はっちゃんZのブログ小説

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20.百合との出会い 4

百合の部屋は、4LDKで1人の部屋には広すぎるらしいが、

娘の身を案じたご両親が是非にと購入したらしい。

ダイニングで座っていると百合が薬箱を持ってきて手際よく手当をしていく。

良く見ると泣いている・・・

ふと本人もそれに気がついて涙を手で拭いその手を見つめている・・・

「これって涙?なぜ涙が???」

「さっきの闘いが怖かったからじゃないか?ごめんね」

「いえいえ、確かに怖かったのですが、あんな強いすごい人と戦って、

 もしあなたが死ぬ事になったらどうしようと考えていました。

 でも、あなたが無事だったからホッとしたら泣いていたのです」

「うーん、もしかして館林さんはあまり泣いたことがないの?」

「はい、私は子供の頃から泣きも笑いもせずに育ってきたと

 祖父母からは聞かされています」

「へえ、そうなんだ。こんなに可愛いのに勿体ないなあ。

 あっ、嫌、変な意味ではないから誤解しないでね」

「可愛いなんて、初めて言われました。何かうれしいです」

「そう、そこで口角を上げる」

「口角?こうですか?」

「そう、もっと目をこんな風にして」

「ぷっ、おかしい」

「そうそう、その感じ、それが笑うっていうこと」

「ふーん、でも笑うって、すごく楽しいことですね」

「そうだよ。笑うっていう事は楽しいこと、もっと楽しんで」

「今日初めて、笑うと楽しいことを知りました。桐生さん、ありがとうございます」

「そんなに大層なことではないから気にしないで。

 館林さんは笑えばもっともっとみんなからモテますよ」

「モテる?あまり意味がわかりませんが、桐生さんが喜ぶならそうします」

「いや、僕はもちろん嬉しいけど、僕ではなくて」

「なぜ桐生さんではいけないのですか?私はあなたの事がとても気になりますが」

「それはありがとう。でも君と僕とは世界が違うから」

「世界が違う?・・・同じと思いますが・・・」

「まあまあ、今日はありがとう。

 それはそうとこの子の名前は『ミーア』だったっけ?」

「そうです。ミーミー泣いていた女の子なのでそうつけました、いかがですか?」

「ミーアちゃんか、いい響きだ。ミーアちゃん、では帰ろうか」

「桐生さん、お願いがあります。

 今後ミーアちゃんと遊びたいので桐生さんの家にたまにはお邪魔していいですか?」

「いや、汚いところだから困るよ」

「汚い?だったら私が掃除しますからいいでしょ?」

「うーん、そういう意味でないんだけど」

「桐生さん、正直に答えてください。私が行くと迷惑ですか?」

「いえ全然、わかりました。

 では今度部屋に案内します。狭くて汚いから驚かないでよ」

「はい、驚きません。百合は今度桐生さんのお部屋に行くこと楽しみにしています」

 

百合がコーヒーを入れてくれた。

ミーアの前にはミルクが置かれた。

口の中が若干ヒリヒリするが、ブルマンは最高に美味かった。

ひと暴れした後だから格別だった。

しかし本当に強い男だった。

あんな男が市井に隠れているならもっと鍛錬しなければならないと感じた。

百合は翔を心配そうに、それでいて潤んだ瞳で見つめていた。

(つづく)