はっちゃんZのブログ小説

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9.美真野家の秘密1(第2章:いつまでも美しい女)

翌日の夕方17時頃、
大学の講義を終えた遼真と下校してすぐの真美は社務所奥の部屋で顔を合わせた。
宮尾警部からは新しい情報が入った。
多摩湖に沈んでいた園芸品は、
日本でも数少ないヨーロッパ製で輸入品である事が判明し、
取引業者も限られており、現在、捜査中との事だった。
それと湖に沈んでいた園芸品には数人の指紋が付いていた事が明らかになったが、
過去の犯罪歴もないため誰の者かはわからなかった。
おそらく美真野一族の関係者の指紋と思われるがその証拠は無いし、
仮に指紋が一致したとしても『湖へ捨てただけです』と言われればそれまでだった。
多摩湖で水死体が上がった時の捜索で、
ロープにでも繋がっていて一緒に上がっていれば証拠品として採用できたのだが、
今となっては水死体との関係も証明出来ないし、
ましてや殺人の立証に至っては全く不可能だった。
それに古井戸周辺で彷徨っていた14人もの人間の死体も、
今では既に肉体どころか骨まで溶かされているため証拠は無かった。

その夜から遼真は白銀台にある美真野邸の調査に入った。
手元には警察や桐生一族からの資料がある。
美真野涼子
年齢:65歳
家族構成:養子だった夫は30年前にプラットフォームから転落死
       子供は長女聖子38歳、長男聖也35歳、二人とも次世代経営者
会社経営:夫の死後、社長となりクレオパトラグループを成功させる。

美真野士郎
年齢:55歳
家族構成:独身
会社経営:医師。クレオパトラグループ副社長で美容整形部門の責任者。

夜中に近くの有料パーキングへバトルカーを停めて、
美真野邸に迷彩ドローンを飛ばしての監視に入った。
社長の涼子と弟の副社長である士郎は一緒にいる事が多かった。
特に夜は必ず白金台の邸宅にいるようで、外出する事は無かった。
実の子供の聖子と聖也は結婚して別のマンションに住んでおり、孫達も生まれている。
彼らはたまにしかこの家には帰ってこない。

先ずは家の構造を調べていく事にした。
非常に大きな家で多くの部屋があった。
X線にて透視もしているので大体の構造は明らかになった。
特徴的な構造としては、
4階建ての洋館で
1階には大きな食堂と社長と副社長の部屋、
そして1階と2階に大きな浴室がある事だった。
2階から4階には使用人及び子供達の部屋、
地下には石の敷かれた大きな広間らしき部屋がある。
1階の社長部屋と副社長室と浴室は隣り合わせで
さらに浴室の隣には小部屋のある不思議な造りだった。

てんとう虫型偵察機『天丸1号』を使い2階以上の部屋から調査することにした。
先ずは窓の外からの音声の聴取だった。
養護施設から来た少女たちは3歳から5歳までの5名だった。
彼女達は2階の浴室で世話係の女性と毎日一緒にお風呂へ入っている。
お風呂の中から声が聞こえてくる。
「今日も綺麗にしましょうね。本当に綺麗な髪ね。羨ましいわ」
「そう?嬉しい。こんな毎日、夢みたい。
 私は、ううん、他のみんなもこんな生活を夢見てたけど、
 本当にこんな生活が送れるなんて。
 レミさんは私達のお母さんね」
「いいえ、みんなのお母さんは社長の涼子様ですよ」
「ええ、そうだけど、お母様は別格のお母さん。
 私達にとってもう一人のお母さんがレミさんなの」
「そう?そんなに思ってくれてありがとう。娘の麗奈は?」
「レナさんは私達のお姉さんかな、優しくて大好き」
「ねえ、レミさん、今度お母様とはいつにお風呂入れるの?」
「そうねえ。今週出張が無いからあなたは明日の夜かな?」
「やったあ、お母様とお風呂に入ると気持ち良くて
 なぜかいつの間にかお母様のベッドで朝まで一緒に眠ってるの。
 いつもよりすごく安心してとても気持ち良いの」
「そう、それは良かったわね。きっとお母様も喜んでいるわ」
「もちろん、レミ母さんもだよ」
「いいのよ、
 あなた達には今までお母さんが居なかったのだから
 お母さんが二人居てもいいんじゃない?
 安心してもっと甘えなさい」
「はい、ありがとうございます」
「またそんな他人行儀なことを。はい、お母さんでいいわよ」
「はい、お母さん。
 でもずっとここに住めないのが寂しいなあ」
「まあみんなそういうわ。
 今まで世界中へ行った子供達のビデオレターは何回も見てるでしょ?
 みんな新しいお家で楽しくすばらしい人生を送っているわ」
「そうね。みんな色々な国ですごい生活をしてるね。
 でもここ以外の知らない場所は不安だからそう言ったの」
「大丈夫、お母様はキチンとした優しいご両親を選んで下さるわ」
「うん、ここでの毎日が幸せ過ぎるから、そう思うのね」
「そうね。
 それにあなたと同じ境遇の子供達は日本中にたくさん居るからね」
「うん、そこは我慢しないといけないよね?お姉さんとして」
「えらいわねえ、仮にここを巣立っても成人したら、
 あなたの思うようにすればいいのよ。
 そういう約束で送り出してるのよ」

他の子供達は食堂隣の居間で
麗美の娘の麗奈と音楽を流して読書をして過ごしている。
「みんな、今日もそろそろ英語のお勉強をしましょうね」
「はーい、でもどうして英語なの?すごく難しいわ」
「そうね。
 でも英語は世界中の人とお話のできる言葉だから覚えた方がいいのよ」
「世界中で?
 ふーん、そういえばこの前私達のお姉さんのビデオレター見たわ。
 確かアメリカという外国のお父さんお母さんが出来たって」
「そうよ。彼女はとても賢くて可愛かったから幸せになったのよ」
「すごく綺麗なお洋服を着て、
 すごく広いお人形さんでいっぱいのお部屋に住んでた」
「そうよ。
 みんなには今まで優しいお父さんお母さんがいなかったから
 そういうお父さんお母さんが出来るまでここで過ごすのよ」
「わたしはずっとここがいいなあ」
「わたしも」
とたくさんの子供達の声が響く。
「そうね、それはわかるけど、ここにずっとは居れないわ。
 あなた達と同じ子供がまだまだたくさん居るからね」
「そうかあ、そうだよね。でもここがいいなあ」
「はい、このお話はここまで、
 今から新しいビデオレターも見るわよ。
 みんなのお姉さん達は全員すごく幸せになってるから安心して。
 ここよりもずっと贅沢できるし、みんなの思い通りの毎日よ」
「はあーい、やったー」

新しいビデオレターが大きな液晶画面に流れ始めた。
綺麗な服を着た明るい笑顔の可愛い女の子が現在の生活を語っている。
彼女はフランスのお金持ちの子供として育てられている。
彼女が写る大きなお部屋には、
綺麗な花が飾られており人形が所狭しと並んでいる。
テーブルの上には、紅茶にジュースに多くの種類のケーキが並べられている。
それを食べながらみんなへビデオレターをしている。
「みんな、私は毎日がこんなに幸せよ。
 日本にいた時は、お母様のお家以外は殆ど食べられなかったわ。
 紅茶にはミルクをたっぷりと入れて飲んでるわ。
 ケーキもジュースをいくら食べてもいくら飲んでもいいのよ。
 昨日は初めてこっちの学校に行ったけど、
 みんなが『お友達になって』って言ってくるのよ。
 もう10人もお友達ができたわ。
 だから安心してね。
 そこで日本のお母様のいう通りにするのが一番よ。
 今度の休みは、湖の近くにある豪華な別荘へ行くから楽しみにしてるの。
 色々な国で幸せに住んでる私達みたいな子供ともお話が出来たらいいなあ。
 じゃあ、みんなにもまたビデオレターを送るね」
その後、もう一人のスイスで養子となった女の子のビデオレターも流された。
窓の外に潜む天丸1号は、
精密なレンズでその画像を全て撮影し、データとして遼真とRyokoへ送ってくる。
Ryokoはすぐさま画像解析を開始した。