はっちゃんZのブログ小説

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63.消された記憶2

その夜は百合の作った遅めの晩ご飯を食べてアパートへ帰った。

すでに警察の鑑識官の仕事も終わっている。

部屋の中は雑然としており、片付け終わったのはもう朝方だった。

少し仮眠を取っていると、百合からラインが入った。

『翔さん、疲れは取れましたか?』

『今日、アパートへ行っていいですか?』

昨日怖い事があったので百合は心細いのかもしれない。

翔は『もうこのアパートは引っ越すのでしばらく会えない』と伝えた。

もうこの危ないアパートへ百合を来させることは考えていなかった。

もし今回、相手が同じ方法を使った殺人鬼ならば

二人の命は今頃ミーアと一緒だったのかもしれなかったからだ。

そう考えると『どんなことがあっても百合を守る』と誓った言葉に賭けて、

このアパートは引き払う必要があった。

葉山館林家へ使用許可を貰っている新宿の探偵事務所の使用開始の連絡をし、

すぐさま引っ越すこととした。

百合から『わかりました。落ち着いたら連絡ください』と返答があった。

 

その日から引越が終わるまでは早かった。

新宿の事務所奥には自室とトレーニング室が併設されている。

荷物とは言っても、単身赴任と変らない程度の量なので一日もかからなかった。

引越業者は葉山不動産からの依頼の業者で驚くことに無料だった。

その夜は、百合が引越祝いの料理を作ってマンションで待っている。

 

「翔さん、無事引越ができておめでとう。精一杯作ったのでたっぷり召し上がれ」

「ああ、ありがとう」

「翔さん、実家に無理言って、私も合鍵貰いました。良かったですか?」

「ああ、もう貰ったのなら、駄目って言えないじゃん」

「ええっ?駄目って言います?もしそうなら・・・百合は悲しいです」

「言わないよ。ただし、危ない街だから注意してね。百合は可愛いから心配なんだ」

「はい、でも翔さんがいるから安心です」

「それが駄目、この前、危なかったよ」

「そうでした。でもあの時、百合は翔さんだけ見ていたし、ずっと安心していました」

「ありがとう。もっともっと、がんばるからね」

「はい、待ってます」

「???」

 

翔は久しぶりの百合の手料理に満足だった。

久しぶりに会って嬉しい百合がなかなか翔を帰そうとしなかったし、

翔も離れがたかったため、肩をくっつけて夜中までソファに座って、

テレビや本を読んで過ごした。

時々、二人はいつも間にいたミーアのことを

ふと思い出しては悲しい気持ちになった。

 

これからは卒業式を待つだけだが、

探偵業を始めるにあたり知識や準備が必要だった。

葉山不動産の紹介で探偵学校の塾へ短期入学をした。

ここでは尾行術および格闘術、クライアントの接客方法、報告書の作成方法など

探偵業のイロハを教えてもらった。

(つづく)