はっちゃんZのブログ小説

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2.迷い里伝説(第4章:迷い里からの誘い)

遼真は色々と起こっている事件について京都の師匠と相談した。
師匠は、唯一逮捕当時生きていた被疑者の証言の
”どこか知らない古い村を彷徨っていた”という言葉が気になっているようだ。
過去の文献を確認すると平安時代からこの話は一族に伝わって来ているらしく、
それは『迷い里伝説』と呼ばれ、噂話だけで今まで経験した者は居なかった。

古い言い伝えでは、
”迷い里”
人の心が深い悲しみと憎しみに染まった時、その里は目の前に現れる。
突然、白き霧から現れ出でてその里への道は開かれる。
その里はいつの頃かわからない古き山里にて
この里に入った旅人でここから出て来た者は居ない。
別の文献内では、”客人伝説”と関係しているのではないかとの考察もあり、
人間の悲しみや恨みが原因となっていると記載されているが詳細はわからなかった。

ここで『客人伝説』に関してだが、
客人と書いて「まれびと」、又は「まろうど」とも読む。
「まれびと」つまり「稀(まれ)に来る人」という意味で、現在では「客人、珍客」を意味するだけだったが、その伝統は歴史的にも非常に古いものがあった。すでに平安時代の饗宴の習わしでも「主客」を「まれびと」といい、その方式は古代祭祀時に来臨する「聖なる者」を饗応する伝統があった。
日本における民俗学者、国文学者、国語学者である折口信夫氏の研究では、
常世(とこよ)」という存在を想定して、そこから来臨する「聖なる者(まれびと)」が俗界に幸福をもたらすことに日本の古代信仰の根源を認め、「まつり」はこうした「まろうど」の饗応方式に源流するとした。それらから日本の異郷人・珍客歓待にはこうした伝統があり、いわゆる「あるじもうけ」の伝統もそこに生じたらしい。
ちなみによく似たものとして|客人神《まろうどしん》という言葉があるが、
神社の主神に対して,ほぼ対等か,やや低い地位にあり,しかしまだ完全に従属はしていないという,あいまいな関係にある神格で,その土地に定着してから,比較的時間の浅い段階の状況を示している。
通常、神社の境内に祀られている境内社には,摂社と末社がある。
摂社には,主神と縁故関係が深い神がまつられており,末社は,主神に従属する小祠である場合が多い。客人神の場合は,この両者とも異なり,主神のまつられている拝殿の一隅に祀られたり,随神のような所に祀られ,まだ独立の祠をもっていないことが特徴とネットでは記載されている。

遼真が大学から帰宅すると夢乃さんが京都より上京してきていた。
夢乃さんは、遼真達が夢見術で手伝って貰っている|夢花《ゆめか》の祖母である。
「遼真坊ちゃん、お久しぶりですね。
 いつも夢花がご迷惑を掛けています」
「いえいえ、こちらこそ夢花ちゃんにお世話になりっぱなしです」
「そうですか?
 あの子はまだまだ自分の身も守れない拙い術みたいで修業が必要ですね」
「まあそれは、いずれそうなると思っています。
 それに真美も一緒にいることだし心配していません」
「過分なお言葉ありがとうございます。
 真美ちゃん、いつも夢花を守って頂きありがとうございます。
 でもしばらく見ない内にとても綺麗なお嬢さんになりましたね」
「えっ?そんな・・・恥ずかしいです。ありがとうございます。
 それはそうと夢乃さんが来たという事は相当な事件なんですね?」
「まあ潜ってみないとわからないけれど、頭領はそれを危惧しています。
 今まで『迷い里』は迷信と言うか、噂話と言うか、
 現代風に言えば、”都市伝説”かねえ。
 実際には今まで誰も確認していない里だからねえ」
「そうなのですね。
 でもわざわざ夢乃さんに来て頂くまでのことなのですか?」
「ええ、頭領の考えでは
 ”月の魔力が関係しているかもしれない”との事でした。
 若い女子《おなご》は、毎月その身体が
 月の影響を受けるので術が不完全になりやすいと考え、
 もう月の魔力の影響を受けない身の私が出る事になりました」
「月の影響?」
「はい、夢花も真美ちゃんもまだ若い身ですから、それからは逃れられないのです。
 それは夢花の母親の|夢代《ゆめよ》でさえもまだ逃れられないのです」
「そ、そうですか・・・ そうおっしゃるならお願いします。
 それはそうと月で思い出したのですが、確か12月19日は満月でしたね。
 そう思い、全ての事件の日を調べるとその全てが満月の日の翌日に起こっています」
「ええ、頭領もそれを気にしていたようです」
「それで満月の日に犯人は”迷い里”に入っている可能性が高いと・・・」
「はい、ただどこに現れるのかはわからないと言っていました。
 何か特別な力と合わさり出現するのではないかと・・・」
「先ずは満月の月の魔力が最高になる場所がわかればいいのですがねえ」
「それならば頭領より”月命盤”を借りてきています。
 この”月命盤”があれば月の魔力の一番強い場所へ導いてくれます」
「それはありがたいです。今までの事件の犯人の行動を見ていくと、
 ただ仮にその場所に我々が行っても里には入れない可能性があります。
 何かトリガーが無いといけないのではないかと感じています」
「入るよりもまずはその場所を探さないといけませんね」
「そうですね。
 関東地方は縄文時代から現在までずっと開かれていた場所ですから
 その間にたくさんの人間に様々なことが起こってきて、
 様々な怨念が滓のように分厚く積み重なっている場所が多いと思っています。
 何とかその場所を見つけることができればと考えています」
その日から夢乃さんと一緒の行動が始まった。

遼真達は、殺人及び事故現場へ行き被害者や犯人の霊魂との会話を開始したが、
なぜか犯人の霊魂は現場には見つからなかった。
普通、犯罪者の霊魂は成仏できずに現場に残っている場合が殆どの筈なのに、
このたびの全ての殺害及び事故現場を訪れても、現場に犯人の霊魂は一切存在しなかった。
ただ事件の被害者や事件に引き寄せられたその場所一帯に彷徨《さまよ》う霊達に聞くと、

事件当日は、
霊達から見て、空には“紅い月”が昇っていたらしい。
しばらくの間は、確かに犯人は被害者と共にその場にいたらしい。
しかし、ある時、
彼らは突然頭を抱えて、
耳を両手で塞ぐと
「なぜ俺はこんなことを?
 俺に話しかけないでくれ、もう嫌だ」と叫んで、
彼らは、“紅い月”の方へ吸い込まれていきましたと証言している。
それと、もう一点不思議なことがあった。
全ての現場に居た被害者の内の数名の霊魂も犯人達と一緒に
空に浮かぶ“紅い月”へ吸い込まれていったという証言だった。

この霊査で精神的に一番厳しかったのは、
11月20日に起こった保育園の通園バスの事故現場だった。
この事件は、バス運転手の小鹿隼人(67歳)が、
同乗の職員と園児10名と一緒にガードレールを突き破って深い谷底へ墜落したのだが、
幼稚園でのお友達との楽しい時間を思い描いている途中に
突然に無慈悲にもその生を絶たれ、
自ら死んだことを理解できない子供たちの戸惑い、
もう両親のもとへ戻れない寂しさ、
事故当時の痛みが続き、ずっと泣き続ける園児達の霊魂だった。
遼真と真美は、深い悲しみに沈みながらも子供達の霊魂を薬師如来様へ送り届けた。
薬師如来様にお願いして、
子供達の痛みや悲しみを癒し、
小さな輝く光にして天界へ送った。
遼真達は、一日も早く、再び優しい両親の子供に生まれ変わることを祈った。
夢乃さんは多くの現場で必死に夢見術を行ったが、
現場には犯人と被害者の一部の霊魂が無いため、
事件に関係するような霊魂の記憶へ潜ることができなかった。

7名の犯人同様に現場に霊魂が不在の被害者は以下8人。
道下友梨佳(29歳)
道上翔子(36歳)
道上沙也華(5歳)
道中絵里奈(50歳)
道泊由香里(17歳)
道主圭蔵(78歳)
道主香織(80歳)
道下世志明(84歳)
年齢もバラバラで特に関係は無い人達であった。
唯一の共通項は、名字に“道”が付いているくらいのものだった。