新千歳空港のボーディング・ブリッジへ慎一と静香は降り立った。
3月末にも関わらず、空港の周辺にはまだ雪が残っている。
ブリッジを流れる空気が肌を引き締める。
北の都の春はまだまだ遠い。
JR快速エアポートに乗り札幌市を目差す。
窓の曇りを掃うと雪に覆われた田畑や街並みが流れている。
二人はそっと手を握り合って窓の景色を見つめた。
今晩は札幌市内のホテルで宿泊だった。
最上階のバーラウンジから大通り公園が見える絶好のロケーションで、
前回の新婚旅行時に気に入ったので今回も同じホテルにしたのだった。
社宅もそこから歩いて10分くらいの場所なのでちょうど良かった。
引越し業者は明日の土曜日正午前にくるのでゆっくりとできる。
昼前に美波が引越の手伝いに顔を出すと連絡が入っている。
今度のマンションは勤務先に近い札幌市中央区の分譲マンションを契約している。
札幌駅に着いて南口から出ると、
大きなガラスのオブジェに目を引き寄せられ、続いて大きな通りが目に入った。
さすが北海道の3割が集まる人口180万人の都市の玄関口だけはあると感じた。
空気も澄んでいて晴れているから歩こうと考えたが、
まだまだ寒くて静香が風邪でも引き込んだら大変なのでタクシーに乗った。
タクシーの運転手情報では将来的にはこの通りに地下街を作る計画があるらしい。
ホテルに着くと窓からゆっくりと大通り公園を見下ろせた。
今度の月曜日、初出社する銀行の新しい看板が見えている。
静香は米子からの移動に少し疲れたのか椅子に座ってお茶を飲んでいる。
最上階のフランス料理のレストランで海鮮コースを頼んで北海道の食材を堪能した。
隣の鉄板焼きの店の方は、明日の親子三人で予約している。
その後、大通り公園を見える席があるラウンジへ入り
静香にはアルコール度ゼロのカクテル、慎一はバーボンのロックを頼んだ。
このラウンジからは、夏の豊平川花火大会の花火やクリスマスや雪祭りの時には綺麗にライトアップされた大通り公園が見えると案内には書かれている。
ホテルも新婚旅行と同じだったことと
ここしばらくの引越準備などから解放されたことで
ほっとしてついつい二人とも気持ちが高まり、
久しぶりにあまり刺激しないように軽く抱き合って眠った。
翌日、ホテルのバイキングで朝ご飯を食べてマンションに行く。
すでに待っていた不動産屋から鍵を貰って部屋へ入った。
各部屋は二重サッシの窓で防寒対応がされている。
このマンションも家具が付いているので大荷物は必要なかった。
後藤の家は、不動産屋へ家具付きで貸すこととなっている。
やがて引越屋が来て荷物が搬入されている時に美波がやってきた。
3時間くらいで全ての荷物を運びこみ引越は終了となった。
あとは、じっくりと梱包を解いて整理していくだけの作業だった。
その夜はホテルの最上階の店でステーキを食べて家族3人+2人で舌鼓を打った。
海鮮として出た「伊勢海老の鉄板焼き」はレアな歯ごたえと甘味が舌を直撃した。
北海道内で出た中で一番良いものを仕入れているとコック長が自慢する牛肉は
赤身の味の濃さと刺しの入った脂の甘さが混然と混じり合う秀逸な肉質だった。
(つづく)