はっちゃんZのブログ小説

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18.桜街道

米子市が桜色に染まるある土曜の朝、

湊山公園で桜を穏やかな気持ちで眺めている。

中海の水面は桜の花びらに染められており、

水鳥公園の鳥達も花見をしているのか、ときおり水鳥の声らしきものが響き渡る。

賀茂川沿いの白壁土蔵を背景とした桜並木も見もので多くの人が散策している。

明日は、3人で米子市から少し離れて桜街道を散策しようと計画している。

場所は西伯郡の法勝寺川土手。

土手の両側に2,000本の桜が植えられており、桜並木は5.3キロ続くらしい。

 

昼前に部屋に戻って本を読みながらコーヒーを飲んでいると美波ちゃんが来た。

いつものように音楽を聴きながらお菓子を食べたり、雑誌や漫画を見ている。

ハムサンドイッチに美波スペシャルを作ると喜んでいる。

美波ちゃんも後期試験には、

手ごたえを感じたようで勉強により力が入るようになった。

土曜日の夜に家庭教師をすることになっているので昼間は気楽に過ごしているようだ。

静香さんはいつものように家の掃除や洗濯をしているのだろう。

 

翌朝10時に後藤家へ迎えに行く。車で1時間ほどの道のりだった。

山桜はすでに満開で、フロントガラスから見える山肌は、

ぼんやり濃い桜色の靄がかかっている。

やがて目的の場所に着いた。

駐車場は無かったため道路沿いなどに多くの車が駐車されている。

慎一達も同様に車を停めて、お弁当やゴザなどを持ってお花見場所を探した。

ちょうどひときわ大きく枝が張っている真下の場所が空いている。

そこを花見場所に決めて準備に入った。

 

慎一はゴザに足を伸ばして手を後につき空を見上げた。

青い空の中に可愛いソメイヨシノの花が咲き誇り、

そよ吹く風にも花びらを散らしている。

ふと地上に目を向けると、川土手の両側に満開の桜が咲き誇り春を謳歌している。

美波ちゃんは知り合いにあったようで、二人で楽しそうに川沿いを歩いている。

「日下さん、準備しておきますので、ゆっくりと桜を見てきてください」

「せっかくだから、もし良かったらご飯の後に二人で歩きませんか?」

「はい、ここに来るのは初めてで楽しみです。よろしくお願いします」

慎一は下見のつもりで法勝寺川の土手を歩いた。

川上に向かって歩くと、右手には小高い山、左手には法勝寺の街並みがあり、

桜だけでなく春の穏やかな風景は歩く人を飽きさせなかった。

向こうから来る美波ちゃんと会ったが、

一緒にいる子はテニスのペアの遠藤さんだった。

遠藤さんも慎一に笑って挨拶をしてくる。

 

しばらくして戻ると昼ご飯の準備は出来ていた。

『アゴ野焼き、かまぼこ、出汁巻き卵、車海老の焼物』

『里芋味噌田楽、煮しめ(ごぼう、人参、コンニャク、高野豆腐)』

『イカメシ、いただき(ののこめし)、鯖寿司』

『エビフライ、卵サラダ、鶏の空揚げ、フルーツトマト』

ゴザにも花が咲いたように色とりどりの食材が並んでいる。

いつもながら静香さんの料理は綺麗で健康的で美味しく考えられたものだった。

お酒を飲みたいところを我慢して、白折を飲んで、少しずつ食べていく。

 

咲き誇る桜の花びらを優しく揺らす風の声だけが耳に届いてきた。

四月の期首の多忙な中でこのような豊かな時間を持てる幸せを満喫していた。

静香さんも桜の花びらをじっと見ている。

目が合うと静かな微笑が返ってくる。

喧騒の中にあってもここだけはゆったりとした静かな時間が流れている。

美波ちゃんは食べ終わるとまた遠藤さんと遊びに行ったようだ。

静香さんは荷物を片付けている。

 

慎一は片付け終わるのを見計らって静香を誘った。

二人並んで桜並木の土手をゆっくりと歩いた。

時々立ち止まってはこの方向の桜が美しいなどと話した。

少し遠出をしているせいか彼女の表情は明るく伸び伸びしている。

きっと髪を下ろした彼女をさざなみの女将とわかる人間はいないのだろう。

今日は綺麗な長い髪を流している。

白いブラウスに桜色のカーディガンが清楚で素敵だった。

反対側の土手を美波ちゃん達が歩いている。

こちらを見つけると大きく手を振って笑っている。

顔に吹く風に若干の冷たさを感じ始めた夕方3人は家へ帰った。

(つづく)