はっちゃんZのブログ小説

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89.遺族の恨みは晴れるのか15

そこから無言の戦いが始まった。

拳と筋肉が『ガツン』『バチン』と当たる音と

二人の呼吸音と裂帛の気合のみが庭に響いている。

全身筋肉のような獣、地上最大最強の獣、ヒグマに獣人化した人間だった。

敵はもう人間のような言葉は発せない。

太い幹をも折れ砕く前腕、噛み砕く牙、

翔の体重の乗った全力の蹴りをも軽く弾く身体、

翔も全力を持って闘った。

さすがに何度も受けることのできない打撃だった。

敵の払いを避けた一瞬の隙を見つけ、敵の側面へ移動し片目へ指を入れた。

これで片目は死んだ。

距離感が狂うので敵は体力を消耗するはずである。

 

「あれー、あんた。大丈夫なのかい?そんなことになっちゃって。手伝おうか」

『グオー、グオー』

「あんた、何、言ってるかわかんないよ。まあ、今回は貸しね」

今まで太い幹で高見の見物をしていた闇から女性のような声がした。

左右から殺気が押し寄せてくる。

枝に止まっていた獣はどうやら「フクロウ」のようで、鋭い爪が武器だった。

身軽い動きで一瞬の隙を付いて攻撃してくる。

また金色に光る目を見ていると、

なぜか身体が重くなるので視線も合わせることは出来なかった。

 

その時、新しい獣の気配が押し寄せてきた。

「へえ、猫が出てきたか。うまく説得できたのかねえ。社長も必死だね」

三方から囲まれて、ヒグマ・ネコ・フクロウの三位一体攻撃を食らっては

さすがの翔も苦戦することを覚悟した。

「くそー、こんな奴らに日本が好きにされるのか」と翔が呟いた。

その呟きを聞いた新しい獣から言葉が発せられた。

「お前、日本人なのか?ここは日本なのか?」

二人の獣人は、やや焦ったように

「グワッ、グワッ」

「ネコ、何をしてるんだね。そんなこと気にせずにこいつを殺せ。

そうじゃないとお前が殺されるよ」

翔は彼に急いで伝えた。

「ここは、日本です。そして私は日本人です」

(つづく)