はっちゃんZのブログ小説

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10.テロ教団から都民を救え!3

翔は紅柳博士に寝ているふりをしてもらいながら布団の中で打ち合わせた。

瑠璃も『何とか外部と連絡は取れないか』と思っていた矢先のことなので、

翔のことを色々と確認しながら、今までのことを語った。

 

この部屋へ幽閉される1ヶ月前に遡る。

『細胞オートファジーシステムを阻止する因子』を発見したことが全ての発端だった。

瑠璃はその因子を細菌の遺伝子に組み込み、抗体を産生させワクチン製剤すれば、

細胞オートファジーシステムの障害が原因の疾病への予防になると考えた。

しかし、その細菌に感染した動物へのリスクとして

細胞オートファジーシステムが遺伝子レベルで停止すること、

接触感染をしていくことが判明した。

ただし弱点として

太陽光で死滅すること、

乾燥した空気中では数分しか生きていないことが判明している。

その事実を教団に報告してからずっと幽閉されている。

それを知った同僚の研究員は監禁状態に置かれ、

無理矢理、細菌の増殖研究をやらされているらしい。

 

翌朝、クモ大助1号からもデータが送られてきた。

2階謁見の間へ当たり屋グループのリーダーの金賀が指示を受けている。

「金よ。今日夕方の帰宅時間を狙って、あの馬鹿者共にリュックサックを持たせ、

 地下鉄駅で中の瓶を割るように指示しなさい。なあに心配はいらない。

 ただの薄めた酢だから重い罪にはならない。

 仮になってもこちらはまったく馬鹿共は知らないと言えばいい。

 まあ安全を見て、マンションの事務所は馬鹿共が出て行ってから撤去しろ」

「はい、わかりました。いよいよですね。憎きウェノムを根絶やしにする日ですね」

「そうだ、せっかく我々が日本に来て働いてやっているのに感謝もせず、

 あげくに攻撃してくる輩には、目に物、見せてくれるわ」

続いて、クモ大助2号からデータが送られてきた。

4階のドローン100機の部屋へ研究室から何かが運ばれてきている画像だった。

大きな噴霧器のような装置が取り付けられている。

今日は夕方から小雨との天気予報がテレビで放送されている。

昼前に隣のマンションから当たり屋グループ全員が、

リュックサックを担いで外出していく画像が、クモ大助1号から送られてきた。

 

当たり屋グループは陽動で、ドローンが真の狙いのようだ。

ドローンの狙いがわからない上に時間が迫っている。

先ずは都倉警部に大至急連絡し、簡単な情報を伝え化学警察隊の手配を依頼した。

事務所に都倉警部が来ると、データを渡し事件の詳細を伝えた。

やはり翔が危惧している点、人質の救出が非常に困難とのことだった。

仮に都倉警部が教団に入った場合、研究者などは殺される可能性が高い。

いやそれ以上に反撃されて警察隊が細菌で全滅する恐れがある上に、

教団周辺の一般の人間をも巻き込む可能性が高かった。

 

そこで「上中下三面作戦」を実行することとなった。

<上作戦>

都倉警部と部下数名がヘリコプターで教団本部屋上へ降り、

化学班を随行させドローンの発射を阻止する。

<中作戦>

都倉警部の直属部下をトップとして警察隊を配置させる。

<下作戦>

翔がマンション地下から潜入し、発電装置を破壊し、

闇に紛れて紅柳博士を中心とした研究者を救出する。

 

この作戦のポイントは、発電装置を破壊する時間であった。

その時に踏み込む必要があったからだ。

翔は隣のマンションに潜入し地下道への道を探した。

地図で大体の場所はわかっているので簡単であった。

しかし、警備員に見つかれば元の木阿弥なので

そこから注意してカメレオンウェアに身を包み、そっと移動していく。

監視カメラからでは、身体の後ろの画像を正面に流しているため見つかりにくい。

 

やがて、教団地下への入口に着いた。

鍵を開けるための装置はあるがそれを使えば潜入がばれてしまう。

ドアの隣のセメント壁に向けて、振動棒(京一郎作)を使い壁に丸く穴を開けた。

この道具は、物質には固有の共鳴する振動数に合わせて

振動数を発信することにより破壊も粉砕もできてしまう便利な道具だった。

その穴にカメレオンウェアで蓋をして潜入した。

 

ここからは、超硬質ガラスゴーグルの上にかけた赤外線探知装置で進む。

少し歩くと『大型の発電装置』が見つかった。

警部と打ち合わせた時間まで待ち『振動棒』にて超振動を発生させた。

突然、発電機が火花を発しバラバラに壊れてしまい、辺りは真っ暗になった。

すぐに赤い非常灯が明滅している。

補助電源は入ったが地下室にそれほどの光量はなかった。

 翔は博士の部屋へ近づき、壁に固有振動波を当てて粉々にすると連れ出した。

紅柳博士の説得で隣の研究部屋から他の研究者も一緒に来ている。

翔は研究員全員を地下道へと移動させた。

 

その時、運悪く金賀達と鉢合わせした。

金賀が、研究者を連れ出している翔を見てすばやい蹴りを放ってくる。

さすがテコンドーの段持ちだけあって、早い蹴りがぐんと伸びてくる。

後では子分達がナイフや銃を持ち出している。

翔は一撃でしとめる必要があった。

頭を狙ってきた金賀の蹴りを、一瞬頭を下げてよけたが踵落しが襲ってきた。

踵を受けながら、軸足の膝へ正面から蹴りこみ粉砕した。

『?!・・・○△×・・・○△×』

声にならない声を上げて転げまわっている。

蹴りの無いテコンドーは踊りでしかなかった。

子分達が銃を向けてきたが、研究者の正面に立って守った。

さすがバトルスーツ(京一郎作)全弾打ち込まれたが何も影響は無かった。

ただヘルメットに当たった時には跳弾を心配した。

子分達が戸惑って後退し始めたので追撃して全員をぶちのめした。

研究者達を無事マンションに届け、刑事達に保護をまかせるとすぐに教団へ向かった。

 地下2階から地上1階へと向かう。敵もこちらには気付いていない。

警備室に入り、数人の警備員を叩きのめして正門を開門するスイッチを入れた。

ここまでくれば警察隊が教団へ大挙押し寄せてくる。

 

道場に向かうと奥の椅子に座っている来光尊師と光精導師が驚いたように翔を見た。

光精導師が目を赤く光らせながら手をこちらに向けて開いた。

「お前がやったのか!このくされ日本人が!」

 

突然、翔の身体の動きが止まった。

いや、止められた。

全く動けない。

冷や汗が頬を伝った。

そのまま、手のひらの動きに沿って、壁や柱に飛ばされて何度もぶつけられていく。

凄まじいまでの念力であった。

バトルスーツとヘルメットで守られた身体とはいえ、

ぶつけられた衝撃はそのまま伝わってくる。

手足が折れるなどの致命傷は喰らわないが意識が飛びそうになった。

 

翔は、動かない手に力を込めて動かし、『振動棒』の目盛を最小にして放射した。

光精導師に向かって、見えない振動波が襲った。

『うっ、ああっ、なぜ、ああっ、ママ助けて、ああっ、あっふーん・・・』

光精導師の目がトローンとして腰をガクガクさせながら座り込む。

とたんに身体が自由となり、翔は立ち上がった。

来光尊師と母親の妙光院が目を丸くして

「王子、どうしたの?やっつけてしまって」

「もう僕は駄目、はあ、はあ、はあ」

「???」

振動機の出力を最小にすると『催淫効果』があって男性なら射精させてしまうため

もしもの時のために準備していた。

光精導師の能力は、射精後はしばらくなくなるとのクモ助情報のおかげだった。

ポカンと口を開けている二人を守ろうと格闘部隊が翔を囲んだ。

翔は、格闘モードで次々と倒していった。

 

やがて、屋上にヘリで降りた都倉警部が階上から降りてきた。

「全員、抵抗をするな。抵抗をすれば撃つ。お前達の企ては露見した。観念しろ」

全員、神妙な顔で逮捕されていった。

警部の話では、危機一髪だったそうだ。

ドローンを飛ばそうと操作している瞬間に電源が落ちたので、

電動で動く屋根を開けて飛び立たせることが出来なかったそうだ。

そのままドローンが飛び立てばテロを防ぐ手段はなかったからだった。

 

その夜、翔は百合と祝杯を挙げて美味しい料理に堪能した。

『翔さんが無事で良かった。兄さんの道具も結構役立つのね。ふーん』

百合が感心している。

今回は偶然とはいえ細菌テロを阻止できてほっとしている二人だった。

(つづき)