はっちゃんZのブログ小説

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52.翔、初めて葉山館林家へ 2

翔は百合の誘導で葉山館林邸の中に入った。

ピーンと張り詰めた空気が漂っている。

ふと視線を感じて見上げると植木職人が翔をそれとなく見ている。

百合が挨拶するとその職人はぺこりと頭を下げている。

よくよく観察してみると、館林邸は洋館で植木、花壇や池の配置といい、

外部からの侵入を防ぎ、視界を遮る構造になっていることがわかった。

このような構造は桐生本家も同様なので翔には理解できた。

 

百合がこっちこっちと手を振っている。

「桐生さん、いらっしゃい。百合の祖母の悠香です。

 いつも百合に良くして頂いてありがとうございます。

 急なことで驚かれたでしょう?」

「いえ、こちらこそご挨拶が遅れ申し訳ありませんでした。

 いつも館林さんにはお世話になってます」

「爺様が是非会いたいと言いだして、年寄は気が短いのですみません」

「いえいえ、これは桐生家の方からお届けしなさいと言われたものです」

「あらあら、ひもかわうどんと上州牛の味噌漬けですね。

 これはうちの爺様の好物です。ご丁寧にありがとうございます。

 百合、桐生さんをお部屋へご案内しなさい」

「はい、お婆様わかりました。さあ翔さんこちらです」

「は、はい」

百合がそっと耳元へ小声で囁いた。

『翔さん、私はあなたが大好き、だから自信を持って」

 

奥の棟梁の部屋に案内されていく。

磨きこまれた床がにぶい光を放っている。

樫製のドアの前には秘書らしき初老の男性が待っておりドアが開かれた。

中に入ると板間に続き畳のある和室が見え、百合の祖父である隆一郎が待っていた。

翔はカチコチになって正座して両手をついて挨拶をした。

「本日はお招き預かりました桐生 翔と言う者です。何卒よろしくお願い致します」

「桐生君、いや翔君と言おう。そんなに緊張しなくていい。

何も取って食おうと言うわけではないから安心して。よく来てくれたね。

いつも百合を守って頂いてありがとうございます」

「いえいえ、まだまだです。いつも館林さんにお世話になっています」

「お爺様、あまり翔さんをいじめないで下さいね。

緊張しちゃって、いつもの翔さんじゃなくなってるわ」

「そのようだな。しかしあのプロレスラーくずれとの戦いによく勝ったものだ」

「えっ?ご存じだったのですか?」

「おう、百合は大切な姫だから常に見ていますよ」

「常に?」

「危ないことがないようにと言う意味だ。君は信用できるから見張っていないよ」

「はあ、そうですか。お恥ずかしいところをお見せしました。

あの時は私の油断が招いたことで、館林さんを守るために必死でした。

今度はあのような事態にはさせません」

「君の格闘術は突出しているな。相当に昔から鍛えこんできたようだな」

「はい、仔細はお話できませんが幼い頃より修行はしています」

「そうか、しかしそれほどの技量を持っていても

今の社会ではそれを活かすことができなくて残念であろうなあ」

「はい、私自身はただの暴れん坊と変わらないと自覚しています」

「翔さん、そんなことないわよ。

私はあなたの正義感が誰よりも強いことを知っています。

いつも弱い人をたくさん助けてきたじゃない。もっと自信を持ってお願い」

「うん、ありがとう。でも仕事となるとないんだよ」

「でも・・・」

「まあ、翔君、仕事の話はここまでにして、少し道場で男同士の話をしよう」

「お爺様、何をするつもりですか?」

「百合、お前は私と話をしましょう」

「お婆様・・・」

(つづく)