はっちゃんZのブログ小説

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64.千歳・支笏湖氷濤まつり

美波の氷瀑祭りの話を聞いて慎一は居ても立っても居られず、翌週の土曜日に|支笏湖《しこつこ》|氷濤《ひょうとう》まつりに行くことを決めた。
一瞬同じ|層雲峡《そううんきょう》|氷瀑《ひょうばく》まつりにしようかと思ったが、旭川は最近旭山動物園で行っているし、距離が遠く時間が読めないので同じ氷の祭りのある支笏湖を選んだ。
美波は当日用事があるようで来ないのは残念だが残りの4人でいく事にした。
支笏湖は春や夏にも何度もドライブがてら4人で来ているが、札幌から約1時間の近郊にある湖で、どこまでも湖底が見えて、目の前に佇む山々を湖面に映し出すくらい日本一水質のよい湖だった。

この祭の開催期間は、一番寒さが厳しい1月下旬から約半月間で、美波の行った「層雲峡氷瀑まつり」や札幌市の「さっぽろ雪まつり」と並び、北海道の冬を代表するイベントであった。
ここで開催される|支笏湖《しこつこ》|氷濤《ひょうとう》まつりの特徴は、
透明度の高い支笏湖千歳川)の水をくみ上げて凍らせた氷の美しさにあるらしい。
支笏湖の透明度が高い理由としては、この湖がプランクトンの発生が少ない『貧栄養湖]』であり、幸いにも生活排水の流入もないため濁りが非常に少ないらしい。昨年2002年には透明度30.7メートルという記録がある。
この非常に透明度の高い水をゆっくりと時間をかけて凍らせるため、完成した氷も不純物が少なく青い光を通しやすくなり、ライトアップしなくても青く輝く氷ができる。そのため昼間も『支笏湖ブルー』と呼ばれる淡いナチュラルブルーの氷のオブジェを存分に楽しめるのだった。

開催者の話では、この祭開催のヒントとなったのは『しぶき氷』という自然現象だったらしい。これは水深が非常に深い支笏湖は湖面が凍ることがなく、強い風によるうねりや高潮によって岸に吹きつけられた湖水が桟橋などに氷の柱や玉状になって凍りつくと言うこの湖う特有の現象で、透明度の高い『支笏湖ブルーの氷』は、マイナス7~8℃くらいの微風時と言う冷え込みの状態の時にできやすいらしい。
このしぶき氷を、スプリンクラーによる噴霧で人工的に再現したのが氷濤のオブジェである。
これらのオブジェは、鉄骨や自然木や農業機材などの素材に千歳川の水を噴霧して氷濤はつくられる。オブジェの中には完成してから骨組みを抜くなどのものもあり大変なこだわりを持って、約2カ月もかけて作られている。
 
夜に花火や太鼓演奏などのイベントがあると聞いているため夜遅くなる事を覚悟して家を出た。
今回は道央自動車道大谷地ICから千歳ICまで移動し、下りて真町泉沢大通を進み、本町2丁目の信号を左折し支笏湖通に向かう。支笏湖通まで行けば一本道だった。道なりに進んでいくとラッシュに会った。
だいぶ人が集まっているようだ。帰りも考えて静香が準備したご飯は正解だった。
静香は朝に帰りのラッシュを想定して、いつもの『大野海苔』と『ゆめぴりかのおむすび』とお漬物とお茶を多めに準備している。
湖まで時間のかかる事を覚悟したが、諦めて帰る車もあって思ったより早く着くことができた。
会場の駐車場はほとんど車で詰まっていた。誘導員の指示に従いながら停めた。
雄樹は車の中で退屈をしていたので早速走って滑って転んでいる。
夏姫は今起きたところでいつものように抱っこをせがむ。
もう夕方でライトが明るく感じる様になってきている。

会場の方へ向かうと立札で「苔の洞門」と書かれている。
このオブジェは一番歴史が古く最も人気が高い。湖の南側にある名所の「苔の洞門」を氷で表現した幻想的なエリアで、苔をイメージさせるために緑の氷の土台にトドマツとエゾマツを使い、ちょうど洞門を歩くかの様な雰囲気で歩いていると、仄かに松の香りがうっすらと漂ってくる。
ホームページでは、このオブジェの苦労が語られている。
「苔感を出すために外側から水を噴霧し、時間をかけて水を徐々に染みこませ、松の葉をうっすらと凍らせている」
その他、会場では
巨大な氷壁が間近に迫る「ビッグマウンテン」、
会場内を広く見渡す展望スポット「天空回廊」や「ブルーシャトー」などへ登った。
このオブジェは、全て氷で出来ておりまさに氷の回廊の雰囲気で、
そこでは氷に慣れている道産子も滑って転ぶ人が多かった。
この高いオブジェの頂上からは、
会場全体が見ることができて幻想的にライトアップされた会場が見渡せた。
子供達用にオブジェとして
「アイススライダー」は、あまり混雑していないので何回でも挑戦できた。
「チャイルドリンク」は、長靴のまま氷滑りを体験できて子どもしか入れないエリアで、体が硬く転倒時にケガをしやすい大人は入場禁止となっている。子どもはヘルメットの着用が義務付けられており、人数制限があるので、子供達は安心して伸びのびと氷滑りを楽しんでいる。
雄樹は「アイススライダー」に夢中になり、夏姫は「チャイルドリンク」で滑って遊んでいる。
また別のコーナーでは「湖底の水族館」はヒメマス・ブラウントラウト・ウグイといった支笏湖に生息する魚を氷漬けにして展示している。

だんだんと寒くなって来たので、フードサービスの小屋へ入った。そこにはそばやうどん、肉まん、おでんなども売っていたが、北海道名物、炭火で焼き、バターを乗せた「じゃがバター」が売られている。それはとても大きなジャガイモで、子供の顔の半分くらいの大きさで驚いたものだった。
種類を聞いてみると大滝村の「洞爺」というじゃがいもを使用しているとらしい。
今度、スーパーで売っていれば買おうと思うくらい美味しかった。

しばらくすると「氷濤ダイナミックナイト」開始のアナウンスが響いた。
このグループのメンバーは「支笏湖国際太鼓」のメンバーが中心になっていると説明されている。
みんなが真っ白い息を吐きながら和太鼓の演奏が始まった。
奏者は、男性が多いのかと思っていたが以外に女性も多く、
『はっ』と一斉に声が上がり、
会場や山を震わせる力強い和太鼓の音が会場に満ちた。
この寒い中でも両袖の無い法被を着て両腕を露出して元気一杯に撥を揮っている。
観客も慎一も寒さを忘れてその和太鼓の演奏に心を奪われた。

そろそろ花火の時間18時30分が近づいてきた。
花火を見るのにちょうどいい場所とアナウンスされている会場に近い展望台のある山道へ向かった。
やがて花火大会が始まった。
空で咲く花火の下には、ライトアップされた氷のオブジェがありその様が美しかった。
花火の時間は約15分ほどだったが、夏の花火とは異なった感覚で、冬の冷たい空気の中を上がる花火の迫力に圧倒された。最初から終わりまで拍手喝采が絶える事は無かった。
花火が終わるとさすがに観客も車へと移動し始めた。
慎一達も疲れて眠りかけた子供を抱っこしながら車へ急いだ。
帰り道は雪道でそれなりのスピードしか出せないが
渋滞になることもなく順調に道央道へ上り一気に家まで帰った。