はっちゃんZのブログ小説

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9.テロ教団から都民を救え!2

翌朝、色々と準備をしていると昼前に新しいクライアントが訪れた。 

【依頼内容】

依頼人氏名:高田洋平様。37歳。

依頼人状況:会社員。

種類:家族への宗教勧誘の被害。

経過:通学路歩行中の児童の列へ車をつっこまれて子供を失くした一家の父親

   当日の自分を責めさいなむ母親への執拗なまでの新興宗教の勧誘。

   妻が新興宗教のゼミにも出席するようになり家庭が崩壊し始めている。

調査方針:新興宗教の調査。

     新興宗教から妻を取り戻す方法を知りたい。

 

新興宗教の教団に関しては、ホームページもできており簡単に検索できた。

『来世光世会』

設立年:1999年。本部:新宿。聖職者名:来光尊師、光精導師、

教義:宇宙創成から現在を超え宇宙最後まで、アカシックレコードに刻まれた個人の

原罰を修行により変え、霊的に生まれ変わらせることにより、

将来永遠に魂の至福の世界で暮らすことが可能になる。

修行すれば死んだ人の声さえも聞こえ、死んだ人間の魂さえも救える。

信者数:50万人(2016年4月現在)。

 

通学路自動車事故のニュースのまとめを読み始めた。

加害者は、高齢者から若者まで多様で共通性は無い。

事故理由としては、眠くなったとか小学生の姿を知らないで列へ突っ込んだとか

被害者の親には聞くに耐えられない理由を話している。

共通性はないと思ったが、この理由に共通性があるように感じた。

犯人の姿や逮捕された時の運転席付近を映しているニュースがあり

画像を詳細に調べた。

そしてやっと腕時計が同じである点を見つけた。

 

事務所にある「量子コンピューター(Ryoko)」

へ写真や関連情報を入力すると出てきた。

腕時計

 製造元:来光財団

 住 所:来世光世会隣のマンション1階事務所

 配 給:車の安全運転祈願用に作成され、

     新宿の交差点で止まった車に善意として渡している。

翔がレンタカーを借りて新宿あたりを流していると、

運よく来世光世会本部前交差点で腕時計を貰った。

少し離れたところで裏蓋をそっと開けて確認してみる。

電波発信機らしきものと液体が封入されたカプセルが組み込まれている。

液体を解析してもらおうと京一郎さんへ連絡すると、

建設中の目黒の研究所の方へ持ってくるように言われた。

現在突貫工事中で厳重に覆いをされており、敷地の端にプレハブが立っている。

化学設備は簡単にできるらしくガスクロマトグラフィーで解析してくれるらしい。

京一郎さんの隣にはアイさんが助手で働いている。

 

偵察用ドローンからの教団情報は

『来世光世会本部』は、地下2階、地上4階の建物。屋上にヘリポートがある。

あらゆるところに赤外線が張り巡らされており、

侵入どころか脱出も不可能に近かった。

最上階に100台くらいドローンが待機している部屋の存在が異常だった。

ネット情報も追加すると

4階:尊師など指導者らしき人間の部屋が3つとドローン部屋。

3階:上級会員・研究者専用の部屋が多数。

中2階:尊師謁見部屋。武器・道具部屋。

1階:大型道場及び修行(洗脳)部屋多数と警備室。

地下1階:大型実験室。金属性檻の拘束室。

地下2階:動力室など。

地下2階と区画外の隣のマンションは地下道でつながっている。

隣のマンションの名義は来光財団でどうやら関係者が住んでいる様子。

 

いよいよ内部調査を開始した。

クモ大助1号は1階の修行部屋の外側の壁面へ、

2号は最上階尊師の部屋付近の外側の壁面へ待機させた。

音声は触手をガラスへ触れてその振動で聞き取る方式なので中に入る必要は無かった。

画像は8個の眼で見るので死角はない。

これから数日間はクモ大助1号2号からのデータを元に教団状況を調査していく。

送られてくる画像及び音声データは膨大なもので、いちいち聞いていると大変なため、

量子コンピューター(Ryoko)」へ音声解読機能及びポイント部分指示により

以下データのまとめが表示された。

 

①教団規模

教団代表者:来光尊師(父親)、妙光院(母親)、光精導師(息子)

警備員:5名 (3交代制)

職員(研究):5名、但し、1名は個室幽閉中

職員(事務):5名 

職員(法師):20名 ※金賀を中心に武道経験者ばかりで構成されている。

 

②来光尊師スケジュール

08:00 起床

10:00 2階謁見の間で新信者と謁見

14:00 1階大型道場にて指導、たまに修行の間にも顔を出す。

18:00 2階謁見の間で法師への指示

20:00 4階自室で気に入った若い女信者(事務)と遊んで過ごす。

 

③妙光院と光精導師スケジュール

09:00 4階自室で起床

10:00 ゲームやネット遊び

14:00 1階大型道場にて指導

19:00 謁見の間での教団員への指示内容を妙光院が自室で光精導師へ伝える

20:00 ゲームやネット遊び

22:00 母親のお相手

 

④特殊能力

来光尊師:50歳。手から電気を発する。頭上へ雷を落とす。(メカニズム不明)。

光精導師:22歳。強力な念力。相手の手足の自由を奪うほどの強さ。

     少年期、同級生への殺人容疑の情報を発見。(ただし2チャンネル)

     ※参照:「なぜ?誰が?こんな悲惨な事件を!全身骨折と失血死の遺体」

     母親との会話から、射精後は一時その能力が消える。

 

⑤当たり屋グループ

殆どが海外から日本へ「技能実習生」として入国し、職場から逃走した不法外国人。

一般市民からの恐喝金の半分を教団へ上納しマンションで身を隠す。

金賀が不法外国人を脅して当たり屋をさせている。表面上は教団と無関係。

 

午後になり、アイさんから分析の結果連絡があった。

『カプセルに封入されていた薬液は「濃縮エーテル」。

 ある波長の電波を受信すると

 カプセルから濃縮エーテルが空気中へ放出される仕組み』

 

この犯罪の概要が明らかになった。

当たり屋は、不法外国人を利用し資金を教団へ上納させる仕組み。

信者勧誘は、通学路事故の被害者となった親を信者として勧誘し財産を全て搾取する。

その事故発生方法は、時計をしている人間が通学路を通る時、

上空に待機したドローンを使って信号を発信し、

この薬剤を噴霧することで運転手を朦朧とさせ

通学中の児童の列へ突っ込ませるものだった。

修行部屋では

『現在、あなたの子供の魂は闇の世界へ送られている。

 親として心配ならば光の世界へ呼ばなくてはならない。

 この教団で尊師様の教えとおりにすれば必ず魂はあなたの元へまいります』

という会話から考えて、

思わぬ事故で正常な判断を失っている母親ならば子供のために入信すると思えた。

 

ただ2つほど気がかりな情報が入ってきている。

1つは

2階の尊師との謁見の間での幹部との会話の一部から、

何か大きなテロを考えている可能性が見えたからだった。

「今の政治を変える。そのために社会を変える。そのための犠牲が必要」

「きっと本国の国民にも喜ばれるはず」

「あの不良外人なら死んでも困らない」

「これでやっと地上からウェノムチョッパリを殲滅できる」など

 

もう1つは、

地下2階に幽閉されている女性だった。

色々とキーワードを打ち込んでRyokoに検索して貰ったら、

5名の研究者はリストアップできた。

その中で背格好が良く似ている人間は、

氏名:紅柳瑠璃

年齢:30歳

職業:大学で若くして細胞オートファジーシステム研究で新進気鋭の生物化学者。

   医師でもあり将来を嘱望されていたが、財団に就職する。

  『夢は世界の人を病気から救うこと』と当時の新聞では報道されている。

経過:来光財団に入団後、一切フェイスブック等への参加はない。

 

もし潜入して教団と戦いになった場合、先ず邪魔者とされ殺される可能性がある。

この女性を至急に調査する必要があった。

幽閉されている事実から考えて、教団に反した考えの人間と推測されるからだ。

食事は警備員が持っていくのでその時を狙うしかない。

これはクモ助の出番だった。

今回は『聞き耳タマゴ』を『おしゃべりタマゴ』に代えた。

 

クモ助を塀から歩かせてもいいが、時間が惜しいので、

翔は警備員がいつも使うラーメン屋の店員に化けて、警備室へ入っていった。

「今日は頼んでないけど、誰だろう?」

「はい、あれっ?間違ったかな?新人なものですみません。

 でも、もう麺が伸びちゃったら商品にならないので良かったら食べて下さい」

 

クモ助は、出前箱から密かに脱出し警備室の机の陰に隠れることができた。

食事当番の警備員が食事を持っていく時を狙ってズボンの裾の裏に張り付いた。

ここからは、彼らに連れて行ってもらう事とした。

 地下2階の幽閉部屋には、やはり紅柳瑠璃さんがやつれた顔でベッドに座っている。

警備員が食事を置くときにそっと床に落ちて、ロッカーらしきものの陰に隠れた。

電気はついているが全体的に薄暗いのでクモ助の移動は見えなかった。

警備員がいなくなってから、紅柳瑠璃さんを驚かさないように注意して、

天井部分から金属性の檻の中へ移動した。

 

紅柳瑠璃は昼ご飯を食べ終わって、ベッドに横になっていると、

天井に小さなクモのいることに気がついた。

ここは掃除の行き届いた地下室なので非常に珍しいことだった。

そのうち、クモから丸いタマゴ型のものが糸に吊られてゆっくりと下りてくる。

『紅柳博士ですか?応答願います』と小さな声がタマゴから聞こえてくる。

「はい、紅柳です。どなたですか?」と小さい声で質問をした。

「良かったです。私はあなたを助けたいと思っている者です。キリュウと言います」

「キリュウさん?わかりました。どうすればいいのですか?」

「現在、救出の準備中ですので待っていて下さい。

 このタマゴを耳の後ろに貼って貰えますか?私からの指示が聞こえやすいですから」

「はい、こうですね」

「はい、つぶやきでも音を拾いますから安心して下さい。ではまた連絡します。

 それと良かったらそのクモを襟の裏にでも挟んでおいて下さい。

 後で回収しますから」

紅柳博士はクモを手の甲に乗せると不思議そうに見ている。

生物だと思っていたが精巧な機械だったので驚いたようだった。

(つづく)