百合が桐生本家へ行ってしばらくして、百合から話があった。
葉山館林の爺様と婆様が『是非に翔君を連れておいで』と呼んでいるとのことだった。
『もしかして大事な姫の百合とキスとかしてるのでこっぴどく叱られるに違いない』
ビクビクしながら百合と一緒にバイクで葉山へ向かった。
百合が翔の背にしっかりとつかまってマイクで色々と話してくれる。
足が長くスタイルの良い百合のライダースーツが眩しかった。
葉山の海は青く多くのサーファーが波と戯れている。
まだ春先なので海水浴客はいないが、
夏になると多くの海水浴客でごったがえして静かな葉山が一変するらしい。
百合はこの静かな街で幼少の時から育った。
やがて葉山の小高い丘の上に建つ洋館と研究所らしき建物が目に入った。
近づくにつれて屋敷の大きさが実感できた。
桐生本家はその周り1町全てが一族の土地で守りを固めている。
館林家は研究所を含めて桐生本家と変わらないくらいの広さであった。
その周りも同様に一族で固めているとすると驚くべき広さであり要塞であった。
翔は背中にあたる柔らかい物を昨夜そっと触ってしまったことを
今更ながらに思い出して背中から汗が噴き出てきた。
何度もキスするうちにお互いが求め合った結果だが・・・。
百合のお嬢さん度がわかるにつれて
彼女の実家の大きさを想像すればするほど翔は焦ってきた。
しかし世間一般から見れば
翔自身がお坊ちゃまであることまでは理解していなかった。
実は館林家の詳しいことは百合にも知らされていない。
徳川時代の館林一族本家は群馬の前橋館林家であり葉山館林家は分家であった。
将軍家守護の一族として前橋館林家と桐生家は懇意な関係だった。
明治以降、前橋館林家は党首が次々に怪死してゆく事件があり、
葉山館林家が本家として存続していくこととなった。
この館林邸に出入りする者、業者も含めて全員が館林一族で固められており、
一族は警察・公安を初めとして政治、経済の各業界へ広く深く人脈を持ち、
桐生家と共同であらゆる情報を入手している。
現在の館林家頭首は、隆一郎、妻は悠香である。
隆一郎は館林家頭首相伝の抜刀術と組討術を護身術として習得しているが、
若い頃、中国大陸に渡った折に剛柔相済、快慢兼備を理想とした「陳家太極拳」を習得し、日本国内で唯一のマスターでもあり、
百合の父親は葉山館林家次期頭領で、現在米国ニューヨークで研究をしており、
母親は著名なピアニストであり、殆ど日本にはおらず年に数回のみ帰国する。
(つづく)