はっちゃんZのブログ小説

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111.妖?行方不明者を探せ9

五芒星から立ち上る瘴気が魔物の潜む大樹の一点へと集まっていく。
黒いガス状のものが徐々に異形のモノとなっていく。
とうとう魔物の本体が姿を現した。
祠で見つけた抜け殻とは全く異なった姿だった。


たくさんの人間の恨みと僻みを喰らって育った魔物は化け物へと変貌していた。
体長は3メートルほどで
石でも噛み砕くことのできるような鋭い牙と
鋭い爪を持つ毛深い八本の太い足を持つ蜘だった。
しかしその身体には、まだほんの少し人間の特徴を残している。
蜘の額部分に祠から開放したであろう人間の顔が浮かんでいる。

その牙の見える口から
『日本を壊せ、新しい日本を作れ、我々が支配者だ』
と何度も唱える声が聞こえてくる

遼真から
「兄さん、あの化け物の人間の顔部分の眉間へ集中して気を入れてください。
 あの人間が死ぬ事はありませんから安心してください」
翔はその一瞬に気を高め、掌へ気を溜めていく。
竜頭拳を作り、
十分な気の量となった時、魔物の顔の近くへ跳んだ。


魔物は一瞬で目の前に現れた翔を見て驚き、

ほんの一瞬だけ動きが止まった。
その瞬間に頭部の急所である『眉間』へと拳と共に気を打ち込んだ。


『ギャア・・・ク ル シ イ』
一瞬、魔物の姿が二重にぶれる。
人間と蜘が白く蠢いている。


「兄さん、ありがとうございます。
 今、あの人間と魔物を繋ぐ経路の一部を破壊できました。
 あの場所の奥部分が魔物の魂と人間の魂が深く繋がっている部分です。
 しばらくは動きが鈍いでしょうから、後は僕達がします」

遼真は、
右手一本で金色に輝く大刀を操り、
呪文を唱えながら魔物を切っていく。


一切血は出ないが、
魔物の顔が苦痛に染まっていく。
同時に「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」と左手で片手印を結んでいく。
最後の「前」の『ン』で心臓部分を突き刺した。


同時に真美が両手で三角形を作り、
呪文を唱えながら
「自縛印」と叫ぶ。
魔物の足元にはうっすらと白い正三角形が現れた。
不思議な事に魔物はその場所で一切動けなくなっている。


次に遼真が両手を今度は逆三角形を作り、
呪文を唱えながら
「昇霊印」と叫んだ。
今度は魔物の上空に逆三角形の印がうっすらと浮かんでいる。


それら二つの印が上下呼応し合い六芒星となり、
白い光の円柱となり回りだした。

その光る円柱の中では、
魔物の身体がぼやけて小さくなっていく。
さきほど気を撃ちこんだ時のように
魔物の姿がぶれるように二重写しになっていく。
やがて人間と大きな蜘の姿に完全に分かれる。


「オン マユラキランテイ ソワカ 
 孔雀明王よ 我の祈りを聞き届けたまえ
 この哀れな魔物をお送りいたします 
 なにとぞ深い慈悲で除霊をお願いいたします」


突然、

円柱の上部分の三角形より、
巨大な孔雀の羽が現れ、

『クアー』と叫び声が聞こえた。

蜘の魂に刻み込まれた
何百年もの壷の中での永遠の闘いによる苦しみ
殺さなければ殺される理不尽さへの恨み
このような境遇に生まれてきた憎しみに染まった魂が
孔雀明王のお使いの声を聞いて、恐れおののいている。

やがてその大きな嘴が開かれ、
咥えられ、
蜘の魔物の魂がその中へと消えた。
足元では真日本革命団の男は呆けた顔で仰向けに倒れている。
翔はやっと終わったとほっとしている。
「兄さん、まだ終わっていませんよ」
「えっ?終わっていない?」
遼真と真美が緊張を解かないまま武器を構えている。

(つづく)