夕食後部屋でゆっくりとしているとそろそろ花火大会開演時間が迫ってきた。
窓から会場方向をのぞくと、既に倉庫前の花火の上がる方向は席取りがされていて、
町のあちこちからぞろぞろと地元の浴衣姿のお年寄りや若い人も集まってきている。
慎一は一足先に車に乗せているシートを持って会場へ向かった。
ちょうど通路部分に空いているところがあったのでそこへシートを敷いて家族を待った。
夕日に照らされた空の端に夕闇が忍び寄ってきている。
多くの人達が通路以外の空いた部分へ思い思いに座っている。
風も強く、夏にもかかわらず肌に涼しいくらいだった。
しばらくしてから家族がシートへ座ってきた。
大花火大会開催のアナウンスが流れ、
メインスポンサーの北海道新聞函館支社長が挨拶を始めた。
さあいよいよ開演だった。
『ドーン』
最初の花火「大玉」が打ち上げられた。
見上げる視界全てに広がるその大きさは圧巻だった。
ふと米子の花火大会を思い出した慎一はそっと静香の手を握った。
静香は慎一を見つめると微笑み、そっと軽く握り返してきた。
慎一の膝では、
雄樹が背を父親の胸にもたれさせて驚いたように大口を開けて見上げている。
美波の膝では夏姫が大きな音に驚いたのか怖そうに美波の胸に顔をうずめている。
そこからは、
その花火を作成した職人の名前やテーマ、
そしてその思いがアナウンスされてから打ち上げられる。
その総数は1万発以上という話だった。
職人の強い思いがさまざまな形や色合いを生んでいるようで
街が、
夜空が、
海が、
人が、
極彩色の光に彩られ多くの色に染まっていく。
面白かったものとしては、函館の名産のイカの形の花火だった。
最初はあまりに唐突で想像もしていなかったので
一瞬何が打ち上げられたのかわからなかったが、
近くで「イカだ、イカだ」と叫ぶ声が聞こえたのでようやくわかった。
ここまで大掛かりな花火大会は、
みんな初めてで最後までワクワクした時間を過ごした。
しかし、そんな楽しい時間もとうとう終わりを迎える。
閉演時間の21時だった。
子供達は驚き疲れたのかスヤスヤと眠っている。
(つづく)