はっちゃんZのブログ小説

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『武闘派!』なのに、実は超能力探偵の物語

あらすじ

桐生 翔(きりゅうしょう)は新宿の片隅で私立探偵業を営む。困った人を助けたいと思う正義感あふれる若い探偵が、この小さな探偵社を訪れるクライアントから持ち込まれるさまざまな依頼を真摯に解決していく。

ある日突然超能力(テレポーテーション)に目覚めるが、本人もその能力をあまり信用しておらず発現頻度も曖昧で使い方もよくわかっていないまま物語は進んでいく。

翔の高い格闘技術と最新探偵道具を使い事件の核心を掴み解決していく姿と恋人百合とのラブラブな場面を楽しんで欲しい探偵小説。 

~もくじ~

1.絶体絶命のはずなのに?       2.翔、帰還?! 

3.京(狂)一郎、見参!        4.『葉山館林研究所』到着 

5.いつ出るの?超能力!                       6.葉山館林邸1

7.葉山館林邸2                           8.テロ教団から都民を救え!1

9.テロ教団から都民を救え!2     10.テロ教団から都民を救え!3

11.「目黒館林研究所」完成        12.臓器売買組織を壊滅せよ

13.ストーカー事件を解決せよ!1  14.ストーカー事件を解決せよ!2

15.ストーカー事件を解決せよ!3  16.ストーカー事件を解決せよ!4

17.百合との出会い1                     18.百合との出会い2

19.百合との出会い3           20.百合との出会い4

21.幼い兄妹を救え1                           22.幼い兄妹を救え2

23.幼い兄妹を救え3           24.幼い兄妹を救え4

25.幼い兄妹を救え5        26.翔とミーアと百合1

27.翔とミーアと百合2                       28.局アナ盗撮事件を解明せよ1

29.局アナ盗撮事件を解明せよ2   30.局アナ盗撮事件を解明せよ3

31.局アナ盗撮事件を解明せよ4   32.局アナ盗撮事件を解明せよ5

33.未知の物質は?         34.桐生事務所ビル改築

35.オレオレ詐欺団を壊滅せよ1      36.オレオレ詐欺団を壊滅せよ2

37.オレオレ詐欺団を壊滅せよ3      38.オレオレ詐欺団を壊滅せよ4

39.オレオレ詐欺団を壊滅せよ5   40.お化けアパートの怪1

41.お化けアパートの怪2              42.お化けアパートの怪3

43.お化けアパートの怪4              44.お化けアパートの怪5 

45.お化けアパートの怪6      46.初めてのくちづけ

47.百合、実家で相談する      48.翔、久々に実家へ帰る1

49.翔、久々に実家へ帰る2     50.百合、初めて桐生家へ

51.翔、初めて葉山館林家へ1    52.翔、初めて葉山館林家へ2

53.翔、初めて葉山館林家へ3    54.翔、初めて葉山館林家へ4

55.新宿探偵事務所スタート1    56.新宿探偵事務所スタート2

57.新宿探偵事務所スタート3    58.新宿探偵事務所スタート4

59.逆恨み1            60.逆恨み2

61.逆恨み3               62.消された記憶1

63.消された記憶2            64.消された記憶3

65.怪しいクライアント       66.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ1

67.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ2  68.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ3

69.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ4  70.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ5

71.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ6  72.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ7

73.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ8  74.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ9

75.遺族の恨みは晴れるのか1      76.遺族の恨みは晴れるのか2

77.遺族の恨みは晴れるのか3              78.遺族の恨みは晴れるのか4

79.遺族の恨みは晴れるのか5              80.遺族の恨みは晴れるのか6

81.遺族の恨みは晴れるのか7              82.遺族の恨みは晴れるのか8

83.遺族の恨みは晴れるのか9              84.遺族の恨みは晴れるのか10

85.遺族の恨みは晴れるのか11            86.遺族の恨みは晴れるのか12

87.遺族の恨みは晴れるのか13            88.遺族の恨みは晴れるのか14

89.遺族の恨みは晴れるのか15            90.遺族の恨みは晴れるのか16

91.遺族の恨みは晴れるのか17    92.特訓1 (浅間別荘編1)     

93.特訓2(浅間別荘編2)                   94.特訓3(浅間別荘編3)

95.特訓4(浅間別荘編4)                     96.特訓5(浅間別荘編5)

97.特訓6(浅間別荘編6)        98.特訓7(浅間別荘編7)

99.特訓8(葉山編1)         100.特訓9(葉山編2)

101.特訓10(葉山編3)                    102.特訓11(葉山編4)

103.妖!行方不明事件の謎を解け1   104.妖!行方不明事件の謎を解け2

105.妖!行方不明事件の謎を解け3   106.妖!行方不明事件の謎を解け4

107.妖!行方不明事件の謎を解け5 108.妖!行方不明事件の謎を解け6 

109.妖!行方不明事件の謎を解け7    110.妖!行方不明事件の謎を解け8

111.妖!行方不明事件の謎を解け9 112.妖!行方不明事件の謎を解け10

113.               114.

 

さざなみにゆられて-北海道編-

小説期間:2000年平成12年4月1日~

あらすじ:

さざなみにゆられて-山陰編-の続編です。

山陰地方で生まれた美波は写真集で見た富良野などの北海道の雄大な風景に憧れ、

自分のことを全く知らない人の街で一人で暮らしてみたいと北海道の大学を受験。

小樽商科大学に無事合格し義父の影響で銀行員を目差す。

両親は米子市にいたが、2000年に義父の勤務する銀行の合併に伴い、

偶然札幌市へ異動となる。

北の都『札幌』を中心に各季節ごとに趣きを変える北海道内の自然や観光名所を含めて

慎一、静香、美波、雄樹、夏姫の生活が始まる。

悲しい事件は起りません。おだやかに時間が過ぎていくだけです。

 

登場人物

日下慎一 現在41歳、1999年静香と再婚。山陰支店では預金課で勤務している。

     2000年4月より関西中央銀行と札幌振興銀行が合併し「六花銀行」となる。

     2000年に北海道札幌市へ再度融資課員(支店長代理)として異動。

日下静香 現在39歳、17年前に夫と死別し娘(美波)を一人で育てた。

                  1999年5月に日下慎一と再婚。現在妊娠中。

日下美波 現在19歳、鳥取県米子東高から北海道小樽商科大学へ入学し青春を満喫中。

日下雄樹 2000年夏に生まれる男の子。

日下夏姫 2000年夏に生まれる女の子。

 

もくじ

1.札幌へ              2.初めての胎動

3.美波の戸惑い           4.慎一の自覚と不安

5.初出勤              6.二人でコーヒー

7.美波の誕生日           8.YOSAKOIソーラン祭り

9.美波、学生生活スタート        10.独立への一歩

11.母の再婚と強がり娘        12.サークル

13.ゲレンデ             14.雪のイベント

15.誕生               16.子供たちのお披露目

17.お宮参りと育児への参加              18.銀杏の下で

19.シシャモ祭りとラムジンギスカン     20.お食い初め

21.美波の憂鬱                                         22.流氷観光1

23.流氷観光2            24.流氷観光3

25.桃の節句                                            26.静香始動            

27.支笏湖とオコタンペ湖1                   28.支笏湖とオコタンペ湖2     

29.端午の節句                                         30.美瑛と富良野1         

31.美瑛と富良野2                                  32.すながわスウィーツロード1   

33.すながわスウィーツロード2             34.美波、YOSAKOIへ出場1

35.美波、YOSAKOIへ出場2    36.子供達の誕生日

37.函館港まつりへ1-地球岬-         38.函館港まつり2-森駅-

39.函館港まつり3-ホテルにて-      40.函館港まつり4-花火大会-

41.函館港まつり5-ホテルの朝食-     42.ねぶた祭り1-青森へ移動-

43.ねぶた祭り2-青森観光1-           44.ねぶた祭り3-青森観光2-

45.ねぶた祭り4-祭り本番-        46.青森から函館へ-竜飛海底駅-

47.函館観光1                       48.函館観光2

49.函館観光3-恵山岬-          50.洞爺観光-有珠山・昭和新山-

51.洞爺から札幌-昭和新山牧場-      52.偶然の再会-望羊中山-

53.美波の恋?            54.ドライブへの誘い

55.彼とドライブ1-小樽から帯広へ-     56.彼とドライブ2-幸福駅-

57.彼とドライブ3-然別湖・東雲湖-  58.

    

 

さざなみにゆられて-山陰編ー

*あらすじ*

山陰地方の町、米子市で小料理屋「さざなみ」を営む静香・美波親子と

関西生まれの銀行マンの慎一とのふれあいを描く。

山陰地方の豊かな四季の中で三人三様の心の傷が癒される時間を描く。

読者の対象年齢は20歳以上に設定しています。

*登場人物*

後藤静香 小料理屋「さざなみ」の店主。

                  地の食材を美味しく食べさせてくれる店。

     店ではいつも弓浜絣を着ておりおだやかな笑顔の女性。

                  娘と二人暮らし。

後藤美波 静香の娘。高校一年生。明るく人懐こいところがある。

日下慎一 春に米子へ新規開拓を目的に赴任してきた独身の銀行マン。 

*改訂について*

内容は数年単位で徐々に見直しを行っています。

目次の後に(改)となっているものは見直して内容を若干変えています。 

~もくじ~

1.赴任(改)      2.「さざなみ」初来店 (改)

3.秀峰大山へ(改)   4.静香のまなざし、美波のまなざし(改)

5.面影(改)             6.追憶1(改)

7.追憶2(改)            8.美波の秘密

9.がいな祭りと境港         10.がいな大花火大会

11.美波、秋の県大会新人選へ出場  12.帰途の二人

13.とまどい            14.師走、三人で

15.帰省、遠い記憶         16.初詣

17.移り変わる記憶         18.桜街道

19.二人で出雲へ          20.母の再婚

21.彼との距離           22.浴衣1

22.浴衣2             24.突然の辞令

25.それぞれの思い         26.いつもの音

27.美波のがまん          28.慎一の約束、静香の願い

29.異動の朝            30.湯呑

31.壊れた携帯           32.霧と痛みの世界

33.間違い電話           34.幸恵の疑問

35.静香親子、神戸へ        36.春の息吹

37.再赴任             38.再び『さざなみ』へ

39.美波の受験           40.美波の言葉

41.旅立ちの日           42.広すぎる家

43.最初の夜            44.相性

45.新婚旅行、娘と1        46.新婚旅行、娘と2   

47.業界再編への動き、そして

55.彼とドライブ1-小樽から帯広へ-

少し大きめの鞄を持って待ち合わせ場所までの下り坂を歩く。

吐く息も白くなり小樽の朝はもう秋の気配だった。

9月入ると北海道は暑かった夏の気配が瞬く間に去り

次の季節への移り変わりの気配が濃厚になる。

その冷たい空気が美波の少し寝不足の目には気持ち良かった。

ふと見上げて映る天狗山の山肌にも紅葉が混じり始めている。

 

今日は遠距離ドライブのため、

ゆっくりと車を停める時間もないかもしれないと思い

母がドライブの時にはよく朝ご飯を作っていた事を思い出して

せっかくなので美波の得意な物を食べて貰おうと感じた。

それで今朝は早めに起きて

朝ご飯用にサンドウィッチを作ったのだった。

一つ一つラップで棒状に可愛く巻いている。

手も汚さず運転しながらでも食べる事ができるからだった。

 

「おはよう。今日はありがとう。晴れて良かった」

「おはようございます。そうですね」

美波は後部座席のドアを開けて鞄を置いた。

助手席へ乗り込むとシートベルトをした。

どことなく彼の顔をまっすぐに見えない自分がいた。

美波にとっては異性との初めてのデートで戸惑いもあった。

『彼にとってはデートのつもりではないのかも?』と思う不安もあった。

 

小樽市産業会館の前から道央道へ向かい、一路帯広へ向かった。

阿部さんは金曜日午後フレックスを取って余市市の実家へ戻っていたようで

後部座席には多くの果物の箱が積まれている。

お姉さんから『ご家族へお渡し下さい』とのことで、

両親や弟妹が喜びそうなブドウやリンゴなどが一杯だった。

 

千歳辺りで休憩がてらパーキングに停めて、朝ご飯を後部座席から出した。

阿部さんは驚いている。

「日下さん、ありがとう。美味しそう」

「今朝、眠い目で作ってるから、もし調味料を間違ってたらごめんなさい」

「ううん、なんもなんも、楽しみ」

「コーヒーも入れてきたのでゆっくりと召し上がれ」

「うん、ありがとう。美味しいなあ。日下さん、料理上手だね」

「母が以前、小料理屋をやっていたので見様見真似です」

「お店?すごいなあ。おいしいはずだ」と驚いている。

 

食事の後、運転しながら色々と話をした。

「阿部さん、最近お仕事大変なんですか?」

「ええ、新人なので毎日が勉強で、上司に叱られてばかりです」

「どんなお仕事なんですか?」

「最初は全体を知るという事で全ての部門を経験しています」

「それは大変ですね。

 最終的にはどのような部門を考えていますか?」

「今のところ、融資が面白そうですが

 見ていて大変そうなので経理にしようかなあと思っています。

 そういえば、日下さんのお父さんも銀行でしたね?」

「ええ、ずっと融資部門のようです。新しい職場なので大変みたいです」

「そうでしょうねえ。先輩に聞きましたが、人間関係を作るまでが大変だそうです」

「そうでしょうねえ。父も山陰では苦労したとよく言っています」

「確か日下さん、生まれは山陰地方だったよね?」

「ええ、そうです。米子という鳥取県にある島根県寄りの小さな街です」

「行った事無いからわからないけど、あなたが生まれた街なら良い街でしょうね」

「まあ、確かに良い所も多いですが・・・

 それに米子や山陰以外で住んだ事が無ければ違うかもしれませんが、

 どこの田舎でもよく言われる田舎特有のあれこれと噂がいっぱいの

 外からの新しい人間をよく思わない雰囲気が強くて私はあまり好きではないです」

「そうなの?じゃあ戻らないの?」

「ええ、せっかく北海道に来たのだからこちらで就職したいと思っています。

 家族も北海道を気に入ってるみたいで、

 父は退職してもこちらでずっと住みたいと思っているようです。

 それに米子の家も田んぼも他人に貸してるし、身内も誰もいないし

 仕事も都市部ではこちらの方が多いので、私はこの北海道が好きです」

「そうなの?

 てっきり卒業後は帰るのかと思ってた。

 良か・・・いや・・・ふーん、そうなんだ」

 

千歳恵庭ジャンクションから左折し道東道へと入り東上していく。

途中から石勝線と平行して夕張、占冠トマムの看板が出てくる。

トマムでは『星野トマムリゾート』の全景が見えて始める。

樹々に少し色の着き始めた森や芝生に点在する白いホテルや

パッチワークのような柄の高い塔(トマム・ザ・タワー)2本が目に入ってくる。

広大なトマムエリアの大自然を舞台にした多くの遊び場があり、

カヌー、ラフティング、カート、バギー、テニス、乗馬、熱気球、木製品、燻製など

数多くのアクティビティーが用意されていると看板には書かれている。

 

「日下さん、

 ここには『雲海テラス』で有名で

 朝早く真っ白の雲海に浮かんでお茶が飲めるらしいよ」

「へえ、すてき。阿部さんは見た事があるんですか?」

「ううん、残念ながらまだないよ。同僚に聞いただけかな」

「一度見てみたいですね」

「朝早くじゃないと無理みたいだから、なかなか見えないじゃないかな」

「それなら、仕方ないですね」

 

この雲海に関しては、ネットで調べ見ると3種類の雲海があるようで

一つ目、太平洋産雲海は

夏の十勝や釧路沖の海水温は低いままで維持されています。そこへ太平洋高気圧による南からの暖かい空気が流れ込む事で沖では大規模な下層雲(海霧)が発生します。

発生した下層雲は、南東の風によって十勝平野を覆い、日高山脈を越えてトマムに達します。トマム山は太平洋産雲海が届くかどうかぎりぎりの場所にあります。その時の雲の勢いが強すぎると雲海テラスも雲の中に入ってしまい、雲の勢いが弱いと日高山脈を越えられません。滝のような雲海は、絶妙な条件が揃ったときにだけ見られる希少な雲海なのです。いつでも見られるわけではないからこそ、見る価値がある現象です。

二つ目、トマム産雲海は

風が弱く晴れた夜、熱が上空に逃げて冷やされた空気が盆地状の地形の底に溜まることで発生する放射冷却による雲海です。このトマム産雲海が発生する朝は、山麓よりも山頂の方の気温が高くなります。日が昇り、盆地が暖められると、雲海は徐々に消えていきます。リゾナートマムやザ・タワーが、ポツンと雲海の中から突き出る風景は印象的です。

三つ目、悪天候型雲海は

天気が悪いときや、これから悪くなるときに出る雲海です。雲海テラスから見える山にまとわりつくように発生した層雲が広がって雲海となり、その雲海の上にも雲があります。立派な雲海ができることもありますが、雲の動きが激しく、やがて雲海テラスは雲の中に入り、天気が悪くなることが多くなります。

と説明されている。

 

遠くの山をじっと見ていると

確かに雲海の名残りらしき小さな白い雲が山の谷間には見える。

このトマムリゾートに宿泊しないと雲海が見えないのなら、

今度、雲海テラスが期待できる時期に家族で来てもいいなと美波は考えた。

ここまで来ると道東道は南下して十勝平野へと向かう。

(つづく)

107.妖?行方不明者を探せ5

高尾山を出発する時、遼真は目黒にある実家へ

本体の抜け殻を入手した旨と祈祷により潜伏場所を探る予定の連絡をした。

目黒の実家は、皇居の裏鬼門の方向になり江戸が出来る前から関東の守護として

安倍清明系列の京都と関係の深い由緒ある神社だった。

すぐさま一族の者から真美へ連絡が行き、

授業を早退し急いでタクシーで実家へと戻った。

真美は家に着くと、すぐに部屋へ鞄を置いて風呂場へ向かう。

そして制服を脱ぎ裸になると浴室へと入った。

檜で出来た浴槽には

今朝井戸から汲まれたばかりの冷たい水が張られている。

今から始める祈祷のための水垢離だった。

やや厚めの真っ赤な唇から洩れる息は真っ白だった。

水は肌を刺すように冷たい。

目を閉じ、祓いの言葉を唱えながら何度も被る。

その顔つきに一切変化はない。

真美の真っ白い肌が赤く染まる頃、それは終わった。

その後白衣と赤い袴へ着替え道場へと向かった。

 

遼真は中央自動車道西新宿ジャンクションから

首都高速中央環状線目黒方向へと曲がり翔と別れた。

リュックサックに入っている壺がやけに冷たく重く感じられる。

真美は祓いの言葉を発しながら祈祷所の四方へ祓いの塩を盛り清めていく。

護摩祈祷用の祭壇を作り、その周りにしめ縄による結界を張って行く。

護摩用祭壇の奥には祈祷用の壷の置く台を設置し

護摩用祭壇の手前には多くの護摩木を供えた。

そんな時、遼真のバイクの音が聞こえた。

真美は間に合ったことにほっとしながら遼真を待った。

「真美、遅くなってすまない。

 いつものように手早いね。さすがだな」

「遼真様、お褒め頂きありがとうございます。

 さあ魔物の抜け殻の入った壺をお渡しください」

「これだ。

 清めた布でさえも腐ってしまうような瘴気をまだ放っている。

 十分に注意してね」

「はい。まだ出てますかあ。ほんまに怖おすなあ」

「そうだね。

 じゃあ、僕は急いで着替えてくるから頼む」

「わかりました」

真美は壺を白い手袋で受け取り、注意深く祭壇の手前へと置いた。

 

しばらくして水垢離で清めた身体に、

白衣と黒袴をつけた遼真が祈祷所へあらわれた。

手には多くの人型の紙片が握られている。

その肩にはキツネのような顔付きの小さな動物が乗っている。

この動物は『管狐(クダギツネ)』と呼ばれる術者のお使いだった。

真美は遼真が『式神の術』を駆使するつもりだと知った。

真美も急いで「クイン」を呼び傍らに控えさせた。

遼真のお使いは「キイン」と呼ばれ、真美のお使いは「クイン」と呼ばれている。

 

加持祈祷が始まった。

遼真の口より呪文が紡ぎ出されて祈祷所全体へ拡がっていく。

祈祷所内の明かりは祭壇の護摩木の燃える炎だけだった。

呪文のたびに、

祭壇へ護摩木が放り込まれるたびに

強くそして弱く変化する炎が壁を照らし揺らしている。

壷から黒いオーラらしきものが立ちのぼり始めた。

遼真は呪文を唱えるたびに人型の紙片を祭壇の炎へ入れていく。

しかし、紙片は燃えず炎の中に消えていく。

今、人型の紙片は「式神」となり、祭壇の炎の中から

立ち上る黒い魄(はく)と同じ波動の立ちのぼる場所へと跳んでいく。

 

祈祷所の上空高くのぼった式神達は、

一つの大きな塊となったが、

それらは東京都を中心にして無数に分かれ始めた。

そして、壷の中の魔物と同じ波動の元へと飛んでいく。

ある式神は魔物の毒牙にかかった被害者の遺体へ向かった。

そして、遼真へと戻っていく。

ある式神は魔物本体へと向かった。

魔物の本体は、向かってくる式神の存在に気づき、

魔物は式神を攻撃して捕まえて殺した。

殺された式神の荒御魂は式神の身体を離れ遼真へと戻っていく。

 

祭壇の炎から多くの式神が遼真の手元へと戻ってくる。

そのうちの一つの式神には、大きな焦げ跡と鋭い穴が穿たれている。

魔物本体へ向かった式神だった。

遼真はその式神を掌に挟み、呪文を唱えて癒した。

式神の大きな焦げ跡や穿たれた穴が徐々にふさがっていく。

遼真はじっと瞑目している。

『この魔物は何かが違う。蠱毒の魔物だけではないかもしれない』と感じた。

 

その時、炎の中から牙のような炎が遼真へと向かって来た。

すぐさま、『管狐(クダギツネ)』の「キイン」と「クイン」が反応し

歯を剥き出して威嚇する。

二匹はその牙のような形をした炎に左右から被りつくと

先を争うようにビリビリと紙を破くように喰らってしまった。

そしてキインとクインは満足そうに背伸びをすると

主人の肩へ飛び乗りその頬を主人の頬へ擦り付けた。

(つづく)

106.妖?行方不明者を探せ4

遼真は木の根元で瞑目して座禅を組んだ。

しばらくして

彼の金色の縁取りのあるダークグレイの瞳が開かれた。

「兄さん、そこの右側の木の上の方を見て下さい。死体があるはずです」

木を見上げると白く長い塊がぶら下がっている。

急いで木を登り、ロープで固定してその死体を地上へと下ろした。

この男は、昔の修験者の格好をしていた。

そして着物に胸の中には御札が入っていた。

遼真が言うにはそれは『魔物を操ることの出来る力を持つ御札』だそうだ。

この男はきっと魔物を操り何かをしたかったが、その前に魔物に襲われたのだろう。

背中の背嚢の荷物の中からは「新日本革命軍」と記銘された書類が出てきた。

翔は急いでその内容をスキャンし、飯塚警部へ送付した。

 

その男の額には

『足の太さ2センチ、体長30センチくらいの蜘の屍骸』が付いている。

顔色は毒々しい暗紫色で醜く歪んだ口元と目元は恐怖に開かれている。

その屍骸は

「魂(こん)」は抜けてしまい「魄(はく)」の波動のみが残っている。

遼真は呪文を唱えながら、その蜘の屍骸を木の枝で挟み白い布へ包んだ。

そして、急いでリュックサックから新しい壷を出すとそれへ押し込んだ。

たちまち白い布は真っ黒に変色して煙が出てボロボロになっていく。

そっとその壷に蓋をすると呪文の書かれた札を貼った。

 

「翔兄さん、これが魔物の本体の抜け殻です。

 魂が抜けてもこのように恐ろしい毒素が出てきます。瘴気とも言いますが。

 江戸時代始めにここへ封印された魔物は、元々はある集団が百年以上かけて代々呪文

 で封印された壷の中へ多くの虫や動物を入れて最強の魔物を作ってきたようです。

 そして最後まで勝ち残ったのがこの蜘蛛だったわけです。

 こいつは魂だけでも生きることができます。

 心根の卑しい人間に取り憑き、その体の機能を蜘蛛そのものにさせる力があって

 人間を食料とするようです」

「じゃあ、今報道されている『スパイダーマン』って、もしかしてこいつが原因?」

「はい、そうだと思います」

「じゃあ、このままだとやばいね」

「本体だけだったらそのまま封印するか抹殺をすればいいのですが、

 今は魂だけの存在になって人間に憑依していいます。

 先ずはその人間を見つけるしかないです」

「被害者となった人間をエサにしていますから簡単には殺さないはずです。

 獲物を生かしながら体液を吸っているはずです。

 この修験者の荷物を調べたら二人分の食料を持っていました。

 ですから、もう一人の修験者へ憑依し移動しているはずです」

「この真日本革命軍の書類を読めば何かヒントがあるかも」

「そうですね。魔物の本体は手に入れましたから、

 早く魔物をこれに封印するだけです」

「その乾燥した化け物みたいな蜘蛛って、まだ動くの?」

「はい、本体の抜け殻ですから非常に親和性が高く再度入ることができるはずです。

 もし封印できないようなら別の方法を考えるだけです。

 まあ魔物に憑依された人間さえ見つければ何とかなりそうです」

「そうなのか・・・よくわからないけど、今Ryokoに至急に調べさせている。

 アスカも怪しい廃ビルをしらみつぶしに調べているはずだ。

 じゃあ、とりあえず事務所の方へ戻ろうか」

「はい、僕も魔物の行方をこの抜け殻を使って探りますので一度家へ戻ります。

 わかり次第、兄さんへ連絡しますからその場所で落ち合いましょう。

 それまでに兄さんの方で見つけられればそれでもいいと思っています。

 憑依された人間と言うものは、

 見た目は普通と全く変わらないので見つけにくいものなのです。

 それに少しでも発見が早い方が被害者の身体が無事な可能性が高いので・・・

 たとえ殺さなくても被害者は徐々に弱って行きますから、

 なるべく早く見つけたいのです」

「そうだったね。急いで戻ろう」

 

翔は祠の森の死体を青いビニルシートに包み、GPS発信装置を付けた。

そして目黒研究所のアイへ人目のつかない夜中にくるように連絡し、

京一郎へこの変死体の調査を依頼した。

そんな時、飯塚警部から真日本革命軍の情報がもたらされた。

どうやらこの組織は、今まで多くの革命テロを画策していたが、

今回はある宗教の筋から入手した古文書へ記載されている魔物を操ることにより、

総理大臣や大臣などを操り日本を転覆させようと考えていたらしい。

ただ真日本革命軍の本部には多くの白い人柱が天井の梁からぶら下がっており、

広間には不思議な模様と多量の血液が滲みこんでいた。

やはり被害の発生が霞が関方向へ東上していると感じた直感は間違いではなかった。

その近くには皇居もあるし、この事件は大変な事態だった。

(つづく)

54.ドライブへの誘い

北海道はお盆を過ぎると急速に日差しが弱くなり肌に当たる風が冷たくなり始める。

そして夏休みが終わる9月になると朝夕は10度以下の日も出始める。

日中でも20度は越えなくなり、街を歩く半そでの人も激減してくる。

近くの山々からは急速に緑が失われてくる。

激しいまでの夏の眩しさが過ぎ去り実りの秋へと向かい始める。

 

夏休みが終わって同級生達が再来年の春からの就職について話し始めている。

美波は就職までまだ一年以上あると思っていたが意外と早く同級生達は意識している。

美波としては入学当初、父の仕事を見ていたため

漠然と金融関係で就職をしたいと考えていた。

しかし、いざ就職となると配属先の事もあり、

地元と言っても事実上両親が転勤族のため地元の米子にはいないし、

地元そのものが既にない状況だった。

仮に配属が札幌市以外になった場合、両親が札幌市以外へ転勤すると

今度こそいよいよ本当に一人だけの生活となる可能性が高い。

地銀ならば北海道内に配属先が限定される可能性もあり、

都市銀行ならば全国どこに配属されるかわからないので不安だった。

友人の芳賀さんは、札幌が好きらしく札幌市内の就職を目指しているらしい。

 

新学期も始まり授業にクラブに忙しい毎日が続く。

そろそろ雪虫も飛び始めるかもとか噂になり始める頃

阿部さんから電話があった。

阿部:この前は中山峠で偶然会って驚きました。元気そうで良かったです。

日下:私も驚きました。阿部さんこそお元気そうで良かったです。

   それはそうと優しそうなお姉さんとお子さんはお元気ですか?

阿部:元気過ぎて困っています。余市へしょっちゅう呼ばれてアッシーをしています。

日下:まだまだお子さんも小さいから大変ですね。やはり阿部さんは優しいですね。

阿部:まあ、家族だから仕方ないし、初めての従兄弟も可愛いしね。

   会うのが楽しみな時もあります。

日下:そうでしょうね。私も年の離れた弟と妹が可愛いです。

阿部:そろそろ同級生は就職の話を始めてませんか?

日下:ええ、最近、友人達が就職の話を始めまてます。

阿部:先週に後輩から色々と相談がありました。日下さんは大丈夫?

日下:みんながそんなに早く考えていると知って驚いています

阿部:そうでしょうね。僕もそうでした。ゆったりと考えていて焦りました。

日下:阿部さんでもそんな事があるのですね。何か安心しました。

阿部:いや、安心しないほうがいいよ。

   でもゆっくりとした気持ちで探せばいいと思う。

日下:そうですね。

阿部:それはそうとこの前偶然会ったこともあるし、

   ちょうど今度の土日に休みが取れたんだ。

日下さんは何か用事が入っていますか?

日下:特にはないです。

阿部:じゃあ、もし良かったら少しドライブでもしませんか?

   ちょっと行って見たいところがあって。

   帯広方面で少し遠いんだけど。

 

美波は彼からの突然のお誘いに驚いたが、

彼と二人きりの時間を過ごすことを想像すると少し鼓動が早くなった。

日下:はい、お願いします。

阿部:ありがとう。当日はあなたのマンションの前に車をつけます。

   帰りは札幌のご両親の家まで送ろうと思ってるんだけど。

日下:ええっ?いいんですか?

   ありがとうございます。

阿部:朝少し早くて7時くらいになるけどいいですか?

日下:7時ですか?わかりました。

   だけどマンションの前だとすごく目立つので小樽駅の近くでお願いします。

阿部:じゃあ、小樽駅近くの小樽市産業会館の前でどうだろう?

日下:そうですね。そこがわかりやすいです。

阿部:急な話なのにありがとう。

   当日を楽しみにしています。では当日に。

日下:はい、私も楽しみです。おやすみなさい。

阿部:おやすみなさい。

(つづく)

105.妖?行方不明者を探せ3

魔物 ?

悪い神様 ?

封印 ?

今まで幼い兄妹からの依頼で解決した事件で不思議な事はたまにはあったが

今回の依頼は今までとは次元の違い、いや相手にする世界の違いを感じた翔だった。

 

その魔物に対しての情報は遼真の方からもたらされた。

魔物の本体はまだ不明で現在調査中との話だが、

その魔物の始まりはわかった。

どうやら『蠱毒(こどく)』から生み出された魔物だったらしい。

蠱毒とは、古代中国で使われていたとされる呪術の一種で動物や虫などを使用する。

蜘、百足、蛇、蛙などの多くの動物や虫を同じ容器に入れ、互いに戦わせ共食いさせて、勝ち残ったものを神霊とするらしい。そしてこの生物の毒を採取して飲食物に混ぜると、人に害を加えることができ、思い通りに福を得ることもできると言われている。

もし本当にこの魔物がこの世に解き放たれていたら大変なことになると感じた。

 

遼真から『あやかみの祠』へ一緒に行って欲しいと言われて、

翔は翌日バイク二台で高尾山へと向かった。

絶好のハイキング日和で平日にも関わらず登山客がたくさん歩いている。

その一団が通り過ぎるのを待って、目撃者のいない時を見計らってから

参道の途中から道なき道へ入り、ひたすら『あやかみの祠』へ向かった。

しばらくすると鬱蒼とした大きな森が近づいてくる。

その森の上空だけはなぜか黒雲が留まっており、

何となく嫌な感じになり行きたくない様な気持ちにさせられている。

気のせいか漠然とした不安が湧いてきて、

なぜか気が滅入ってきてますます足の運びが遅くなる。

 

ここで遼真が一旦翔を立ち止まらせると翔に向かって、

何かを唱えながら『五芒星の印』を切っている。

最後に『ン』と手刀を切った瞬間、

かすかに『フワッ』とした何かが身体を包んだことを感じた。

「翔兄さん、今から結界の張っている場所へ入ります。

 今さっき兄さんも結界へ入ることができるように術を掛けました」

「結界?術?・・・うん・・・ありがとう」

「じゃあ行きましょう。僕の後について来て下さい」

 

遼真は森の中をまっすぐに進んでいく。

足元には大きな石や地面から出ている曲がりくねった根が歩くことを邪魔してくる。

身体には蚊や虻などが体温や二酸化炭素に誘われて寄って来る。

「兄さん、そろそろ結界ですから注意して下さい」

翔は『注意しろ』と言われてもどう注意していいのかわからなかったが

とりあえず手の平に乗るほどの大きさのナメクジやヒルを踏んで転げないように

足元をよく見て遼真についていった。

時々薄暗い前方を見ているが全然祠らしきものは見えなかった。

 

『チリッ』とした少し痛いような痒いような皮膚感覚が走った。

とたんにそれまで真っ暗で見えなかった森の中が明るくなった。

木々の間から穏やかな日差しが差し込んでいる。

野鳥の声が響き渡っている。

そこに『あやかみの祠』は存在した。

縦横1メートル、高さ1.5メートルの杉材で作られた苔蒸した古い祠であった。

傍らに鎮座される苔蒸したお地蔵様にはなぜか頭が無かった。

その折れ口を調べると真新しく最近に折られたものだった。

そしてその近くには大きな鏡が割れて捨てられている。

 

祠の扉へ貼られたお札は破られておりその扉の鍵も破られている。

遼真が呪文を唱えながらそっと扉を開けていく。

中には何も無く床にはポッカリと穴が開いていた。

その穴の底には落とされた床板と割られた石板以外何もなかった。

その石版の表面には何か模様らしきものが彫られている。

遼真はその割れた石板を大切にリュックサックへ入れていく。

祠の床板は綺麗に元へ戻していく。

そっと祠の扉を閉めると周りを丁寧に探し始めた。

近くの木の根元には古い壷の破片が散乱していた。

(つづく)

104.妖?行方不明者を探せ2

今、テレビで話題になっているのは『日本版スパイダーマン』だった。

目撃した人の話では、ビルからビルへと軽々と移動して

『まるで映画のスパイダーマンみたいだった』と証言したので

それに飛びついたマスコミからは

スパイダーマンあらわる』と報道された。

テレビ的には犯罪の匂いのない雰囲気のため、

都市伝説の類いの扱いでそれほど大袈裟なことにはなっていない状況だった。

バラエティ番組「これは一体なに?とってもミステリー」でも面白おかしく報道されている。

 

一瞬、翔は戦闘服のバトルハンドのことを思い浮かべた。

バトルハンドは打撃力を高めており、その衝撃から掌を守る以外に、

粘着質のクモの糸状の物質を噴射しネットにする能力がある。

翔自身は、普通なるべく監視カメラからは隠れて偵察や調査行動をしている。

それを目撃されたのではないかと危惧したが、

その期間はちょうど東京には不在だったため

自分が目撃された訳ではないと安心した。

市井の人々の視線が上を向くのをあまり歓迎しなかったからだった。

 

事件への手がかりが一向に掴めない日が続く。

そんな時、桐生家頭首の祖父麒一から電話があった。

『お前の従兄弟の遼真が事務所へ顔を出すので会って欲しい』

とのことだった。

従兄弟の遼真とはもう10年以上会っていない。

確か現在は大学3年生で都内の私立大学へ通っているはずだった。

人を惹きつける切れ長の眼を持つ少年の顔の記憶がよみがえる。

幼少よりあまり格闘術の方は好きではなかったようだが、

爺さんからは不思議な力を持っていると聞かされている。

 

オレンジ色の鰯雲の隣に一番星が光る頃、遼真が事務所を訪れた。

驚いたことに高校生らしき女の子も一緒だった。

久しぶりに会った遼真は、少年の頃と変わらない雰囲気だった。

 

『桐生 遼真(きりゅう りょうま)』

身長178センチ、体重60キロ、やや細めの体型

淡いダークグレイの眼鏡を掛けており、鼻筋の通った顔で

人を惹きつける切れ長の眼で金色の輪郭の暗褐色の瞳を持つ青年

 

『桐生真美(きりゅう まみ)』

身長163センチ、シュシュで黒いロングへヤーをまとめている。

ややブルーがかったレンズの眼鏡をかけており、

鼻筋の通った丸顔でやや厚めの真っ赤な唇が目立つ。

猫のような丸い眼を持ち銀色の輪郭の深い暗赤色の瞳を持つ女子高校生

 

「翔兄さん、お久しぶりです。この方が百合様ですね。

 初めてお目にかかります。

 私は遼真、桐生遼真。

 翔兄さんの従兄弟です。

 これからもよろしくお願いいたします」

「はい、百合です。ご丁寧にありがとうございます。

 今お茶でも用意しますね」

「あっ、お茶は私が用意させていただきます。

 翔様、百合様、初めてお目にかかります。

 遼真様のおそばでお手伝いをさせて頂いています。

 桐生真美です」

「えっ?いや、私が、そう?

 まだ高校生なのにすごい。

 ありがとうございます。

 恐縮です」

「おお、遼真、久しぶりだな。

 しばらく見ないうちに大きくなったなあ。

 大学生活はどうだ?楽しいだろ?」

「ええ、まあ仕事も忙しいけどそれなりには楽しんでいます」

「真美?さんだったかな。初めてお目にかかります。

 同じ一族なのになかなかお会いできなかったね。

 いつも遼真を助けてくれてありがとうございます」

「翔様、そんなにご丁寧にお話しされなくて結構です。

 私はずっと京都の方にいましたからお会いできなかったのだと思います。

 3年前に東京へ転校してきました。では給湯室に」

その時、アスカが既にお茶を用意して持ってくる。

遼真と真美はまじまじとアスカを見て驚いている。

アスカがデスクへ戻ると遼真と真美が

『あの人が噂のOJO(オジョウ)システムのアスカさん・・・驚いた』

『遼真様、私も驚きました』と眼を丸くしている。

 

遼真達から聞かされた話として、

高尾山の北側の森の中には、ある『祠』があった。

獣道しか通じていないその場所は、森の大変深い場所にあり、

その存在は非常に修行を積んだ数少ない修験者しか知られていなかった。

仮に迷って一般市民がその祠の近くに行ったとしても

目には映らないような術が掛けられており見えない場所にあるはずだった。

それは修験者の間では『あやかみの祠』と伝えられていた。

 

江戸時代の始め頃、この魔物、いや怪神(別名:あやかみ)は

近くの村に出没し多くの村人を誘拐し食べたそうだ。

ある時、その村を偶然通りかかった一人の武士と霊力の強い法僧が

二人で長い戦いの末に魔物を退治し、

その魂を祠へ封印したと村の記録には残っている。

その祠が最近何者かによって壊されて魔物がこの世に復活し、

一日も早く退治するか祠へ返さないと日本が大変なことになると聞かされ、

二人からその捕獲に協力して欲しいと依頼されたのだった。

 

高尾山は、現在では新宿から電車で1時間くらいの距離にあり、日帰りで登山を楽しむことができる山で、ミシュランの三ツ星も獲得した非常にメジャーな場所である。

しかし、山岳信仰の山として歴史としては1300年以上あって、奈良時代中頃、信仰心の篤い聖武天皇からの勅命を受けた僧侶の行基によって高尾山薬王院が開山されている。

その開山の600年後に、京都の高僧俊源大徳が入山し、荒廃していた寺院を現在のような寺院へ改修した。この俊源大徳を薬王院では中興の祖とした。

中興の祖である俊源大徳は薬王院の東側にある高尾山琵琶滝での修行により、飯縄大権現の霊感を感得し、これが高尾山における飯縄権現(カラス天狗)信仰の始まりとなった。それ以降、本尊は『烏天狗』となり高尾山は薬師信仰と飯縄権現信仰の霊山として知られ修験道の場として発展してきた。

 

翔としては『魔物』や『神』と言われても

今までと勝手が違って全く訳もわからず、

二人にどんな風に協力するのかもわからなかった。

しかし、現在都内で頻発している老若男女の多くの行方不明事件は

その魔物の可能性が高いと遼真は言ってくる。

(つづく)

53.美波の恋?

その夜、慎一達が眠ってから、母が美波へ声を掛けた。

「美波、お昼会った阿部さん、優しそうな人だね」

「そう、何かあればサークルのみんなが彼を頼っていて大変だったみたい。

 彼は頼まれたら絶対に断らない人だから」

「そうなんだ。色々と小さい時から苦労してるんじゃないかねえ。そういう人は」

「そうなのかなあ。

 噂ではお嫁さんを貰って家を継がなくてはいかないからって。

 だから、お嫁さん候補を増やすためにとか」

「そんな事でそこまではしないよ。元々の性格が優しいのだと思うよ」

「確かに優しいけど・・・」

「だけど、きっと美波は、それを弱いとも感じるんだろうね」

「うーん、そんな事を思うのひどいのかな?」

「それは仕方ないのかもしれない。

 人間誰しも生まれて最初から強いわけではないからねえ。

 だけど優しさは元々最初からある性格だからそれは変わらないはず」

「いつかお父さんのように優しくて強い大人になれるかなあ」

「お父さんだって、最初から優しくて強かった訳ではないと思うわ」

「そうなの?」

「お母さんもお父さんと一緒になって色々と話したわ。

 本当にお母さんは、お父さん、それは美波のお父さんもだけど、

 一緒になって良かったと思ってるわ」

「二人とも良く似ていたの?」

「お母さんは二人の似ているところをあまり意識したことはないわ。

 だけど二人とも近くにいてすごく落ち着く人。

 お母さんやお前を一番に思ってくれている人って言う感覚が伝わってくるの」

「そうなんだ。いいなあ、お母さんは良い人に出会えて」

「お前もいつかはそんな人に出会えるわよ。

 他人に優しく精一杯生きている人を好きになればいいだけ。

 それに人間は少しずつ成長していくという事がわかっていればいいだけ」

「何か難しいけど、色々とたくさんの人を見てみるね」

「そうだねえ。あせる必要はないわよ」

「うん。期待しておくね」

「ふふふ、でも、先ずはファザコンを治す必要があるかもねえ」

「うーん、そうなのかなあ。何とかしてみる」

「まあ、ゆっくりとした気持ちでいればいいわ」

「うん」

 

美波はお風呂に入って部屋に戻るとベッドに横になった。

ふと阿部さんの顔が浮かんできた。

少し鼓動が早くなっている。

頬がほんのりと熱くなってきている。

今日会うまで何も思っていなかったはずなのに

急に彼を意識し始めた自分に気がついた美波だった。

 

昼間の出来事が思い出される。

偶然彼を見つけた時の驚き

自分へ向けられた彼の笑顔を見た時の嬉しさ

彼へ赤ちゃんを渡した女性を見た時のショック

赤ちゃんを抱っこしている姿を見た時の衝撃

隣の女性が彼の姉だと知った時の安堵感

美波の初めての恋心を母に知られたかも知れない恥ずかしさ

そのうちに眠ってしまっていた。

(つづく)

103.妖?行方不明者を探せ1

浅間別荘と葉山邸の特訓から新宿の事務所へ戻った二人は、

いつものようにソファに並んでテレビでニュースを見ている。

もう街は晩秋の装いで公園の木々の葉もちらほらと落ち始めている。

今日も都内で行方不明者の出ている事件が大きく報道されている。

そんな時、警視庁の飯塚警部から事務所へ来る途中との連絡が入った。

まもなく飯塚警部が事務所へ顔を出した。

「おっ、翔も百合さんもいつもいつも仲が良くて羨ましいね」

「ありがとうございます」

「実は本当に今困っててさあ。

 たくさんの事件を抱えてるのに捜査員が少なくてなあ。

 だから一向に捜査が進まない。

 少しお前に手伝って欲しいのだがなあ。今忙しいか?」

「忙しかったらここでゆっくりしていませんよ。

 もしかして連続行方不明の件ですか?」

「そうだ。調べても被害者の背景に共通点もないし、

 何か組織的な犯行とも思えないし、

 場所もバラバラに起こってるから関連がないとも思えるし・・・。

 ただ刑事の勘として何か起きてるような気がするんだ」

「わかりました。飯塚警部の勘を信じて動いてみます」

すぐに飯塚警部と警視庁へアスカを同行させ、

今まで刑事達が入手した情報も含めて行方不明事件情報を全てスキャンさせ、

データを事務所内の量子コンピューターのRyokoへ転送させた。

                                              

実際の話、日本国内では毎日のように行方不明者が発生しており、

非常に多くの身元不明の死体も出現している。

身元不明の死体に関しては

法医学者による検死がおいつかないため原因不明が圧倒的に多かった。

ただここ10日の間、

塾帰りの中高校生、

飲み屋帰りのサラリーマンの男性、

会社帰りの女性、

飲み屋勤務の女性などが連続的に行方不明になっている。

被害者の背景に共通点はなく、発生時間のみ同じで夜中だった。

翔は調査エリアを都内に絞り、Ryokoへ情報解析を指示する。

同時に目黒研究所内のスーパーコンピューターの優子と共同で

政府から許可されている経路にて警察のコンピューターへ侵入し、

都内の全ての監視カメラ映像の解析を開始した。

 

現在、一番信憑性の高い情報としては

世田谷区の千歳烏山駅近くで塾帰りの男子高校生の情報だった。

母親への留守電の声で

『今、塾が終わったからもうすぐかえ、ウワー、タス・ケ・・・』と入っていた。

その付近の同じ時間の監視カメラの映像を重点的に解析したが、

犯人らしき姿は映っていないし

被害者の姿も公園内の木々に隠れて見えなかった。

 

そこで最近の行方不明者の居なくなったであろう場所を

時系列にポイントしていくと

八王子、日野、立川、国立、国分寺武蔵小金井三鷹、吉祥寺、荻窪

中央本線沿いに東へ移動しながら発生していることが判明した。

最初の現場である八王子近辺を調査するも全く手がかりが見つからなかった。

ただ時間だけが過ぎて行った。

ある時、八王子の廃ビルの最上階の部屋で死体が発見された。

その死体は、暴力団関係者で最近行方不明者とされている人間だった。

廃ビルの取り壊し工事の依頼を受けて業者が下見をした時に見つけたのだった。

そのビルは郊外にあり長い間使用されていなかった。

死体の見つかった部屋は

窓ガラスも割れており雨風が入ってきている状況だった。

死体は白い紐状の物が足に巻かれ天井の梁から吊り下げられており、

その身体は白い糸状の物に巻かれ真っ白だった。

身体は体液が全て抜かれており、カラカラに干乾びてミイラ状になっていた。

傷は筒状の物を突き立てられたと思われる後頭部と腹部に穴が開いている。

その顔は目も口も大きく開かれ歪んでおり、恐怖を物語っていた。

 

都内には到るところで毎日のようにビル工事が行われており、

新しいマンションやビルが建っていくと同時に

古くなったマンションや商業ビルも点在して

そのまま放置されているケースも多い。

翔はRyokoや優子へ廃ビル中心の監視カメラ映像の再調査を指示した。

通常監視カメラは視線が地上に貼り付けられているため、

なかなか見つからなかったが何枚か怪しい影が見つかった。

警視庁も多くの行方不明を一連の事件とは意識しておらず報道も控えていた。

(つづく)

52.偶然の再会-望羊中山-

望羊中山で目的の揚げ芋を買って2階の休憩スペースに座る。

揚げ芋は1串にこぶし大の揚げ芋が3個刺さっており300円。

手に持つとずっしりした重さ、

噛むと外はカリッとして、中の生地はフワッとしている。

見た目のボリュームはあるが、

ホクホクのジャガイモの食感と

ホットケーキのような甘めの生地のため、

それほどしつこいこともなくペロッと食べてしまう。

子供達も人肌程度に冷めた一個を半分ずつにしてかぶりついている。

先に食べ終わった慎一が、濃厚ミルクソフトクリームを買って上がってきた。

北海道特有の牛乳の味の濃いソフトクリームで外れのないものだった。

子供達にも美波にも静香にも大好評で、買った2本を奪い合っている。

 

夏姫に揚げ芋とソフトクリームを食べさせていた美波は、

何気なく二階の窓から駐車場を歩く人を見た。

向こうからどこかで見た顔の男の人が歩いてくる。

運転に疲れたのか腕を高く上げて軽く回している。

よく見ると今年の春に卒業したサークルの先輩の阿部さんだった。

学生時代とは違って、サラリーマン風の短い髪型だったが良く似合っていた。

確か友達の芳賀さんから北海道でも有名な地元銀行に就職したと聞いている。

その時、彼も偶然こちらを見上げて視線が合った。

じっとこちらを見ていて、

彼は美波とわかったのか驚いた顔をしていたが笑って手を振ってきた。

その後に赤ちゃんを抱っこした女性が付いて来ている。

そして、彼へ赤ちゃんを渡してトイレの建物へと歩いて行った。

 

彼は赤ちゃんを抱っこしながらその場で女性を待っていたが、

トイレから女性が出てくると、美波達の方を指さして何かを話している。

その女性もにこやかに笑いながらこちらを見上げている。

美波の視線に気付いたのか駐車場の方を見ながら母親の静香が

「美波、あのお二人はお知り合いなの?」と聞いてくる。

「うん、男の人はサークルの先輩だった人だよ」

「へえ、珍しいこともあるもんだねえ。若いご夫婦のなのかしら」と呟いた。

なぜか一瞬胸がドキンとして、その自分に驚いている美波がいた。

 

やがて彼が赤ちゃんを抱っこして二階の休憩スペースへ上がってきた。

「あっ、こんにちは。僕は阿部と申します。

 やあ、日下さん、久しぶりだね。元気そうだね」

「はい、元気です。この子は妹です」

「へえ、日下さんに良く似て可愛いね」

「ありがとうございます」

「私は美波の母です。サークルではお世話になり、ありがとうございました」

「いえいえ、僕の方こそ日下さんにはお世話になってばかりで」

「そうですか?まだまだ子供ですからご迷惑をお掛けしましたでしょうに」

「お母さん、もういいから。

 阿部さん、その子は、阿部さんのお子さん?」

「ええっ違うよ。姉の子でね。今、姉が里帰りしてるんだ」

「目元が阿部さんにそっくりだからきっとそうだと思ったの」

「いやあ、この春に就職してすぐだから結婚はまだまだできないよ。

 今は覚える事の方が多いから毎日毎日叱られてばかりさ」

「阿部さんだったらきっと大丈夫と思います」

「ありがとう。その言葉を励みにがんばるよ」

「ははは、そんな大げさな」

 

少しして阿部さんのお姉さんが上がってきた。

「いつも聡がお世話になっています」

「さっきも話したように偶然会ったんだよ。

 姉さん、こちらサークルの後輩の日下美波さんとご家族」

「ええ、本当に偶然で、こちらも驚いています」

「双子ちゃんですか。いいなあ、二人とも可愛いですね」

「ありがとうございます。毎日アタフタしています」

「でしょうねえ。こちら一人でもアタフタですからねえ」

「でもその甲斐あって大きくされていますね」

「ええ、おかげ様で、

 それはそうとみなみ・さん・・・。うーん?あれっ?」

「姉さん、もういいよ。じゃあ、日下さん、またね」

 

「阿部さん、美波もそろそろ就職とかの時期が近づいてきていますので

 色々と相談とか乗って頂けたらと思います。よろしくお願いします」

「お母さん、もう・・・」

「日下さんはしっかり者だから大丈夫と思いますよ」

「まだまだ子供だと思って心配しています。

 でも母親としてそのお言葉は嬉しいです。ありがとうございます」

「もし僕で何か力になれる事があったら電話でもしてきて。

 電話番号はサークル時代と同じだから」

「はい、また何かあればよろしくお願いします」

「じゃあ、またね」

 

その後、車に戻り中山峠の景色を見ながら定山渓温泉街へと向かう。

定山渓温泉は札幌から日帰りできる温泉でいつも多くの観光客で賑わっている。

道路脇には足湯の施設もあってバスで来た人達は足湯を楽しんでいる。

そこから1時間ほど走り自宅マンションが近づいてきている。

今回は長期間の観光旅行だったが、何事も無く無事帰れた事に皆で感謝した。

(つづく)

102.特訓11(葉山編4)

「これより陳式太極拳の修行に入る。二人とも私の動きを見て真似なさい。

 これは格闘術としては勿論じゃが、

 体内で気を発生させその気を練るためのものじゃから正確に覚えなさい。

 では始めるぞ」

 

先ず隆一郎翁が動き始める。

一つ目の動きは

 ヨゥ ヂンカンダオトゥイ(金の杵で打つ)

 ランザアイ(衣服を束ねる)

 バイフゥリャンチィ(白鶴が翅を広げる )

 シェシン アォブ(斜めに歩く)

 ティショウ(膝を持ち上げて押し出す )

 チェンタン(前方に素早く踏込む )

 イェンスゥオ ゴンツィ(隠した拳を打ち出す)

 スァントゥイショウ(両手で押し出す)

 チョウディツィ(肘の底から拳を打ち出す)

二つ目の流れとして

 ダオジュエンコン(肘を巻き込みながら後方に退く)

 トイプ ヤーチョウ(肘を押さえつけて後方に退く)

 ヅゥオ ヨゥ イェマフェンゾン(馬のタテガミを分ける)

 ヅゥオ ヨゥ ヂンヂィドゥリィ(金の鶏が片足で立つ)

 ヨゥ リュウフォンスゥビィ(閉じる型)

 ヅゥオ タンビィエン(右手で鞭を持ち上げ、左に構える)

三つ目の流れとして

 ユィンショウ(両手で雲を押し出す)

 ガオタンマ(高みから相手を探る)

 ヨゥ ヅゥオ ヅァジャオ(足で蹴り上げる)

 ドンイィゴン(右踵で蹴る)

 ピィシェンツィ(体を右に回して相手を打つ)

 ペイズーガオ(背面を用いて後方を攻める)

 チンロンチュウスィ(青い龍が水から出る)

 バイユェンシェングゥオ(白猿が果物を捧げ出す)

 ヅゥオ リュウフォンスゥビィ(閉じる型)

 ヨゥ タンビィエン(左手で鞭を持ち上げ、右に構える)

四つ目の流れとして

 スアンチェンジャオ(両足を持ち上げてから踏み下ろす)

 ユィニュィチュアンスゥオ(美女が機織をしている)

 ショウトウシィ(獣の頭を抱え込む)

 チュエディロン(龍が地を這う)

 シャンプチィシン(前に踏み込み七つの力を集めて跳ね返す)

 トゥイプ クワフゥ(後方に退き虎に跨る)

 ヅゥアンセン バイリィエン(体を回し蓮の花のように円く蹴り上げる)

 タンドゥパオ(大砲のように力強く打ち出す)

 ヅゥオ ヂンカンダオトゥイ(金の杵で打つ )

 

翔は慣れない太極拳の各流れを何度も何度も実践し少しずつ習得していく。

おかしいところがあればすぐに隆一郎翁が直していく。

翔の身体がいつの間にか、

水が高きから低きに流れるように、

風が障害物をゆるやかに避けるように軽やかに動くようになり、

強い攻撃には、竹のようにしなりながらその勢いを側面や背面に流し

長い年月育った樹木のようにびくともしない強い足腰で

立てられている人形へ強く当たっていくようになった。

※この陳式太極拳の動きは老架式及び陳式太極拳36式を参考にしています。

 

最後は仙道の修練があり、それで一日の修練は終了する。

「この修行は、翔君が超能力を発揮した直後の、

 急激に落ちる体力とスピードを維持するための最初のステップじゃ。

 先ずは座禅の状態から身体にエネルギーを生み出し、それを身体中に廻す事で

 体力の維持ができ超能力を使っても変わらない戦闘力を発揮できるはずじゃ。

 最終目標は、戦いながら自由自在に体内で気を練り、

 衰えることない超能力や格闘術が行使出来ることだから目的に適うと思う」

 

仙道における「小周天法」のポイントは呼吸法である。

その呼吸法は、深呼吸によく似ているが、意識でコントロールする点が異なる。

『調息(別名腹式呼吸)の方法』として

 座禅を組み、下腹をグッーとへこませて、

 一度だけ体に溜まった濁気を口から吐き出す。

 そして吸気行動に入り、鼻からゆっくり息を吸い込む。

 吸気行動と同時に必ず下腹をふくらましていき、肛門をグッーと締め上げる。

 空気を吸いきったら、すぐ呼気行動に移る。

 呼気行動は準備呼吸のように口からゆっくり息を吐き出していく。

 呼気行動と同時に下腹をへこませ、肛門をゆるめる。

以上の要領で、

吸気と呼気を途中息が途切れることのないようにゆっくりとくり返していく。

はじめは吸・呼気それぞれ五ずつ数えながら行ない、さらに十ずつにし、

最後に呼気十・呼気十五ぐらいまで無理なくできるようになったら

次の「武息」に入る。

 

武息とは、武火呼吸といい、文息・文火呼吸と対になる大事な呼吸法である。

意識をかけた強い呼吸を武火、意識をかけない平穏な呼吸を文火としている。

ただし、意識をかけない平穏な呼吸とは、

無意識の腹式呼吸であり武息より難しい呼吸だった。

武息が本当にできるようになって、呼吸から意識をはずすと自然にこの呼吸になっているらしい。                                      

 

『武息呼吸の方法』として

 はじめに大きく下腹をへこませて、肺に溜まった濁気を完全に口から吐き出す。

 すぐ鼻から吸気にはいる。

 息を五つ数えながら吸いながら、下腹をふくらまし肛門を閉める。

ここまでの流れは調息と同じだが、

吸気を意識的に下腹へ送り込む(意識点を丹田へ降ろしていく)点が

調息とは異なるところだった。

それにより「気」は丹田まで下がっていく。  

                           

次に息を止め、

下腹・肛門の状態をそのままにして、丹田に意識を集中させる。(内視法)。

同時に耳で丹田の音を聞くようにする(返聴法)。

心の中で五つ数える。

数え終わったら、調息と同じように五つ数えながら、

下腹をへこませ肺の空気を、肛門をゆるめながら鼻から吐いていく。

 

武息により、下腹部に陽気が集まってくると下腹部がとても熱くなる。

この段階からさらに意識を強めていくと、やがて丹田に圧力のようなものが生まれ、

震えが全身へ伝わるようになる。

この時期になると、やがて気が丹田から上下へあふれて流れるようになる。

小周天法とは、丹田から会陰、尾閭(尾てい骨)、命門(腰椎、臍の裏)、夾脊(脊椎骨の中段)、玉沈(大脳の後方の下あたり)、泥丸(上丹田、頭部の中央)、印堂(眉間)、膻中(臍の上四寸二分の場所)、そして丹田と還る経路を気で廻す方法である。

最初の尾閭、夾脊、玉沈までを開放する時に大きな衝撃が伴うらしい。

泥丸にいたるところで呼吸法は文息へ切り替える。

泥丸にゆるく意識をかけていると気の熱さが涼しいもの変わり、

頭が冴えて記憶力がよくなる。 

そこから印堂、膻中、丹田へと廻す。これにより一周が完結する。

 

翔はこれらをベースに太極拳や自らの桐生派格闘術を使いながら体内で気を廻し、

超能力を使うたびに削られる体力を補充しながらの修行を続けた。

ある程度は出来るようになった頃、

研究所の京一郎から超回復剤『がんばる君』完成の一報が入った。

やはり継続時間は1時間が限度でその後は動けなくなるものだった。

(つづく)

51.洞爺から札幌へ-昭和新山熊牧場-

熊牧場としては「登別市の熊牧場」を知っていたが、

今回は近道の豊浦から札幌市へ向かう道を予定しているため

こちらの「昭和新山熊牧場」を見ることにしていた。

牧場の構成は、

「こぐま牧場」

「若くま牧場」

「大牧場」

「くまのアパート」

「あらいぐま牧場」

「人の檻」となっている。

先ずは入り口で販売されているクマ用の野菜やクッキーを買って、

「こぐま牧場」へ行く。

今年生まれの仔熊の紹介があって、

じゃれ合ったり、木登りの練習をしたり遊んでいる。

餌をやると小熊達が急いで食べに来る。

まだ子供なので小さくて可愛いが、

食べている様子を見るとやはり鋭い牙と爪が見えて怖かった。

次に「若くま牧場」へ近寄っていくと、

人間の持っている野菜などを発見し、

クマ達は立ち上がり、声を上げている。

少し先では手招きするクマもいる。

面白がってクッキーを投げると

急いでその場所へ走るクマ達の姿が見える。

そのほかグループで遊んだり、

のんびり寝転がったり、

じゃれ合ってお相撲(喧嘩?)をとっていたりしている。

そのクマのひょうきんな姿に静香も美波も笑っている。

 

「大牧場」は大人のクマばかりで、

そのエリアに突き出されて作られた「人の檻(特別観察室)」に入ると、

鉄格子以外遮るものがないため目の前にクマの姿が見える。

クマは慎一達の持ってる食べ物の匂いに誘われて近寄って来る。

とたんに強い野生の匂いと共に

ゴシゴシした毛並み、

開かれた手には大人の中指ほどの長さの太い爪、

開けられた口には人間の親指くらいの太さの鋭い牙が目に入った。

そして、クマ同士が餌を求めて喧嘩を始めた。

『グワッ』『ブホッ』『ガウッ』などの叫び声やその息遣いが聞こえてくる。

さすがに静香も美波も怖くなったようで子供達と共に急いで檻から出ている。

北海道では結構頻繁に民家付近へのクマ出没の新聞報道がされているが、

もし本当に目の前にこのクマが出てきたらと考えると絶望的な気持ちになると感じた。

 

実家や仙台に住む義母へのメロンとトウモロコシの配送手続きも済ませ出発する。

熊牧場を出発し、北上し洞爺湖畔へ突き当たりを左折し

洞爺湖温泉、壮瞥温泉を過ぎて洞爺湖南岸を走る。

洞爺国道230号線に合流し、札幌へと向かう。

途中、東側に大きなルスツリゾートの遊園地が見える。

子供達がもう少し大きくなったら来たいものだと皆で話し合う。

羊蹄山の美しい形に惹かれながら喜茂別町内を走り一路「望羊中山」へ向かう。

「望羊中山」は、『峠の揚げ芋』が有名で、

その揚げ芋を一度食べてから何度かドライブで訪れている。

(つづく)

101.特訓10(葉山編3)

翌朝はいつものように準備運動をして筋肉をほぐしてから朝食を採り、

小休憩の後、太極拳の修行に入った。

師匠はもちろん『館林隆一郎翁』。

百合も翔の隣で一緒に修行するつもりでならんでいる。

「では、これから太極拳の修行に入る。

 先ずは姿勢。

 これは全ての太極拳に共通する姿勢の注意点と要領だから見ていなさい」

 

隆一郎翁が、最初の姿勢(起勢:チーシー)となる。

「二人とも向かい合わせになりなさい。そして私のこの姿勢になりなさい」

二人の間に入り、姿勢を模範し説明しながら細かく一つ一つ姿勢を直していく。

 

一、虚領頂勁(きょれいちょうけい)

  首をまっすぐに立てること。

  顎を引き首すじの力を抜いて頭頂部が吊り上げられているよう意識を持つ。

二、尾閭中正(びろちゅうせい)

  尾閭は、尾てい骨の先にある経穴のことで、お尻をやや前に出し、尾閭と頭頂部が

  一直線になるような姿勢となる。

三、立身中正(りっしんちゅうせい)

  頭頂部と尾閭が一直線にすることにより、頚椎、脊椎、腰椎の関節に余裕ができ、

  勁の流れがなめらかになる。この直線が運動の軸となる。

四、円襠(えんとう)

  襠とは、股のことであり、内股のラインを円形にすること。

五、含胸抜背(がんきょうばっぱい)

  勁を胸に溜め、背中へ流す事に意識し、胸を張らずに背中を張る姿勢。

六、沈肩(ちんけん)

  肩を沈めること。肩があがることによる勁の遮断を防ぐ姿勢。

七、墜肘(ついちゅう)

  肘をあげないこと。肘が上がることによる肘での勁の遮断を防ぐ姿勢。

八、二目平視(にもくへいし)

  両目を水平にすること。左右に傾くことによる勁の流れの偏りを防ぐ姿勢。

九、全身鬆開(ぜんしんしょうかい)

  リラックスさせること。身体中に勁がなめらかに流れ、身体のいたるところへ勁を

  集中させることができるようになる姿勢。

十、鬆腰(しょうよう)

 『人体の要』といわれる腰を柔らかくすることである。

 

この10の注意点は、太極拳の姿勢への基本中の基本であるが、

今まで習ってきた格闘技とは異なる筋肉や骨の使い方で

姿勢一つでも集中していないと完全なものになっていないことに気がついた。

先ず、色々と身体を動かす前に全身の姿勢に意識を配り完全に覚えることとした。

しかし二人とも元々格闘技を習得している身なので徐々に自然体として立つようになった。

※この陳式太極拳の動きは老架式及び陳式太極拳36式を参考にしています。

(つづく)