はっちゃんZのブログ小説

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3.霊査1 6月26日事件犯人木村の場合(第4章:迷い里からの誘い)

遼真は、6月26日に横断歩道上で突然、包丁を振り回して暴れ、
歩いていた歩行者3名の首筋、腹部を包丁で抉り殺し、
犯行後、自ら頸動脈を切り自殺した木村羅詩亜(らしあ)(30歳、ユーチューバ―)から調査に入った。
木村は一人でマンションに住んでおり、
隣の部屋に住む母親が毎日ご飯を届けていたらしい。
ユーチューバーとしては結構稼いでいたようで、
古いマンションだが今の部屋を即金で購入していた。
そして、母親も死んだ父親の生命保険を使って隣の部屋を購入していた。

彼の作品を調べると
『廃墟シリーズ』や『異界シリーズ』などが多く、
丸い光(オーブ)や恨みの人影などが映っているが、
自縛霊や悪霊の仕業と称した内容のものだった。
それらは専門家の遼真達から見ると、
オーブと呼んでいる丸い光は埃が舞っているものだったり、
人影も明らかに同じマネキンが使われていて紛い物も多かった。
その作品の最新のものでは『歴史から取り残された村』というものがあった。

その作品は、事件を起こした日の昼間に作成され発信されている。
その作品を見ると、
真っ白な霧の中を進む車のフロントガラスから始まっていた。
彼の声が聞こえる。
「皆さん、これはどこと思いますか?
 何と都内を走っていて、
 こんな真っ白の霧に包まれた一角を見つけました。
 狭い道で両側にたくさんの街路樹が並んでいます。
 ここら辺りは普段走っているけど、こんな場所は初めてです。
 なぜか私はこの場所へ引き寄せられるように来ました。
 皆さん、期待していてください。
 気に入った人は、この番組のチャンネル登録をお願いします」
空には満月がある筈なのに
画面には真っ白い霧しか映っていなかった。
その霧の中をしばらくゆっくりと進むと
突然レンガ作りの古いトンネルが現れた。
その真っ暗のトンネルへゆっくりと車で入り、
トンネルを抜けると急に白い霧が晴れ始める。
目の前には、
真っ暗な灯りもない古い村がヘッドライトに照らされている。
空には満月が輝いているが、
なぜか大きく見えて、赤く染まっている。
画面に映る村は、
いつの時代のものかわからないくらい古く、
テレビの江戸時代のドラマに出てくる
山の中にある|寂《さび》れた村よりももっとボロボロで寂れている。
「いやあ、今にも壊れて倒れそうな家ばかりですね。
 今時こんな家、いや村があるのでしょうか?
 この古い村はいつの時代の村ですかね?
 江戸時代かな?
 それとももっと古い時代かな?
 皆さんはどう思われますか?
 怖いけど、車を降りて探検してみます」
画面が車内から車外へと切り替わった。
明るいヘッドライトに照らされた村が映っている。
土の道の両側に三軒ずつ映っている。
ヘッドライトに照らされていない部分には赤い満月の光が差し込んでいる。
ここでヘッドライトが消された。
村の家々は懐中電灯の光だけで映っている。
「今、車のエンジンを切りました。
 辺りには虫の声も何も一切物音がありません。
 私の足音と声だけです。
 今から誰も住んでいないと思われるこの家に入ってみたいと思います」
薄暗い画面に崩れて穴の開いた扉が開け放たれた小屋のような家が映っている。
その家の中に入っていくと土間があって古い鍋や水を入れる甕がある。
土間から続く部屋の板間には筵が敷かれた部屋が見える。
その家の中には人の気配が全くなかった。
その部屋を抜けて奥に入っていくと
古い木の枕と布団のような物が敷かれており、
その近くには木の茶碗や皿などが載った古いお膳が置かれている。
その隣の部屋には|筵《むしろ》が敷かれているだけで何も無かった。
「いよいよ僕は、異世界を見つけたのでしょうか?
 ここが住む人が居なくなった古い村、忘れられた村なのでしょうか。
 なぜ全ての人が居なくなったのでしょうか。
 この家の中を探してみても何も見つかりません。
 あるのは古い布団や食器だけです。
 この家を出て、もっと村の奥に行ってみます。
 皆さん、怖いです。
 ですが私は皆さんのために頑張ります。
 何卒、チャンネル登録をお願いします」

画面は村の奥へと進んでいく。
村の奥の突き当りに大きな池とその畔に小さな祠があった。
生き物もいないのか波も立っていない鏡面のような水面に大きな赤い月が映っている。
「皆さん、この村の奥には大きな池と小さな祠がありました。
 みなさんには暗くて見えないかもしれませんが、
 今は荒れてわからないですが、昔は田畑であったような場所が見えます。
 田畑といい祠といい、確かに昔は人が住んでいたことがわかります。
 では祠へ近づいてみます」
画面は肩の高さほどの小さな祠が近づいてくる。
その祠の扉は閉じられており、木村の手が映り、扉は開けられた。
その中には丸い小さな石が入っていた。
「皆さん、中には何が入ってるのかと思ったら小さな石でした。
 もしお地蔵さんとかだったら手を合わせようと思っていました。
 この石を調べてみます」
画面には手のひらにのる程度の丸い石が映っている。
その石の表面には白い紙が貼られていて、紙の文字は掠れて読めない。
一瞬、画面にノイズが入ったがその後は何も起こらなかった。
「こんな石を拝んでいたのですかねえ。
 気持ち悪いので返しておきます。
 あれっ?巻かれていた白い紙が取れてしまいました。
 それに手のひらに乗せていただけなのに二つに割れちゃった・・・
 何も力を入れていないし、私は悪くないですよね?
 皆さんもいま見ていましたよね?
 皆さんが証人ですよ。
 気持ち悪いので、この二つになった石をそっと戻しておきます。
 あれっ?
 扉が閉まりません。
 歪んでしまったのでしょうか・・・
 ただ軽く扉を開けただけなのに、何か私が壊したみたいで気持ち悪いです。
 皆さんもそう思いますよね?
 とにかく・・・こうして・・・ここをこうして・・・ふう・・・できた。
 皆さん、何とか無理やりですが元に戻しました。
 ああ、焦った。
 この村もだけど祠も古いから注意しないといけませんね。
 この動画はまだまだ続きます。
 この続きは明日に放送予定です。
 何卒、チャンネル登録をお願いします」

画面は祠から離れて、再び池が映った。
少し前まで水を打ったように静かだった水面がわずかに波立ち始め、
そこに映る赤い月が大きく揺れ始めていることに気付いた。
よく見ると池の底からブクブクと泡が吹き出し始めている。
木村はそれに気が付いていないようだが、遼真達にはそれが見えた。
最後に車の運転席に座る木村の自撮り画像が出てきた。
青白い死人のような顔色で感情の無い目付きの神経質そうな顔つきが映っている。
ただ不気味だったのは、
ライトに照らされている貧弱な身体には不釣り合いなくらいの
その身体を覆いつくすかのような黒い大きな影で覆われていることだった。
結局、この放送の続きは放送されないまま終わった。
この村の情報はこれ以上見つからなかった。