翔は横たわっている『ネコ男』の元へ急いだ。
機械部分が完全に壊されたわけではないため、
人間部分と獣人部分があり暴走しかけている。
身体はネコではなく『タテガミのある獅子』の特徴を有している。
鋭い牙のある口が苦しげに開かれ、呼吸が荒くなっている。
翔は、「獣人化減弱薬」を注入し獣人化の暴走を防いだ。
しばらくすると呼吸が落ち着いてきた。
横たわった男の顔は、普通のよくある日本人のものだった。
「ありがとう。助かりました」
「日本人のお前が助かって、うれしい、良かった」
「お名前は?」
「名前はない。『ネコ』とだけ言われている」
「ネコではなくライオンと思うのですが」
「そうなのか」
『ネコ男』も警察に事情聴取をされて、とりあえず翔が身元引受人となった。
事務所に『ネコ男』を連れて行き、怪我の手当てをした。
アスカが作った夕食を二人で食べた。
『ネコ男』は、初めての日本料理に感激し、日本酒を飲んでは眼を見張った。
翔は、『ネコ男』の身の上話を聞いた。
元々彼は日本生まれの日本人だが、生活に困った母親にアジアの犯罪組織へ売られた無戸籍者で、幼少時より殺人者として育てられた。成人後、機械化された時に、記憶は消去されたにも関わらず日本国内にて淡い記憶が蘇り、組織から逃亡を図るもその罰で重症を負わされ監禁されていた。
ちょうど目黒研究所の京一郎から、『ネコ男』を連れてくるように連絡があった。
京一郎が元の人間の身体に戻そうとするが機械部分を外す事が出来ず、徐々に獣人化薬の影響を中和させていったため鍛えられた身体機能そのものは元には戻らず、超人的な体力と技術を持つ人間となった。
仕事に関しては、本人の希望もあり研究所警備職員『犬神獅子男(新しい名前)』として働き始めることとなった。
この国際犯罪集団の逮捕劇も日本中を騒然とさせた事件となった。
日本中で「死刑制度」について真剣に論議が交わされるようになったが、
今なお結論に至らない意見ばかりで、このような犯罪が起こる土壌はなかなか無くならなかった。
(つづく)