はっちゃんZのブログ小説

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19.二人で出雲へ

5月連休前に妹から電話が入った。

いつに帰ってくるのか教えて欲しいらしい。

理由を聞くと父親が家に顔を出すからだと言う。

それを聞くと一瞬帰りたくなくなったが、母親のことを考えて帰ることとした。

26日は静香さんと松江・出雲の方を案内してもらう予定だったため

『28日に帰るつもり』と答えた。

当日美波ちゃんは、朝早くから夜まで他校との対外試合で1日いないらしい。

美波ちゃんには悪いが、静香さんと二人きりで行くこととなった。

 

26日朝8時に迎えに行くと静香さんはもう駐車場に出て待っていた。

白のボートネックオーバーサイズプルオーバーにブルージーンズ、

白いパンプス姿だった。

髪はいつものように長い髪をシュシュでひとつにまとめている。

「今日もよろしくお願いします」

「こちらこそよろしく。とりあえずネットでは調べたけどよろしくね」

「お役に立てるかどうかわかりませんよ」

「いいえ、横にいるだけで十分です」

「ふふふ、それなら十分に役に立てると思います」

「では出発しましょう」

音楽は姫神を入れた。

「この音楽は何度も聴いていますがいい音楽ですね」

「そうでしょう?僕はこの姫神と言う人の音楽が気に入ってて、

 縄文音楽というべきか、昔の自然の光景が浮かんでくるんです。

 特に『風の大地』と『神々の詩』が好きです」

「じっと目をつぶって聞いていたいくらいですね」

「ええ、でも僕がそうしちゃうと事故るのでやめておきますね」

 

車は、米子国際ホテルから右折して山陰道国道9号線を走り、

途中左折し米子西ICから山陰道安来道路を松江へ向かう。

東出雲ICで下り山陰道松江道路を通過し、

途中にあった黄泉比良坂の看板あたりを越えて

宍道湖の左岸をJRと共にひたすら西へ向かう。

2時間ほどして出雲大社への標識が現れた。

出雲大社は知らない人はいないと言われている有名な神社だ。

 

ネット情報で『出雲観光ガイド』で正門からの正式な参拝の仕方を調べた。

一 勢溜(せいだまり)に立つ木製の鳥居をくぐり、参道へ入る。

二 参道の途中、右側に小さな社で祓社(はらいのやしろ)があり、

  4柱の祓井神へお参りし、心身を清めます。

三 坂を上ると祓橋(はらいのはし)と言われる太鼓橋を渡ると

  松並木となっており、三つに分かれている参道があるが、 

  神様の道を外して左側の参道を進んだ。

  大国主大神とウサギの像が見えてきたら境内の入口は近い。

四 手水舎で左手、右手、左手で口すすぎ、柄杓の柄を清める。

五 そこからは高さ6m、柱の直径52センチの銅鳥居から

  神様へ挨拶し拝殿へ向かう。

六 拝殿は長さ6.5m、重さ1トンの注連縄を前にする。

  注意点:一般の神社の注連縄とは逆向きなのが特徴です。

七 ここでは「二拝、四拍手、一拝」にて拝礼を行う。

  注意点:手を合わす際には、指の節と節を合わせて「節合わせ(不幸せ)」

      にならないように、右手を少しずらすといいそうです。

八 拝殿の後ろに回り八足門(やつあしもん)から本田を正面から参拝する。

 

二人は『へえーへえー』と感心しながら参拝した。

さすがの静香さんも小さい頃に来ただけなので初めてなことばかりだと驚いている。

その他、十九社、釜社(かまのやしろ)、素鵞社(そがのやしろ)などに参拝した。

車に向かう参道の途中、出雲発祥の和製スウィーツの『ぜんざい』のお店に入った。

ぜんざいは江戸時代の文献に載っているくらい古いスウィーツで、

キュウリ塩漬けの付け合せが珍しかったが、甘さを引き立てて美味しかった。

 

松江市へ向かう途中、宍道湖の嫁が島の看板のところで少し休憩した。

宍道湖の対岸は大国主大神が綱で大陸から土地を引っ張ってきたとのことで、

この汽水湖である宍道湖ができたとされる。

宍道湖の中で唯一ある島が『嫁が島』だが、

伝説では姑にいじめられた嫁が湖で水死した際に水神が可哀想に思い、

その身体を浮き上がらせたとする伝説などの悲しい伝説が残されている。

だが今は松江でも屈指の『夕陽スポット』にもなっており、

天気の良い日は観光客や市民が列をなして並ぶそうで、

今頃はきっとお嫁さんも喜んでいるかもしれない。

 

「きっとその姑さんは後ですごく後悔したんじゃないかなあ。

 お嫁さんもそうだと思う。だって二人は仲直りする時間がなかったんだから」

「そういえばそうやねえ。普通嫁さんがかわいそうとしか考えないものだけれど、

 そういう考え方もあるよなあ」

慎一は、母親のことを相談しようと思った。

こんな風に両方のことを考えることができる人ならば・・・と感じた。

慎一は松江城に向かう間、母親と父親の再婚について相談した。

「私がこんなことを言っていいのか悩みますが、よろしいですか?」

「ええ、僕としては気持ちを整理したいところがあるので気にしないで下さい」

「あなたの気持ちもお母さんの気持ちもすごくわかります。

 その時、きっとお母様はお二人の事を考えて離婚したのでしょうねえ。

 私が同じ立場であってもそうしたと思います。

 私にもよく似た経験があります。

 ただ、お母様にあってお子さん二人になかったもの、

 それは夫婦二人だけの歴史だったと思います

 でもそれは当然なんです。

 親子の歴史と夫婦の歴史は違いますから、

 お酒を飲まないお父様の良さを一番知っている人、

 お酒を飲まずにはいられないお父様の弱さを一番知っている人、

 それはお母様だけだったと思います。

 そして、その全てをわかって結婚した人がお母様だったと思います」

「そうなんだろうなあ。最近、静香さんところですき焼き食べた時、

『確か昔、親父が鍋奉行をしていたなあ』と思い出して

 なぜか嬉しい気がしたことを思い出した」

「あの時、あなたが急に嬉しそうな顔になっていたから不思議に思ってはいたけど、

 お父様やご家族とのことを思い出していたんですね」

「そうだった?あの時はなぜか家族が仲の良かった時のことを思い出したんや」

「お子さん二人が大きくなって独立したら、今度はお母様が幸せになる番ですね。

 お父様のお身体もたいそう悪いようですから、

 残りの人生を今度こそ一緒に生きることができたらと、

 思われたのは当然のことと思います。

 夫婦のことは夫婦だけしか分からないし、子供にはわからないもんですから」

「静香さん、ありがとう、何か吹っ切れた気がする。

 今度帰ったら母親に話してみる」

「それは良かった。あなたの悲しい顔を見るのはわたしも悲しいので」

そうこうするうちに松江市が近づいてきた。

国道432号線に入り、島根県八雲立つ風土記の丘公園方向へを右折し、

そこを越えてしばらく走れば、

次の目的地「神魂神社(かもすじんじゃ)」である。

 

神社の正面に「神魂神社」と彫った古い碑が建っており、それに鳥居が続く。

ゆっくりとした勾配の石畳の参道をゆっくりと上がり本殿を目指した。

主祭神イザナミノミコト(伊弉冉尊)、合祀はイザナギノミコト(伊弉諾尊

日本を生み出した2柱を祀る本殿からは神格の高さから威圧感さえ漂っている。

天正11年(1583年)に建てられた現存する最古の大社造りで国宝に指定されている。

由来として、この神社を創建したのはアメノホヒモミコト(天穂日命)とされ、

アマテラスオオミカミの第二子とされるこの神がこの地に天降ると、

出雲の守護神としてイザナミノミコトを祀った。

それがこの神魂神社の始まりらしい。

 

帰りに八雲立つ風土記の丘公園へ行き、

前方後方墳の形にした鉄筋コンクリート高床式の展示館で古代出雲の姿を見て、

植生されている当時の植物群や古墳を見て竪穴式住居に入ったりして古代を偲んだ。

静香さんは神社も公園もどちらも初めてだったようで興味津々で見ている。

 

山陰名産の和菓子情報としては

松平家7代目の治郷公(はるさと)不昧公(ふまい)の時代に

不昧公自らが不昧流という茶道を完成させ、

京都、金沢と並ぶ茶処、菓子処を作ったそうな。

松江市の老舗の「彩雲堂」に寄り

『若草』「伯耆坊」『朝汐』を美波ちゃんへのお土産とした。

近くに島根県の陶器『出西窯』の出店があり、

慎一は三人のコーヒー用にモーニングカップの白掛地釉、黒釉、呉須釉を各1個買い、

静香は慎一とのお茶用に黒釉の湯呑を2つ買った。

 

帰り道は高速道ではなく下の道を通り、安来市にある足立美術館へ入った。

海外からの客も多く日曜日となれば大賑わいだった。

この美術館は美術品も庭も全てが美しかった。

庭はそのまま見ても十分に美しい。

室内から椅子に座って見える日本庭園、美しい砂の流れ、絶妙な石の配置・・・

窓というキャンパスに描かれた別の世界の景色のように感じた。

夕方に近づいているせいか、日差しが柔らかく感じられる。

 

米子市へ向かう途中に『カフェレッセ』という看板が目に入った。

噂でアートカプチーノの店が出来たと聞いていたので入ってみた。

バリスタの日本大会でも有名な店らしく、

明るい店内で多くのお客さんが来店している。

テラス席が空いていたのでそこに案内してもらう。

目の前に中海が見えるレイクサイドである。

慎一はアートカプチーノ2つとシフォンケーキを1つ頼んだ。

運ばれてきたカプチーノには、表面に絵が描かれていた。

ウサギの可愛い顔が描かれているものは静香さんへ

ハットをかぶった男性の顔のものは慎一の前に置かれた。

静香さんは珍しがりそしてすごく喜んだ。

「あなたと一緒にいると、私の初めてばかりです。

 これ、すごくかわいい。こんな風にできるなんてすごーい」

「そうだろうなあ。ここまでできる人はそういないよ」

「うん、おいしい。でも私は、あなた特製の静香スペシャルの方が好き」

「そりゃあ、良かった。マスターも自信持てます」

「ふふふ、マスター、よろしく」

二人で暮れゆく中海を見ながらコーヒーをゆっくりと飲んだ。

(つづく)