はっちゃんZのブログ小説

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50.百合、初めて桐生家へ

爺さんからの話をすると百合は大喜びで

『すぐにでも行きたいけど

 色々と準備があるので3日後にして欲しい』と大慌てだった。

どうやら葉山の御実家へ連絡するつもりのようで今度は翔が緊張し始めた。

もしかしてすごい女の子と付き合い始めたのかも?とドキドキした。

もし結婚することになったらすごくうれしいけど、

自分はいまだ修行の身であり、仕事も決まっていないし結婚など夢また夢だった。

そこを聞かれる可能性があると思うと焦りの感情が湧いてきて、

今度は自分が何だか情けない存在に思えてくるのだった。

 

翔は本家から帰ってから、ずっと将来の職業について考え始めた。

自らの利点は格闘技術で特に秀でていること。

プロ格闘家を目指すことは一族のしきたりからは考えられない。

自分にできることは本当にこれだけだった。

 

そうこうするうちに百合を本家へ連れて行く日がやってきた。

本家の門の前に立つと百合は、

「わあ、葉山の館林と同じ匂いがします。すごく素敵なお屋敷です」

「そう?ただ古いだけの屋敷だけど」

「いえ、私はこの屋敷に何度も来たいと思っています。翔さん、いいでしょ?」

「うん、気に行ってくれたらいいよ。まあ家に入ろうよ」

「いらっしゃい、館林さん」

「お婆様、百合と呼んで下さい。またお婆様にお会いできました。嬉しいです」

「何もない所ですがどうぞ、あれからお変わりありませんでしたか?」

「はい、翔さんにはいつもよくして頂いています」

「それは良かった。どうぞ。主人が待っておりますよ」

「はい、ねえ翔さん、私、変なところないですか?」

「う?うん、いやいつもと変わらず綺麗だよ」

「翔さん、ありがとう、なら良かった」

 

頭領の爺さんがいる部屋へ婆さんが案内していく。

百合は緊張した面持ちでついていく。

「いらっしゃい、いつもうちの翔がお世話になっています」

「初めてお目にかかります。館林百合でございます。

 今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

 これ葉山の実家からです。つまらない物ですがお納めくださいませ」

「おお、これは立派な天然真鯛の一夜干しじゃ、葉山の皆様はお元気ですか?」

「はい、みな元気です」

「おお、それは良かった」

やがて早めだが楽しくにぎやかな夕食が始まり終わった。

 

夕食後、皆がお茶を飲んでいる時に爺さんに部屋へ呼ばれた。

百合は婆さんと色々と話をしている。

「翔、いいお嬢さんだな。お前には勿体ないくらいのお嬢さんだ」

「ありがとう、本当にいい子なんです。

 不思議だけど初めて会った時から初めてじゃない感じがしてる子だった。

 最初は笑う事も知らなかったみたいで戸惑ったけど

 その笑顔を見ているだけで、満足って言う感じです」

「それはよくわかる。あのお嬢さんの笑顔は見る人を幸せにするな。

 しかし、お前も感情が表に出るようにはなったな。昔は笑うこともなかった」

「そうなんですか?うーん、あまり覚えていないのでわかりません」

「まあいい。彼女を大切にするんだぞ」

「はい、わかっています」

(つづく)