、あなた、とうとう本当にお父さんね」

「うん、美波も可愛いし僕は幸せ者やなって、しみじみと思う」

「私も美波もこの子たちもあなたがお父さんできっと幸せよ」

 

そんなこんなでお正月は大事を取って米子でゆっくりと過ごし、

冬休みで帰ってきた美波も大喜びでずっとお腹を触っている。

夜、布団の中で静香が

「ねえ、あなた、私も年だから、あなたとの子供が早く欲しいと思っていたの

 本当に良かったと思ってるわ」

「年やなんて、全然やで、すごく可愛いし、まるで新妻みたいやで」

「ありがとう、でも新妻って言い過ぎよ。恥ずかしいわ。私が知らなかっただけ」

「困ってる?」

「ううん、すごく幸せ。あなたの胸って温かいから」

「僕はこんなに素敵でしっかりしてる静香と一緒で居ることが嬉しいんや。

 最高の奥さんやと思う。子供ができるできないは二の次やと思ってた」

「ありがとう、そんなにまで思ってくれて、でも赤ちゃんは欲しかったの」

「そうなんや、赤ちゃんができて良かったね。

 だけど僕には静香が一番、身体を大事にしてな」

「はい、大事にします」

静香のお腹が安定期に入った頃、慎一へ人事部から異動の辞令が出た。

やはり、静香の希望通りに合併後の新銀行の「札幌支店 融資部」、

肩書きも4月から課長代理(支店長代理)となっての栄転だった。

(終わり)

 

あとがき

拙い小説をお読み頂きありがとうございました。

これからも3人の物語はまだまだ続きます。

『さざなみにゆられて-北海道編-』をお楽しみに・・・

 

(引用情報:ネット)

この小説を書くにあたり活用した情報元は以下です。

鳥取県公式ホームページ、鳥取市公式ウェブサイト、米子市公式ホームページ、

倉吉市行政サイト、鳥取県観光案内、島根県観光ナビ、神社仏閣・観光地の公式サイト、その他、筆者が山陰地方に住んでいた時に知った情報も追加しました。