ネコの捜索事件を解決した翔は、ふとミーアとの別れを思い出した。
胸の奥からフツフツとした怒りが湧き出してくる。
そして深い悲しみに包まれる。
もう暦では春とはいいながら肌に当たる風はまだ冷たい。
翔の卒業式を間近に控えた土曜日の午後、
二人とミーアは部屋でゆっくりとテレビをかけ流し、
百合が翔の背中へもたれながら、お互い好きな本を読んでくつろいでいた。
突然、視界がボーっとなり始めた。
何気に百合を見ると眠そうな目つきになっている。
やがて少し頭がふらつき始めた。
翔の脳裏に警戒警報が鳴り始めた。
すぐに呼吸を止めたが、少量の何かが身体に入ったことを感じた。
テレビの音が遠くなり、意識が無くなりそうになる。
痛点を刺激したが遅かった。
百合も翔の方へ倒れこんできた。
翔の意識が闇の世界に覆われた。
『ガツッ!』
脇腹への強烈な痛みで目を覚ました。
すでに全身に痛みが広がっている。
相当に暴力を振るわれたようだったが、時計を見ると時間がそれほど経っていなかった。
瞼を開けると部屋の隅で後ろ手に拘束された百合が眠っている。
服の乱れもなく翔は安心した。
翔の両手は後ろ手に手錠を掛けられ両足も手錠で繋がれている。
果たして
過去に見た顔が翔へ向けられた。
以前、百合にイタズラしようとして翔にこっぴどく痛めつけられた男だった。
翌日に隣の部屋から引っ越して最近は見ていなかったので安心していた。
その男の隣には、最近隣の部屋へ越してきた男の顔があった。
二人とも知り合いらしく、ニタニタと笑っている。
「さすがに笑気ガスは良く効くな。大学からかすめてきて正解だった。
こいつはすごく強いから注意しないといけないと考えて用意したんだ」
「そうなの?まあ確かにいい身体はしているが・・・」
「こいつに痛めつけられた肋骨は今も痛みがあるんだ。
寒くなるとズキズキと・・・」
「ひでえことされたものだねえ」
「そうなんだ。こいつ俺様に逆らうんだ。
こんな可愛い彼女も持ちやがって」
「そうだねえ。この前の女みたいに皆で回すか?」
「それもいいねえ。
こんな奴に惚れてる女なんてろくでもない女だからそれがお似合いさ」
「俺、結構、こんなお嬢様っぽい女が好きだな。
どんな風に泣くんだろう。
いや、以外と好き者で腰くらい振り始めるかもね」
「そうだな。今までの女は、最初は嫌がりながらも
最後は腰を振り始めるんだからなあ。
女なんて信用できないぜ。ふふふ。この女はどんな腰かな?」
「そうそう、どんな風に腰を振って喜ぶのか彼氏に聞いておこうか」
(つづく)