大学で翔は『格闘技研究同好会』に所属していた。
この同好会は戦うわけではないが、闘いの歴史や暗器などの研究をしている同好会で、会員は何某かの格闘技の経験を持っている。
翔自身は『空手』の経験があるという事で入っている。
そんなところへ何と新入会員として彼女が顔を出した。
2年生の白川会員と同じ研究室だという事で誘ったらしい。
そして百合は翔を見て頭を下げて挨拶をした。
「あれっ?桐生先輩、
館林さんをご存じだったんですか。
なあーんだ。皆を驚かそうと思ったのに、
彼女、こう見えて合気道をしているんだって」
「なんだ、桐生の知り合いかよ。
こんな綺麗な子、隅に置けないなあ」
「いや、知り合いというほどでもないが・・・」
「少し前に桐生さんに助けて頂きました。
あの時はありがとうございました」
「桐生がねえ。いつもは戦わないのに珍しいな」
「いやいや、大したことはない、
ただ逃げてたら相手が疲れただけだから」
「そうなんだよなあ。
桐生は絶対に反撃しないで相手を疲れさせるからなあ」
「当たったら痛いから嫌なだけですよ」
百合が何かを言おうとした時に、
翔は彼女にだけ見えるようにウインクして指で口に『シイー』としている。
その日から二人は同好会で会合を開いている間は顔を合わす関係となった。
百合は目黒のタワーマンションの一室を借りているが、
翔は五反田のボロアパートを借りている。
歓迎会の帰りが遅くなったので、会員達は隣町に住む翔を護衛につけて送らせた。それから時々二人で帰る機会が増えてきている。
ときどき誰かの視線は感じるが害意は感じないので放っておいている。
百合は何度も翔を部屋へ入るように勧めるが入ることはなかった。
翔は一族の次期党首候補でもあるので一般人ましてやお嬢様は避けていた。
ただお人形のように可愛い百合を見ていたかったので、いつもマンションの近くの公園のベンチで座って色々とよもやま話をしている。
そんな時、その公園に子猫が住み始めたらしく百合が可愛がっている。
マンションはペット禁止となっているため仕方なかった。
今日も子猫を呼んでいる。
『ミーア、ミーア』
だが返事がない・・・
そのうち小さな鳴き声が絶え絶えに聞こえてくる。
急いでいつもの藪に向かうと子猫が怪我をして横たわっている。
(つづく)